犬(きみ)がいるから 村井理子

2018.7.15

24自己表現?

 

 理解できない。なぜハリーがあんな行動を取るのか、まるで理解できない。優しくて、賢くて、天使のようなハリーが、なぜ、あのようなことをするのだろう? 私のおねがいだったらなんでも聞いてくれるはずの、あの愛らしいハリーが、なぜ? どう考えてもわからない。不可解過ぎる。
 散歩は足りている。ドッグフードだってたっぷり食べている。ストレスもないはずだ。それではなぜ、ハリーは子ども部屋のベッドの上で用を足すのか!? 最近では週一回ぐらいのペースで犯行は重ねられている。
 最低だ。本当に最低の気分だ。散歩だって真面目に行っているし、家の中にはハリー専用のトイレを二カ所も設置してあるし、日中何度も庭に出して遊ばせているというのに、私の一瞬の隙をついて、ハリーは子ども部屋に忍び込み、そして一瞬のうちに用を足して走って出てくる。
 部屋のドアに鍵をかけたらいいのではと思われるだろう。しかし、鍵をかけたら最後、ハリーはドアを壊すだけだ。ドアの前に物でも置いて侵入を防げばいいと思われるかもしれない。それはその通りだが、そうすれば子どもたちが部屋に入るたびにその防御壁を移動することになり、そして小学生男児がそれをしっかりドアの前に戻すことなどありえない。一度、クレートを置いたことがあったが、ハリーはそれを必死に押しまくって鼻の頭をすりむいただけだった。
 それであれば、用を足すために、頻繁に外に出せばいいじゃないかと思いますよね? その通りであって、実際、ハリーは午前に二回、午後にもタイミングがあったら何度でも庭に出しているし、散歩には一日三回も行っている。つまり、常にタンクは空の状態になっているはずなのだ。
 それなのにハリーは、忍者のように子ども部屋に忍び込み、ベッドの上で悪事を働く。必ずベッドの上だ。一度、現行犯逮捕したことがあるが、ベッドの真上で堂々と力んでいた。本当に許せない。その都度、私は必死になってハリーを叱る。ハリーは頭を垂れて、伏し目がちに反省してみせるか、時には丸い目を見開いてアザラシのような表情でじっと見返してくることもある。いわゆる、逆ギレ状態だ。この時のハリーの心理が一向に理解できない。なぜ飼い主が犬に逆ギレされねばならないのだ。

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 もちろん、ベッド本体には何重にも安全対策をしている。防水シーツ、防水マットは当然のこと、ベッドカバーまで防水タイプで揃えている。これはむしろ小学生男児対策であって(お友達が山ほどやってきて、駄菓子を貪り食べる)、ハリーだけのためではないが、最近この防水性能を凌駕するほどハリーの犯行は過激になってきている。そのため、ほぼ毎週、すべてのベッドリネンを丸洗いせねばならず、とても苦労しているのだ。
 夫は、「外に出す回数が足りていないっていうことでしょうよ。それ以外考えられないし、オレが家にいるときは一度もそんなことはしない」と言うが、夫が家にいるときでも、ハリーは堂々とベッドのど真ん中で力んでいる。それを私が片付けているだけの話だ。たぶんハリーは、常にある程度、腹に備蓄しているような状態なのではないだろうか。必要なときにさっと出せるように、タンクに少し残しているのでは? それでなければとうてい理解できないのだ。なぜそこまでベッドの上にこだわるのだろう。
 犬好きの友達に話すと、「ああ、それは嫉妬だね」と言っていた。「子どもに嫉妬してるんでしょ、きっと。ハリーだってベッドが欲しいって思ってるんじゃない?」ということだった。正直、これ以上どうやってハリーを満足させればいいのかわからない。自分のベッドが欲しいもなにも、ハリーは私のベッドをまるで自分のベッドのように自由に使っている。私の肩身が狭いほどだ。そのうえ、家中を自由にほっつき歩き、ところ構わず寝転がっている。誰の指図も受けず、日がな一日、自由を満喫している。いわば王様のように暮らしているハリーを、これ以上どうやって満足させればいいのだ。
 薄々感じているのは、ハリーの「仲間に入れてもらえない寂しさ」である。わが家に遊びにやってくる小学生たちと、家の中だけではなく、湖や川、広場まで一緒に行って、そして思いっきり遊びたいと思っているのではないかと私は疑っている。自分も仲間の一員になりたいのだ。いつも置き去りにされる寂しさを、子どもたちがいなくなった部屋のベッドの上で表現しているのではないか。アートか? そうだとしたらあまり強く叱ることもできないの? いや、人間と暮らす以上、その手法はルール違反であって、改めてもらわなければなるまい。私とハリーのベッドをめぐる攻防戦は今日も続いている。

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この連載は月2更新でお届けします。

次回2018年7月30日(月)掲載