犬(きみ)がいるから 村井理子

2018.11.30

32愛の別腹


 飼い主の様子はどうでもいいんだよという声が聞こえそうではあるが、私はとても元気に暮らしている。体調が大変よく、主治医からも「なんだかすごく調子がよさそうですね」という言葉を頂いているほどに元気である。毎日毎日飽きることなく、ハリーがかわいい、ハリーを愛していると言い続けているため、子どもたちにまで疎ましがられている。そして当のハリーも、元気で充実した日々を送っている。長時間の散歩とおやつの野菜スティックによるダイエットに成功し、精悍な姿が戻ってきた。まさに、イケワンここにありといった風情である。もうすぐ二歳、ますます充実の男前だ。よっ! 近江の黒豹!

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 それにしても、この、心の底から源泉のようにとめどなく湧きいづるハリーへの愛は、枯れることをしらないのだろうか。毎日が愛おしさの発見である。角度が変わればイケメン度が変わる。アザラシに見える日もあれば、ヒュー・グラントの日もある。とにかく、ハリーの存在そのものが、私を幸せにしてくれているとしか思えない。毎日こんなにも心が温かくて、幸福でいられるのはハリーのおかげだ。脳内で何か出ているかもしれないが、それを出しているのがハリーの存在であると信じて疑わない。毎日の奇跡をありがとう……としか言えない。しかし、そんな私を見かねた次男が、先日私にこう言った。「最近のママはまるで、じいじと同じや」と。
 私の義父である三郎a.k.aサブちゃんは、家族に対する愛が募り過ぎて空回りするタイプの人で、孫である息子たちから恐れられている。わが家の留守電にはサブちゃんからの熱のこもったメッセージがいくつも録音されている。彼の口癖は、「目の中に入れても痛くないほどかわいい」というもので、それを言われる度に孫である息子たちは、表情も変えずに「ハイハイ」と機械的に答えている。
 ちょっと待て、一緒にするなや! と思わず反論した。私のハリーへの愛が、孫に対する義父のそれと同じであるなんてこと、絶対にあり得ない。目の中に入れても痛くないとか、だからなんなんですか? 私なんて、ハリーを目の中に入れて鼻の穴から出しても全然痛くないですね。むしろ健康法ですね、それは。私のハリーへの愛を軽く見積もってもらっては困るのだ。
 私はただかわいがっているだけではなく(いや、義父も孫をただかわいがっているだけじゃないと思うけど)、毎朝毎晩の散歩も欠かさない。フードだって、選び抜いたものを与えているし、自分は面倒くさいからシリアルで済ませる朝でも、ハリーにはゆで卵とリンゴを与えたりするほど、彼の世話をしているつもりだ。飼い主だから当然だと言われればもちろんそうなのだが、私が主張したいのは、大型犬の飼育は、かわいいというだけでは難しいということだ。それでは足りないのだ。この違いがわかるか、息子たちよ!?
 寒い日や雨の日には散歩が辛いと思う時もある。それでも、がんばって行く。それは、ハリーのためだけじゃない。自分のためでもある。一人と一匹のゆったりとした時間はかけがえのないものだ。それはとても親密で、宝物のような時間なのだ。もうすぐ二歳を迎えるハリーは、力いっぱいリード引かないことを覚えてくれた。私にぴったりと寄り添って歩くことを覚えてくれた。この感動がわかる? この奇跡があなたに見えますか? かわいがるっていうのはこういうことだと母さんは思うんです!!!(号泣)
 辛いと思う日も確かにあるけれど、(リードを引っ張らない)大型犬との散歩ほど楽しいものはない。ハリーの大きな前脚が金色の枯れ葉を踏みしめながら、ゆっくりと前に進む様は信じられないほど美しい。横を歩く私を何度も何度も見上げては表情を確認し、歩調を合わせてくれる彼は、最高のジェントルマンだ。目が合うたびに、ハリーへの愛が募る。愛が溢れて、結婚披露宴のシャンパンタワーのようだ。そのタワーのてっぺんの、きらきらと輝くグラスを手にとって、こう高らかに叫びたい。

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平成最後のイケワンに乾杯……!

 
 なんでそんなにかわいいのかよ、まg……とか、「なんで」と疑問に思う隙すらないほどの愛を、私は犬を飼ってはじめて知った。家族や恋人への愛とは別の愛がこの世に存在するのだ。すなわち、「犬愛」である。犬好きの人だったら絶対にわかってくれる。犬への愛は別腹なのだと。


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この連載は月2更新でお届けします。
次回は12月15日(土)掲載です。