犬(きみ)がいるから 村井理子

2017.8.30

07大型犬にご用心!

 

 「大型犬っていいですね!」、「私も飼いたくなりました」と声をかけられるようになって、その度にとてもうれしくなる反面、なにか使命感のようなものを抱くようになった。何に対する使命感かというと、大型犬飼育は想像以上に体力・気力を奪われるものだと声を大にして言わなければならぬという使命感である。みんな、落ち着いて聞いてくれ~! 大型犬はしんどいぞ~!
 私が住んでいる琵琶湖西岸は、山あり川あり湖ありの、運動させやすい環境にあるにもかかわらず、それでも大型犬の飼育は一筋縄ではいかない。散歩させる場所があるから、毎日しっかり散歩させたからといって、すべてが解決ではないことを学んだのが、ここ半年の私である。毎日ある程度の時間をかけて運動をさせるのは、いわば必要最低条件だ。問題はそう単純ではなくて、大型犬の飼育は、飼い主のライフスタイルを根底から覆すほどの難題に立ち向かうことなのだ。
 それでは具体的に、何がそこまで大変なのかを書いていこうと思う。まず、私が一番困っているのはその怪力っぷりだ。ハリーの強い引きで、ギシギシと音を立てるリードを握りしめながら、ハリーの後頭部をひっぱたいてやりたい衝動と戦うのに忙しい。お前は馬か! 猛獣か! と、怒り心頭で歩く。心優しき大型犬飼育の先輩のみなさんが、「一歳を過ぎたら落ち着くから」、「もう少しだから」と励ましてくれる。でも、「そういえば私は肩が外れた」、「お友達が手首を骨折した」、「顔からアスファルトの道路に突っ込んでズルむけになった」など、不安になるような情報も提供してくれる(なぜか満面の笑みで)。私もいつか怪我をしそうな気がするので、最近はこの強烈な引っ張り癖を直すべく、試行錯誤を繰り返している。21032437_10154673129491594_8425710026042415695_n
 次に私が大変な思いをしているのは、そのサイズと重さだ。大型犬なんだから当然じゃないですか~と言われてしまうと壁に頭をぶつけたくもなるが、とにかく、ため息が出るほど重い、大きい……。ハリーは未だに足を上げておしっこをしない、いわゆる子犬状態だと思うのだけれど、それでも30キロは優に超えている。先日、背後から近づき、おもむろに抱き上げてみたが、持ち上げることができたのは、上半身と前足のみだった。どれだけ力を込めても、後ろ足は地面にしっかりとついたままで、なぜか異様に胴体が伸びただけだった。本犬は「何をしているんだ、この人」とばかり、呆れた様子。こんな感じのサイズ感なので、全体重を預けられると本当に重い。そしてハリーは私の膝の上に乗って寝るのが好きだ。エコノミークラス症候群が心配である。ついでを言えば、いびきも酷い。
 そして次に私が困っているのは、大型犬あるあるの、誤飲、誤食だ。犬はそもそも好奇心旺盛な動物だけれど、わが家のハリーときたら、とにかく、昼寝以外の時間は延々と家中を徘徊し、おもしろいものを見つければすぐさま口に入れ、弾丸のようにダッシュする。ヒャッハー! おもしろいもの、みーつけた! とばかりにお気に入りの場所に戻り、噛みまくるのだ。もちろん、そこで私は「ハリー!」と叱るわけだが、ハリーは私に叱られることすら楽しんでいるので、私の声を聞いた瞬間、その丸い目に、めらめらとイタズラの炎が燃え上がるのがはっきりとわかる。ハリーは、心の底からその状況を楽しんでいる。これは永遠に終わらない、私とハリーの追いかけっこだ。
 そして困っていることの最後を飾るのは、飼育コストだ。ハリーは毎月、大量のドッグフードを消費する。ドッグフードだけではない。野菜、果物、おやつなどなど、相当量を食べる。食費だけではなく、当然、健康管理にもかなりの費用がかかる。フィラリアの薬、ダニの薬、予防接種、健康診断などなど、一年を通じて何かしらのケアが必要になってくる。動物を飼育するのだから、飼い主が当然覚悟しなければならない費用だということは承知で、私が困っているのは、はて、どうやってその費用を捻出しようか、その部分なのだ。というわけで、せっせと働いているのであります。20992696_10154673129361594_8996667370360944655_n
 毎日のハリーとの生活の大変さから、色々と愚痴めいたものを書いた。でも、ひとつだけ言えるのは、ここまで手がかかっても、生活をがらりと変えられても、やはりハリーはかわいい。とんでもなくかわいい。んぐぁぁ、かわいいっ! 大きな顔でじっと見つめられると、すべてを許してしまう。どこまでもついてきて、ドスンと私の横に座り、真面目な顔をしているハリーを見ると、私のところにやって来てくれたことに感謝しかない。大きなぬいぐるみみたいなハリーと一緒にいるだけで、本当に幸せなのだ。犬バカもここまでくると相当深刻である

 

 

この連載は月2更新でお届けします。
次回2017年9月15日(金)掲載