その店は、吉祥寺駅の南口に、ひっそりとあった。
 レトロといってしまえば褒めすぎの、どちらかといえば、ただ古い店だった。昔はフルーツパーラーだったと思うのだが、もう特殊なメニューはとうにやめてしまって、一般的な喫茶店メニューの店になっていた。
 それでも、ケーキだけは職人を抱えて、自前のものをショーケースに置いていたのだが、それもいつか消えてしまった。

 

 理由はいくつか考えられるが、おそらく最も説得力があってシンプルな理由は、美味しくなかったからだと思う。何種類も食べたことがあるわけではないが、まあはっきりいって大した味ではなかった。吉祥寺では客が群がる有名店でも大したケーキは出してなかったりするので、必ずしも美味しくないから客が来ないということもないのだが、そこのケーキは、美味しくなさすぎたのだ。
 美味しくないのは、ケーキだけではない。およそなにを飲んでも食べても、美味しいものはなかった。それが経営方針であるかのごとく、見事にそれは統一されていたのだ。
 ぼくは何十年も、そこの泥水のようなコーヒーを飲んでいた。それでも特に文句はなかった。そこには、コーヒーを飲みにいっていたわけではなかったからだ。

 

 店の外壁は、数十年前にはさぞかしモダンだったと思われるペパーミントグリーンに塗られていた。もっとも、この何十年かの間に何度も何度も塗り重ねられたらしく、端のほうはミルフィーユのようになっていた。

 

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