ある日、その店に突然新人が入った。それも、若くて飛び切り美人でスタイルがよくてお洒落なウェイトレスが増えたのだ。どこのモデルかと思うような可愛い子だったのだ。
 そのころ、流行が何回りもして、また少しこういう古い店に陽が当たり始めていた。若い女の子向けの雑誌でいろんな街のレトロな店が紹介され、その美人もこんなお洒落な店で働きたいと思って店に通っていたらある日ドアにウェイトレス募集の張り紙を見つけ、すぐに応募して採用されたのだ。
 この店は、慢性的に人手不足ではあった。客が少ないとはいっても、ケーキも作り各種飲み物食べ物もひと通り揃えていたので、ある程度の人手は要る。しかし、経営者の方針は経営に金をかけないという姿勢で貫かれていたので給料は安く、料金を求められる求人雑誌などには求人は出さず、もっぱら張り紙と職安に頼っていた。だからなかなか人が集まらなかったのだ。そこにこんな美人がやってきたのだ。飛んで火にいる夏の虫というわけだったのである。
 ぼくはもちろんすぐに美人と仲良くなり、ついでにその店の内部情報を引き出すことに成功した。

 

 ぼくはその店では陰で「じゅんちゃん」と呼ばれているらしい。美人が出勤すると、さっきじゅんちゃんきたわよ、とかオバサンが教えてくれるらしい。
 ドサ回りヘアのオバサンは、近所の駅のアパートでご主人と2人暮らしらしい。2人にはいろいろとドラマはあるのだが、ここには書けない。しばらくしてもうひとり増えたオバサンウェイトレスは、さる温泉で長く仲居をやっていたが、そこを辞めて東京に出てきたらしい。耳があまり聞こえなくて、唇を読んで注文を取るという高等技術を持っていた。ココアとコーヒーの判別が難しいという話だった。彼女についてはいろいろとドラマもあるのだが、ここには書けない。書けないことはいろいろあるのだ。

 

 しばらくしたら、またひとり若い女の子が増えた。そんなに増やさなくてもいいんじゃないかと思ったのだが、シフトの関係とかあったのかもしれない。
 その子は二十歳くらいだったのだが、なんだかぼーっとした子だった。注文してもそれが理解できているのかどうか、こちらが心配になるような反応だったのだ。経営者が職安から紹介されたらしいのだが、面接してもほとんど喋らなかったので慎み深い子だと採用したら、そうではなかったらしい。経営者は職安に文句をいったようだが、自分で面接もしているのにとはねつけられたようだ。
 美人は、いうまでもなくしばらくするとここがそうお洒落な場所ではないということに気づき、離脱していった。ちょっと反応の鈍い子も、長くは続かなかった。
 オバサン2人が、その後もずっと残った。
 ぼくは相変わらず一番奥の2人席で仕事をしていた。自宅もあって仕事場もあって、なぜ喫茶店に何時間も籠もって仕事をするのかといわれるのだが、そういうものなのだ。若干のアウェイ感と緊張が、考える作業には必要だったりするのだ。

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