第1回 京成立石篇
「一心不乱にモツを喰らい梅割りを呑む」の巻

マイ・ホームタウン・タテイシ

東京一番星の酒場。 左党たちの聖地、パラダイス! それが、京成立石です。

あなたが、昭和薫る下町が好きならば、 あるいは、ざっかけない大衆酒場を愛しているならば、 はたまた、知らない世界にトリップしてみたいと思うならば、 この街、立石にぞっこん! 惚れちゃうこと請け合いです。

あ、申し遅れました。 このたび、硬派な亜紀書房さんのサイトで、飲み食いの記録というヒジョーに軟派な文章を綴らせていただくことになりました。ひとつ、よろしくお願いいたします。

♪Doo, doo, doo, doo, doo, doo, doo, doo
Lou Reedの「A Walk On The Wild Side」を軽快に口ずさみながら、降り立った京成立石駅。とたんに、肉の揚がるにおいがふわりと鼻腔をくすぐる。何度来ても、嬉しくなるこの香り。 「駅からもういいにおいがするって、どういうこと!?」 軽いカルチャーショックを受けているのは、今宵の同伴者、妹分のマキちゃんです。 鹿児島出身20代のピチピチギャルにして、ひなびた酒場を愛するナイスセンスの女の子。立石は初体験とのこと。上等上等。ここでロストバージンしちゃってね♪

駅チカの立石仲見世商店街は、夕餉のおかずを物色する主婦のお姉さんたちから、ちょいと一杯ひっかけて帰ろうか的なおじさまら、種々雑多な人たちで賑わっています。商店街が元気いっぱい! それもまた、立石ならではの風景。 私が“立石詣で”をするようになった頃は、この街の知名度はまだまだ低く、「酒を呑みに立石に行く」と言うと、周囲から「立石? どこそれ?」と言われたものですが、テレビや雑誌がやんややんやと取り上げるようになり、一気に有名に。週末ともなると、あちこちから観光客がどっと押し寄せるようになってしまいました(涙)。

でも、アタシの立石は、どんなに有名になろうが、人がたくさん来ようが、昔から変わらぬ佇まいで、迎え入れてくれます。立石に来ると、「ただいま」っていう気持ちになります。あぁ、マイ・ホームタウン・タテイシ。

ちょっとだけ予習して行ってね

さて、マキちゃんの記念すべき立石バージンツアー1軒めは、東京もつ焼きの最高峰、『宇ち多”』。ここを聖地と崇める信奉者は、「宇ち入り」を合い言葉にしているとか。何十年と通っている先輩方とは違い、私らペーペーの人間には、「討ち入り」の気合いと勢いが必要なのです。

のれんの向こうに並ぶオジサマ方の背中

すでに、並んで待っている人が4人。のれんの向こうには、至福の時を過ごしているであろうオッサンたちの背中が見えます。さすがの人気。でも、ここではみんな長居しない(させてもらえない)ので、並んだって苦になりません。

勝手に私が「宇ち入り」のルールとして課していることが2つあります。

①できるだけ地味な格好を心がける
②そして荷物は最小限に

ゆえに、我が「宇ち入り」スタイルは、すすけた色の上下に、手ぶら。現ナマをポッケにつっこんで、というもの。『悶々ホルモン』の著者、佐藤和歌子さんも同様のことを書いておられましたが、周囲の雰囲気となじむように、余計な荷物で迷惑をかけないようにという配慮、というか遠慮がこの店に対してありまして。だって、本来、ここは男たちの聖地。「おじゃまいたします」という姿勢を忘れないようにしたいと思うのです。普段は代官山のテキスタイルの店で働くオシャレGirlなマキちゃんに「地味な格好で来い」と事前に告げなかったことを心配していましたが、ネイビーのショートジャケット姿を見て、グッジョブ。

初めて訪れたときには、お品書きには「もつ焼き」としか書かれていないのに、創業から何十年と燻され、どこもかしこも飴色になった店内を「レバ塩 若焼き」「アブラ 少ないとこ タレ よく焼きで」などと、暗号のような注文が飛び交っていて、ビビりました。回数を重ねても、いまだに注文時には緊張が抜けません。常連さんのサイトで予習して臨むことをオススメします。 私も先人に倣い、電車のなかで、「ナンコツ生 お酢」「ハツ素焼き 若焼き お酢」「ガツ 若焼き みそ」などとぶつぶつと反芻、予習は完璧です。

*若焼き=レア。よく焼き=ウェルダン。素焼き=焼いた具に醤油味のタレをつける。お酢=仕上げにお酢をたらす。みそ=煮込みの汁を焼いたモツにかける。

嗚呼、梅割り

「何人? 二人? うしろから奧入って」 スキンヘッドが凛々しい店のあんちゃんに案内されて、テトリスのように入り組んだカウンターの奧に腰をおろす。店内には50人前後のオヤジたちが黙々と酒を呑んでいる。背広率低し。女子率さらに低し。女子二人組は私たちのみ。ま、いつもだけどね。

ここに来たからには、妹分に「梅割り」(180円)を体験してもらいたい。最初はビール小瓶(360円)をもらって、迷わずいつも頼む保険銘柄、煮込み(180円)を注文したが、「終わったよ」とのこと。煮込みをつつきながら、ナマもの、焼き物(もつ2本で180円)を考えるのが通常パターンだったので、軽く動揺。あんちゃんに、「あるのは、レバ、ハツ、ガツ、アブラだ」と早口で言われ、大好きな「ナンコツ生 お酢」を口にできないのかとしょんぼり。この日の入店18時30分。平日は14時から営業している人気店ゆえ、日が暮れる頃には「品切れ御免!」で、のれんを下ろしてしまうこともしばしばなのです。時、すでに遅し。

気を取り直して、あるものを片端からお願いすることに。 「レバ塩 若焼き」「ハツ素焼き みそ」「ガツ素焼き お酢」 と、ここまでの一連の流れをじっと観察していたマキちゃん。 「なんか…ハードル、高いね。言葉がさっぱりわからん」とちょっと緊張気味。

ハイ。たしかに20代の女子が来るには敷居が高いかもしれません。 今年、四十路に突入する私でも、易々と越えられるものではありません。

でも、ビールから梅割りに切り替えたあたりから、ふっとなごむ瞬間がやってきます。 緊張でかちこちになった己が、ゆるゆるとほぐれていく。 キビキビと立ち働く兄貴たちを眺めながら、昭和の風情そのままの風体の店内に、肩寄せ合うようにモツを喰らうオヤジさんたちを眺めていると、「あぁ、やっぱり好きだなあ。オトナでよかった」としみじみ思えるのです。 梅割りとは、宝焼酎をグラスになみなみと注ぎ、そこに「梅」とみんなが呼んでいるナゾのシロップをちょろちょろっと垂らしただけ。つまり、ほとんど生焼酎ということです(怖っ!)。 マキちゃん、グラスのふちにくちびる突き出して酒をすする。「くらくらするね、コレ!」と目をパチクリ。よしよし、これで立石の洗礼、一発めは通過ヨ。ところで、今宵はありつけなかった煮込みですが、この煮込み、豆腐やコンニャク、大根、ネギなど、ヘルシーを感じられる要素は一切ナシ。ひたすら内臓肉のみの獣祭り。このストイックさが最高なんです。

 

店の兄貴たちの客あしらいも素晴らしいのです

 

余計な会話もせず、一心不乱にレバ、梅割り、ハツ、梅割り、ガツと食べては呑み、呑んでは食べとやっていると、お隣席のごっつい指輪のお兄さんから、「はじめて来たんだったら、アブラタレのよく焼きを食べな」との指南が。二人して初心者マークをおでこに貼っつけてたのが見えたのでしょう。ありがたく、お兄さんが頼むタイミングに合わせて、マキちゃん勇敢にも「アブラ タレ よく焼き!」と発声。おー、こいつ度胸ある。一人『宇ち多”』デビューも近い!? 感心している間に、『宇ち多”』名人のお兄さん、ついーっと梅割りを飲み干し、追加を注文。聞けば、「オレは、梅5ツに5皿と決めてんだ」(注・『宇ち多”』では杯を○ツと呼び習わされている)。強えぇ。ここでは、店の兄貴たちが客の様子を見ながら、「今日はこれで終わりね」などと牽制してくれ、平均、3杯で打ち止めのことが多い。私の最高記録は4ツ半だけどね(こっそり)。

まだまだ呑みたかったけれど、立石バージンのマキちゃんを連れ回さないといけないので、この日は2ツで打ち止め。いつか、『宇ち多”』名人のお兄さんのように、『宇ち多”』だけを堪能しに、立石に来てみたいものですが、目移りするほど、胸キュン酒場が点在する立石。1軒だけでは終わらないのが常でして。すでにいい気分で、徒歩10歩の次の店に向かうのでした。(続く)

宇ち多”

営業時間、定休日、住所:  ……今回はお店の詳細は掲載できません。

著者プロフィール

山田真由美

時々「どよう酒場」(http://doyou.jp/)店主。おもに編集者。伊豆・下田のワイルドな血を携えて、書籍や雑誌の企画から編集・執筆まで手がける。年季の入ったカウンターで、年季の入った店の主を眺めながら呑むのがいちばんの幸せになりつつある。とうとう四十路突入!