大胆仮説! ケンミン食のなぜ 阿古真理

2021.5.13

13大阪人はなぜミックスジュース好きなのか?

 

ここ10年ですっかり東京の街に溶け込んだ「ジューススタンド」。ところが、大阪でははるか昔からジュース文化が根付いていた。
それはなぜか?

 

 

 コロナ禍の東京で、密かに増えているのがバナナジューススタンドだ。砂糖不使用を謳ったり、バナナの品種別のジュースを用意する店が目立つ。果物をミキサーで絞るジューススタンドが東京の都心に出現したのは、確か10年ほど前。その後数年してから、コールドプレスジュースが流行る。東京に住んで20年ちょっとの私は、それ以前に生ジュース文化があったかどうかは知らない。
 一方、大阪では長年、バナナメインで缶詰の桃やミカン、牛乳などをミキサーで混ぜたミックスジュースが愛されてきた。発祥の店は新世界の喫茶店、千成屋珈琲。1948年に果物屋を開いた初代が、売れ残った果物がもったいない、とジュースにして牛乳を加えたらヒット。1950~1960年代に関西の喫茶店に広がったと、日本経済新聞電子版2019年10月17日の記事にある。同店は2016年に一度閉店したが、白附克仁さんが受け継いで店を復活させた。この白附さん、独自の哲学と語りが面白いと、『秘密のケンミンSHOW』(日テレ系)にくり返し登場し、大阪文化を語っている。
 もう一つ有名な老舗が、阪神梅田駅そばの元祖大阪梅田ミックスジュース。『ハーバー・ビジネス・オンライン』2019年1月26日「平成とともに「消える泉」と「生きる泉」――明暗を分けた2つの「梅田名物」」によると、1969年に日本初のエキナカジューススタンドとして開業。同店の成功により、京阪電鉄子会社がジューサーバーを設立。やがて東京にも進出し、JR東日本子会社がハニーズバーを始める。ジューサーバーやハニーズバーは、東京で見かけた人がいるだろう。これらのチェーンが、東京のジューススタンド人気に一役買っているかもしれない。
 元祖大阪梅田ミックスジュースは、新入社員研修を受けていた折、飲みに行ったことがある。阪神沿線で育った男性が「うまいジュースがあるねん」とすすめるので、同期みんなでゾロゾロついていったところ、喫茶店ではなくスタンドに到着して、みんなで不満を言ったのを覚えている。
 関西でミックスジュースは、老舗喫茶店の定番メニューである。離れて20年経つので、今の子どもたちがミックスジュースに親しんでいるかはわからない。しかし、昭和後期に育った私は、どこにでもある当たり前の飲料として、ミックスジュースを意識していた。
 東京では当たり前でない、と気づいたのは、サンマルクカフェが「大阪ミックスジュース」を売りにしていたからだ。「東京にはないの?」と驚いたのは、チェーンが広がってきた2000年代初頭のこと。改めて考えると、東京の老舗喫茶店でミックスジュースを見たことはなかった。やがて、テレビが大阪文化として紹介するようになり、千成屋珈琲の話も知った。当たり前、と思っていた文化は関西ローカルだったのだ。
 ではなぜ、大阪ではミックスジュースが定着しているのか。発祥の地で広まるのは当然だが、それが半世紀以上も生き残っているのはなぜか。
 考えられる要因の一つは、大阪の暑さだ。東京に来たばかりの頃、なぜジューススタンドがないのか、と不思議だった。何しろ蒸し暑いときに都心をウロウロすると、水分とビタミンを体が欲するからだ。しかし、東京の酷暑の時期はせいぜい1カ月ほど。ちょっとがまんすれば、夏は終わる。
ところが大阪は5月に半袖生活に突入し、梅雨頃から蒸し暑くなる。残暑が続けば9月いっぱい、ヘタすれば10月初旬まで蒸し暑い。だるく無気力になりがちなこの数カ月、マラソンの給水所のごとく、ビタミンたっぷりの生ジュースを喜ぶ人は多いのではないか。
 もう一つの要因は、まったりした甘味を愛する関西文化だ。東京で暮らすようになって気がついたのだが、すっきりとキレのある甘味を愛する東京人に比べ、関西人は後を引く甘さを愛する傾向がある。ソウルフードのきつねうどんも、みりんが効いた甘さがおいしさのポイントである。私も和食でみりんは必ずと言っていいほど使うし、料理していて昆布出汁に薄口醤油とみりんを足したら、「うどんのニオイ!」とうれしくなってしまう。桜餅だって、東京のはすっきりとした小麦粉生地であんこをくるむが、関西のものは、もちもちと甘さが余韻を残す道明寺粉のものである。
 ミックスジュースは、キレがいい飲みものではない。バナナのせいか、牛乳のせいか、童心に帰ってホッとするような、甘くて後を引く味に仕上がる。バナナジュースが東京で流行り始めたのは、もしかしてその余韻を愛する人が増えたからか? コロナでストレスフルな今だからこそ、包み込んでくれる甘さを必要とする人が多いのかもしれない。
 私はバナナをあまり好きではないので、ミックスジュースはそれほど好んで飲んできたわけではない。しかし、生ジュース全般は好きで、今は関西に用事があると、帰りに新大阪駅のエキナカでジューサーバーにより、一杯買って新幹線で飲むことを楽しみにしている。お気に入りはラズベリーである。

(第13回・了)

 

本連載は、隔月で更新します。
次回、2021年7月中頃に更新予定