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1話 ペパーミントグリーンの店

 東京都下武蔵野市吉祥寺。
 最近は、いろんな雑誌の特集で〈住みたい街ナンバー1〉に認定され続けている。
 その人気の街に、ぼくはもう40年も住んでいるのだ。

 

 人気があるから住んでいるというわけではない。40年前には、まあわりと普通の街だった。
 文化の中心だった新宿がそろそろ文化発信地としては疲弊してきて、それに変わる街が求められていた’70年代に、中央線沿線の高円寺・吉祥寺・国分寺の3つの街が、〈三寺さんでら〉とか呼ばれ、新しい受け皿として浮かび上がっていた。
 結局、巨大都市新宿の代わりにはどの街もならず、それぞれ独自の進化を遂げて個性のある街になっていったわけだが、中でも吉祥寺は最もポピュラーな街になった。
 南側には広い井の頭公園を抱え、デパートがいくつもあり、大きい書店が何軒もあり画材屋があり、この街の中だけですべて完結できる便利さが大きな武器だったんだろうと思う。おかげで、40年後には、週末には人が多すぎて外に出られない街になってしまった。

 

 ぼくは大学の3年から、吉祥寺に住み始めた。
 もう昔のことでうろ覚えなのだが、確かクラブの先輩の手伝いに呼ばれて、その帰りに吉祥寺を通ったんだと思う。ぼくは学生時代、漫画研究会に在籍していて、先輩に何人かプロの漫画家がいたのだ。たまに臨時の手伝いを頼まれることがあり、彼らが三鷹とか小金井とか国分寺とか、なぜか中央線沿線に住んでいたので、当時京王線の仙川にいたぼくは、まず井の頭線で吉祥寺までいき、そこから中央線に乗り換えて彼らの家に向かったのだ。
 その帰りに、懐にひと晩徹夜して稼いだギャラを入れ、ちょっと途中下車して吉祥寺で降り、吉祥寺の街をうろついているうちに、今度はここに引っ越そうかなと思うようになったのだ。
 移り住んでみると、吉祥寺はなかなか居心地がよかった。
 前から時々いっていた、ぐゎらん堂という、飲み屋というか喫茶店というかライブハウスというかその全部のような店に入り浸るようになり、知り合いも増え、行きつけの店もどんどん増え、いつの間にか生まれ育った街よりもずっと長く住むことになっていたのだ。

 

 吉祥寺には、古くからある店がいくつもある。いや、正確には、いくつかはある。
 近年、吉祥寺は家賃が高騰していて、いつでも気軽に入れて長居できるような店が存在しにくくなってきている。高めの値段設定で客の回転の速い店ばかりが増えてきて、まあつまりは、どこにでもあるチェーン店の支店ばかりが増えてきているのだ。
 しかし、その中でも、なんとかがんばって居心地のいい場所を提供してくれている店も、何軒かはある。
 今回は、そんな店の話だ。
 種明かしを先にしてしまえば、その店は既にない。いろいろあってしばらく前に店を畳んでしまった。しかし、それまで数十年に亘って、吉祥寺の住人の一部に多大な貢献をしてくれたのだ。

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