大胆仮説! ケンミン食のなぜ 阿古真理

2022.9.15

21海に囲まれて暮らす沖縄人は肉ラバー

 

エメラルド色の海に囲まれていながら、「魚よりも肉」。
そんな沖縄の歴史の謎に迫ってみよう。



 全国のローカルルールやローカル食文化を紹介する情報番組、『秘密のケンミンSHOW』(日テレ系)を観ていると、沖縄人はバーベキューが大好きで、砂浜のある海辺でバーベキューパーティをよく楽しむらしいことがわかる。バーベキューの習慣がアメリカから入ってきたことは推測できるけれど、海で泳がず肉を食べている風景は、沖縄の食文化を象徴していると思う。牛肉ステーキもハンバーガーも、沖縄人は大好き。特に豚肉の食文化は豊かだ。豚足のテビチの煮込み、耳の皮のミミガーの酢のものなど、「鳴き声以外は何でも食べる」と言われるほど使い尽くす。那覇の牧志公設市場では、豚肉の頭の皮がぶら下がっている店がある。また、戦後に復活させたあぐー豚など、いくつもの在来豚ブランドがある。
 朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)でも描写されていたが、沖縄では昔、家で豚を飼い、特別なときにさばいてごちそうにした。ドラマでは、東京から来た親子が帰るときに1頭つぶして食べていた。
『日本外食全史』(亜紀書房)でも書いたが、沖縄では琉球王国時代の18世紀から、漁業抑制政策を取っている。傑出した政治家として知られる蔡温が、「海辺の百姓が終日海に出て、魚、貝をとるということは家業をおろそかにすることであり、その家は衰微する」と『平時家内物語』で主張している。
 日本では、肉食禁止政策の背景に、猟に時間を取られて農業が疎かにならないようにしたところがあるが、琉球では同じ理由で漁を制限した。どちらも本業の農業をしっかり行ってもらい、食糧を潤沢に調達しようとした政府の意図があったと考えられる。
 沖縄には、中国経由で豚肉食が入ってきたと考えられる。『沖縄の人とブタ』(比嘉理麻、京都大学学術出版会)によると、14世紀後半または15世紀後半に豚の飼育が始まり、17世紀以降に盛んになる。もしかすると、漁業抑制政策ができたのは、養豚が根づきタンパク源を十分に摂れるようになったからではないか。同書によると、18世紀には養豚奨励策を取っているからである。
 養豚が盛んになったのは、17世紀初頭にサツマイモが中国から入り、殖産興業に力を入れた儀間真常が広めたからである。サツマイモは人々の食糧となり、ツルや茎が豚の餌になったのだ。サツマイモがその後琉球から薩摩へ伝わり、そして青木昆陽が江戸で奨励したことはよく知られている。
 豚肉食は、幕末になると日本へ伝えられる。幕末の江戸では、肉食が表向き禁止されていたにもかかわらず、琉球鍋と呼ばれて豚肉の鍋料理が流行したのだ。また、近代になり、豚肉料理を広めようとした東京帝国大学の田中宏教授は、沖縄料理と中国料理を研究して、豚のショウガ焼きなどの豚肉料理を考案し、大正時代に『田中式豚肉調理二百種』(博文館)、『田中式豚肉料理』(玄文社出版部)の2冊のレシピ本を出している。
 豚が入ってくる前、豚で主に食べられていた肉は牛肉である。文献で牛の飼育が確認できるのは15世紀以降だが、『ステーキに恋して 沖縄のウシと牛肉の文化誌』(平川宗隆、ボーダーインク)によれば、12世紀以降に飼育され始めたと思われ、15世紀頃には、与那国島を除く宮古・八重山の先島全域でも飼育され食用にされていた。もちろん本島では牛肉が市場で売られていた。
 同書によると、もともと琉球では、特別なときに屠畜するのは牛肉だったらしい。中国からの使節、冊封使のもてなしにも牛肉が用いられていた。しかし、17世紀の文献に「婚礼などの儀式のとき肴は豚肉にせよ、牛の屠殺を禁止する旨のことが記されている」とある。そうした制限を設けたのは、農耕で使われる牛馬が農民にとって大切にされ、政府にとっては課税の対象になっていたことが要因だったとしている。
 沖縄で豚肉食が盛んになったのは、政治的にそのように導かれたからだったのである。その結果、豚肉食文化が育っていった。
 私は観光客としてごく一部を食べただけだが、沖縄の豚肉料理は大好きだ。ミミガーのコリコリした食感は、キュウリのせん切りと合わせたときに最高にその魅力を発揮する。沖縄そばの上に載っている三枚肉も好きだし、テビチのむっちりした食感も楽しい。私はもともと、さっぱりした食べものが好きで、ふだんは豚バラ肉もあまり買わないし、背脂系ラーメンも苦手なのに、沖縄へ行くと油っこい料理も食べてしまう。ただ、ラードを使った料理をたくさん食べるのは難しいが。
 一方、魚料理はいまいちだと、実は思っている。グルクン(タカサゴ)やアバサー(ハリセンボン)のから揚げは最高においしいが、煮つけや刺身にした魚を市場で頼んだときは、「ん?」と思ってしまった。
 よその土地で食事をするとよく感じるのだが、食材の活かし方の技術には、個人の腕前ももちろんあるが、それ以前にその土地での食文化が影響するのではないか。地域で料理し慣れているかどうか、食べ慣れているかどうかが料理人の腕前にも表れるような気がする。関西では出汁を生かした煮もの、汁ものがおいしいし、握りずしやとんかつは発祥の地、東京のものが特に優れているように感じる。ソウルへ行った折も、焼き豚足などの肉料理がとてもおいしかった一方、刺身はいまいちだった。ほかにおいしいものが山ほどあるのに、内陸都市で刺身を食べようとしたのが、そもそも間違いだったかもしれないが。
 沖縄の豚肉料理はおいしい。牛肉もステーキ料理店で注文したステーキは、てらいもなくふつうにさっぱりとおいしくて、これだったら確かに日常的に食べるのもわかる気がする、と思った。それはやはり、長い間肉を食べ続けてきた食文化が背景にあるからではないだろうか。


 

(第21回・了)

 

本連載は、隔月で更新します。
次回、2022年11月に更新予定