大胆仮説! ケンミン食のなぜ 阿古真理

2022.11.17

22沖縄のおやつ。ポーポーとサーターアンダギー

 

日本各地をめぐる食の謎への旅も、今回の沖縄編でゴール。最後は謎ではなく、優しい甘さにひたろう。



 沖縄の緩やかで文化的な雰囲気が好きで、何度も訪ねている。もちろん、沖縄に関する書籍なども読んできたので、「癒しの島」だけでない厳しい歴史や現状も認識しているが、1観光客としてそこまで深入りはできない。
 十数年前、出張でも沖縄に行ったことがある。その際、取材先で出されたのが、サーターアンダギーだった。実はそれまで、サーターアンダギーにはあまりいい印象を持っていなかった。子どもの頃、父が沖縄にときどき出張していて、お土産にサーターアンダギーを買ってくることがあったが、パサパサで固く人工的な味がするので苦手だったのだ。
 2001年に放送され沖縄ブームに火をつけたNHKの朝ドラ『ちゅらさん』では、主人公の恵里(国仲涼子)が家出し東京で暮らし始めた場面で、サーターアンダギーが初登場した。娘の行動に気づいた母(田中好子)が、カバンにそっと手作りのサーターアンダギーを入れるのだ。恵里はそのサーターアンダギーを、引っ越しの挨拶がてら下宿先で配る。そっけない対応をした城之内真理亜(菅野美穂)は、ドアを閉めると食べてムフッと笑いすっかり気に入る。そんなシーンを見ながら、「そんなわけないだろ」と内心ツッコんでいた私。
 ところが出張先で出されたサーターアンダギーを食べ、自分の勘違いに気づいた。父が買ってきたのは大量生産の市販品だったが、出張先で出されたのは手作り。優しい甘さで柔らかいそれは、子どもの頃に食べたものとは雲泥の差で、手作りのドーナツそのもののおいしさがあった。ほかの地域の土産物でも、もともと家庭料理だったものを、食品添加物を入れて大量生産したとたんにまずくなっていることがよくある。そうした商品はもしかすると、地域の食文化のイメージを悪くしてはいないだろうか。
小麦粉、砂糖、卵を混ぜて丸め、揚げたサーターアンダギーは、そもそも沖縄のドーナツである。揚げるうちに、1カ所が割れてチューリップの形になるのだが、それを沖縄の人は「笑う」と表現する。ふだんのおやつにもするし、祝い菓子としても使う。お土産にもする。余計なものを入れず、手作りすればおいしいものができる。考えてみれば、おいしいから郷土菓子になったわけだ。それ以来私は、那覇の第一牧志公設市場近くの市場でサーターアンダギーを買うようになった。手作りのものを売っているからだ。プレーンのほか、黒糖味や紅芋味もある。
 私は車の運転に慣れていないので、沖縄に行くとレンタカーを借りずに、ゆいレールで動ける那覇あたりをウロウロすることが多い。市場は必ず歩き回る。その散策の途中、見つけたのが店の前にテーブルを並べ、沖縄のおやつを売っているところだった。サーターアンダギーのほか、ポーポー・チンビンとムーチーも売っている。これらが大好きな私は、一通り買ってムフッと笑ってしまう。
 ポーポー・チンビンとムーチーは、知らない人が多いかもしれない。私も、沖縄の歴史や食文化を調べるうちに知ったおやつである。ポーポーについては、沖縄に思い入れが深かった岡本太郎もエッセイで紹介している。それぞれ、どういうおやつか順に説明しよう。
 ポーポー・チンビンは、小麦粉を水で溶いたたねをフライパンなどで薄く焼いたおやつ。いわば沖縄のクレープだ。ポーポーは、表面に油味噌を塗って巻く。一方、私のお気に入りは、チンビン。こちらは黒糖液を塗る。よりおやつ感があるので、ついこちらを選んでしまうのだが、名前はポーポーのほうが好き。考えてみれば、クレープやホットケーキを焼いたことがあるのだから自分でも作れそうな気がするが、沖縄で買って食べるから楽しいのである。
 ムーチーは、基本的に沖縄でしか手に入らないはず。沖縄で「サンニン」と呼ばれるショウガ科の植物、「月桃」の葉っぱで包んで蒸した餅菓子だからだ。月桃は沖縄では珍しくないが、北限が鹿児島県佐多岬で、他の本州では育たない。
『沖縄ぬちぐすい事典』(尚弘子監修、プロジェクト シュリ)によると、月桃の「葉には防虫、防菌、防カビなどに効く成分が含まれており、根茎や種子を煎じたものは健胃整腸、消化不良などに効くとされている」。最近、美容や健康にいい、と注目されている植物である。
 初めてムーチーを買って暑い中歩き回ったとき、私は中身が腐らないか不安になっていた。しかし、夕食でご一緒した沖縄の人にそれを言うと、「ムーチーは腐らないよ」と一笑された。そのぐらいムーチーには保存性があるのだ。
 独特の甘いようなさわやかな香りが、薄く伸ばした中の餅にも移っていた。葉っぱの色が移るのか、うっすらとピンク色をしている。餅粉に砂糖などを入れて蒸したおやつは、食べると懐かしいような初めてのような幸せ感をくれる。
 ムーチーは「鬼餅」という意味で、旧暦12月8日の「ムーチーの日」に作って神棚や仏壇などに備える。『沖縄生活誌』(高良勉、岩波新書)によると、その年中行事はこんな民話がもとになっている。昔、首里の金城村で、両親に先立たれた兄と妹が暮らしていた。兄は貧乏生活に耐えきれず、夜な夜な南部の大里城の近くまで行って、人を殺して肉を食う大里鬼になってしまう。悲しんだ妹は、鬼退治の作戦を練る。
12月8日に砂利石を入れた餅と普通の餅を作って兄を誘い、断崖絶壁の上の野原に行って一緒に食べた。砂利石を入れた餅を食べさせられた兄は、「こんな固いものを食べるのか」と驚く。妹は、そのときわざと下着を着けずに足を開いて座っていた。鬼が「その下の口は何か?」と聞くと、妹は「上の口は餅食う口、下の口は鬼食う口」と答え、恐れて逃げた鬼は崖から落ちて死んでしまう。
その話をもとに、沖縄では旧暦12月8日にムーチーを作って、鬼や魔物から子どもを守るよう祈願する行事が始まった。著者は子どもの頃、自分の年の数だけムーチーを食べることができたという。ムーチーは、1個1個の量は少ないので、確かに子どもでも数個ぐらいはペロッと食べられそうだ。
 今は、百貨店やエキナカなどで地方の物産展がしょっちゅう開かれているし、全国に打って出る飲食店やメーカーも多いので、居ながらにしていろいろな味を楽しめる。それでもなお、ほかの地域では食べられないモノもあるし、地元のモノとは別物になっていることも少なくない。そして、その土地の雰囲気とともに味わわなければ、魅力が今一つわからないものもある。家で作れるキットが売られる名物料理を、実際に作って食べても私は違和感を覚えることが多いので、気に入った地方の味は現地で楽しむようにしている。他で体験できないからこそ、旅は大切な思い出になっていくのではないだろうか。まだ行ったことがない土地、また行ってみたい土地がたくさんある。次はどこへ行こうか。


 

(第22回・了)

 

本連載は、今回で終了です。長らくのご愛読ありがとうございました。
連載をまとめた単行本を、来春に刊行する予定です。ご期待ください!