大胆仮説! ケンミン食のなぜ 阿古真理

2020.7.16

05東京人はなぜ讃岐うどんを愛するのか?

 

「はなまるうどん」をはじめ、関東でもすっかりおなじみになった感のある「讃岐うどん」。
地元にも当然うどんはあるのに、なぜ「外来」のうどんに魅せられるのか。探ってみた。

 

 私が香川県へ旅行したのは、2017年。「高松へ行った」と言うと、「讃岐うどん食べました?」「本場の讃岐うどん、おいしいですよね!」と、キラキラした目で言われる。「香川へ行く=うどんを食べる」という図式が、いつの間にか出来上がっている。
 もちろんうどんは食べておいしかったが、特にどうという感慨は持てなかった。大学時代の1989年に琴平へ行った折も食べたが、やはり感動はなかった。私が食べたのは、どちらのときも汁入りの温かいうどんである。メディアでよく紹介される釜揚げに興味がないのが、感慨を持てない理由なのか?
 讃岐うどんが東京でブームになったのは、1990年代後半から2000年代初めにかけて。テレビで、セルフサービスの店や、山の中の小さな店が、盛んに紹介されていた。トッピングのバラエティ豊かさや、1200円ぐらいからの驚きの安さも、魅力のポイントだった。きっかけは、香川県の『タウン情報かがわ』で1989年から連載された、穴場探訪記の「ゲリラうどん通ごっこ」ではないかと思う。1993年から、『恐るべきさぬきうどん』として単行本化されて4巻まで出た後、文庫化までされている。連載の後半は、テレビに店を紹介したり取材に同行したエピソードが頻出し、ブームになっていくさまが見て取れる。
 ブームに乗って、東京でも讃岐うどんの店が出来始めた。大きなところでは、2002年に香川県のうどんチェーン「はなまるうどん」が東京に進出した。兵庫県加古川市生まれの、讃岐うどんスタイルの「丸亀製麺」も、2000年に生まれ、全国展開を始めている。
 しかしなぜ、東京人は讃岐うどんにそれほど憧れるのか。稲庭うどん好きも多いように見受けられるので、たぶんシコシコの弾力がある麺が好きなのではないかと思う。
 あるいは、うどん自体の味の良さが実は、大きなポイントか。何しろ、東京のスーパーで売られている生麺は、少なくとも在京関西人の間ですこぶる評判が悪い。私も1回で買うのを止め、在京関西人の友人から「マシ」と教わった冷凍うどんを買うようにしている。在京讃岐人の友人はいないが、同じような感覚なのではないか。あの生麺を食べ慣れている人からすれば、讃岐うどんはかなりおいしいのではないかと思う。
 あと、イリコなどを使った出汁の味だろうか。イリコ出汁は、煮干しラーメンが流行ってからこっち、東京でも存在感を増してきた。
 煮干し出汁は味が濃く出るので、カツオ昆布より簡単に味が決まる。しかも安い。鰹節で出汁を取るより、鍋から引き上げるのも簡単。瀬戸内海に面した近畿・中四国エリアは、煮干しをよく使うので、兵庫県育ちの私にとっても馴染みのものだ。もちろん、関西の麺もうま味がある。違いはコシの強さぐらいか。なじんだ関西のうどんと似ているから、それほど感動を覚えなかったのかもしれない。ただ、セルフうどんの営業スタイルは、私が知る限り、関西にはない。
 うどんは汁まで飲むもの、という習慣がある関西では、東京のうどんは「汁が真っ黒」と恐れられてきた。私もその噂を怖がって、東京ではなるべく讃岐うどんの店を選んで食べてきたら、いつの間にか讃岐うどん派になってしまっていたらしい。
 去年の秋に大阪へ行った折、いつものようにきつねうどんを食べた。今までは、中に入った揚げの味と、青ネギの香りに気を取られていたが、このときなぜか、うどんの柔らかさに気がついたのである。何だこれは、ずいぶん柔らかいやん。そう。大阪うどんは結構柔らかいのである。芯はしっかりしているので、コシがないわけではないのだが。
 その柔らかさが気になって、いまいち楽しめなかった時点で、讃岐うどんのコシにすっかりハマっていたのであった。あの食べ応えのある弾力に、東京人はハマっているのではないか。感動しなかっただけで、私もやっぱり讃岐うどんラバーではないか。
 東京では、江戸時代に蕎麦より先にうどんが流行った。しかし、濃口醤油が生まれ、カツオ出汁が使われる東京の味は、うどんより蕎麦向きだったので、蕎麦のほうが人気になったと言われている。蕎麦は何といっても濃口醤油が合う。
 武蔵野うどんというのもある。一度東京都市部で食べた具だくさんのうどんは、やはりコシがあっておいしかったように思うが、23区内で武蔵野うどんに出会ったことはない。農村部で発達したうどんは、都心にあまり進出していないようだ。
 ローカルなうどんもあるのに、讃岐うどんが流行るのは、何でも流行する東京だからか。それとも、出汁にうまみにコシと、三拍子そろった讃岐うどんが完璧だからか。東京のブームでは、一過性に終わるものと、新たに定着するものがある。ブームから20年経った讃岐うどんは明らかに後者だ。確固たる理由がこれ、とは結局分からないけれど、おいしいものは、どんどん採り入れて自分たちのものにしてしまう、その吸収力こそ、東京の恐ろしいところかもしれない。

(第5回・了)

 

本連載は、隔月で更新します。
次回、2020年9月15日(火)ごろ更新予定