「お洒落」考 江弘毅

2019.12.17

01「個性」はアリか?

 

 2018年冬、FacebookとInstagram連動で始まったaoyama_kobeによる「【玄関先ですんません】シリーズ 相方のファッション」が巷のファッションピープルの間でちょっとした話題を呼んだ。その〈相方〉とは何をかくそう大阪・岸和田の洋装店に生まれ、関西の名物編集者として辣腕を振るってきた江弘毅さん。
 身銭を切って、着まくり、履きまくり、食べまくってきた江さんを指南役に「自分で服が選べない」「TPOが分からない」「カッコよくなりたい」……こんな人たちの悩みに応える新連載がスタート。饒舌かつ大胆な切り口で〈カネはあるけどセンスはない〉オヤジたち、〈カネはないけど何とかしたい〉若者たち、〈夫や恋人の見てくれにアタマを抱える〉女性たちに福音をもたらす(か?)第1回は「個性」について考察していく。

 たとえば弁護士や銀行員、不動産会社や高級外車の営業マンは、ゴルチェ(ジャン=ポール・ゴルチェ)やギャルソン(コム デ ギャルソン)のスーツはいくらカッコいいといってもアカンだろう。
 紫とかの色、花柄とかのそれもしかり。
 というところから、服は「じぶんの個性の主張のために着る」というのはNGだと思うに至った。
 スーツはとくにそうだ。
 冒頭の堅い仕事の人々も、見てくれナンボの「おしゃれ商売業界」の人らも、アーティストや作家とかのいわゆる自由業のみなさんも、カッコいい人はひとことで言うと「収まっている」。
「この人オシャレやなあ、カッコいいなあ」と感じる心と感性は大切にするべきものだ。
 服のカッコよさは、街や仕事場や店や電車の中、つまり社会のうちにあるので、いろんな意味を含んでいる。
 大企業の社長にしても大工さんにしても、「カッコいい人だなあ」と思うことは、人としてカッコいいから服もカッコいいということになる。
 外見たとえばスーツだけがカッコいい(はずの)ものを着ているが、中身は空っぽペラペラである、というのも見てわかる(このごろの具体的な政治家が思い浮かぶ)。
 それが「人となり」というものなのだろう。

ル・コルビジェが1947年にアルニスで「こんな服あったら」と誂えた「Forestier(フォレスティエール)」。このジャケットの流布で、日本の建築家や芸術家、そしてその予備軍が「マオ・カラー」(実際そうではないが)を好んで着るようになった(Browne Browne Kobeで)


 とことんカッコよくデザインされたスーツ(たとえばアルマーニとか思い浮かべて下さい)をカッコよく着ることが難しいというのは、ある程度あれこれとスーツを着た人であればわかることだ。
 加えてドルガバ(ドルチェ&ガッバーナ)を着てもエルメスを持ってもダサい人はダサいし。
 じぶんをカッコよく見せようとして、わたしらは「そういうこと」をするのだが、この連載では「そういうこと」のあれやこれやに入り込んで、一つずつ「そういうこと」を見ていき書いていくことにする。
 それはケッコー恥ずかしいことであるが、ええい、もうこの年や何でもやりまっせ〜、というベテランの技芸者の境地だ。
 さて「個性の主張」だが、それは「出るところへ出る」ときのスーツに限っていえば、絶対してはアカンことである。

これはスーツのジャケットではないが、相当ハイファッションなベルクロで止めるジャケット。この手の「あらかじめカッコいい服」は結構、難しいと思う

 

 わたしが大学生の80年頃(神戸大学であるが)、中学生からのヤンキーを長く保ってそのまま22歳にしたような同級生がいた。
 漁港があった神戸市垂水区の下町育ちで、「神戸市垂水区」を「大阪府岸和田市」に直すだけで、まったくよく似た街的環境で育ったわたしとは気があった。
 だんじり祭で育ったわたしも当然、中坊の時はヤンキーであったが、すでにその時代の大阪〜神戸では西海岸の風が吹いていて、わたしはロン毛のサーファーだったが、かれはポマードでリーゼントに固めた頭で、かけていたメガネは斜め45度。クルマは三菱ギャランGTOをシャコタンにして乗っていた。
 かれもわたしも4回生になって今でいう「就活」で先輩を頼って会社訪問するようになる。
 わたしはロン毛を切った(今から思えばちょっとだけでロン毛はロン毛)が、かれはそのままのリーゼント頭で会社訪問にも行くのであった(まあその時代はロン毛よりははるかにマシだったが)。
 神戸大は伊藤忠とか日商岩井とかの総合商社に強くて、かれも当然そのパイプラインに乗って会社訪問する。
 リクルートスーツなんてない時代だ。だから男子の場合、紺が基本だったがグレーのスーツを着る学生もいたし、体育会系は学ランを着ていくものもいた。
 が、白のバギーはアカンやろ。
 かれは「夏やし白や」ということで「そういうこと」をして行ったのだが、先輩は受付でかれの姿を一目見て、「今日は悪いけど帰ってくれ」と言ってそのままグッドバイ。
 門前払いされて帰ってきたかれは「個性が分からん会社は、これから伸びん」ということをわたしに主張するのだったが、「それはお前が間違っとる」。
 カッコいいとかダサいとか以前の話で、迷惑やないかということがわからんか?
 スーツはとくに「他者にやさしい服」でないとアカンのである。

 

(第1回・了)

次回2020年1月7日(火)掲載