「お洒落」考 江弘毅

2020.5.1

10ボタンダウンからシャツについて、あれこれ考えてみる

 

 ボタンダウンのシャツはジーパンと同様にアメリカ合衆国由来のウエアだが、日本のわたしたちにもおなじみだ。
 多分、日本人男性で着用したことがない人はいないと思う。

  このボタンダウンシャツは昭和3040年代生まれにとっては、「アイビー」を象徴するアイテムになる。
 そして「(アメリカン)トラッドのシャツ」といえば、「ブルックス・ブラザーズのボタンダウン」と即答できるほどBBBDは有名だし、ほとんどのボタンダウンの原型といえるのではないか。

  だから初めにこれは言っておくが、昨今のボタンホールの糸が黒や赤の色付きであったり(ボタンまで色ボタンだったりする)、挙げ句の果てには襟の腰裏にチェックとかの柄生地が張られてあったりする(ぶちこわし的にダサい)ボタンダウンは、それらとは全く違います。

  VANジャケットの石津謙介さんやくろすとしゆきさんたちが、6070年代の米東海岸のアイビー・リーガーたちの「いでたち」を紹介した写真集『TAKE IVY』(2000年代に入って復刻版も出たし、数年前の『POPEYE』誌でも同名の特集がされてたなあ)がメンズ・ショップや喫茶店にも置かれていたことなどを思いだしたのは、新型コロナウイルス感染拡大でコメントするクオモNY知事をテレビで観たからだ。
 紺のジャケットにサックスのボタンダウンでノーネクタイ。文句のつけようがない東海岸のトラディショナルな着方である。

  そのアメリカン・トラッドは、70年代あたりになると、シャツはバックプリントのTシャツやネルシャツやダンガリーに、ジーンズは細身のLevi’s 50166モデルやLEEのホワイトジーンズからフレアーやベルボトムに、靴はローファーではなくレインボーサンダルを履いていた、西海岸系サーファーに取って代わられたが(わたしの場合モロそれだ)、唯一VANKENTのボタンダウンだけはずっと着ていた。
 あ、もうひとつ、これは元々はフランスものだけど、ラコステのポロシャツもそうだ。

  今回、自分が持っているシャツをたくさん引っぱり出してチェックしたが、その時代のものはもう見当たらないものの、50%ぐらいがボタンダウン。それぐらい長い間着ているシャツの1モデルだ。
 というか、シャツだけの暑い季節や、ネクタイを締めないで上にジャケットを着る場合、なんといってもボタウンダウンがいちばんしっくりくるからだ。

  その場合ジャケットなどの上着とその下に着るシャツのバランス(いわゆるVゾーンというやつ)が、その人の一番センスが出るところだけれど、それをシンプルに見てみると、首から胸元あたりの襟そのものデザインと襟が空いて首元が見える(=おおよそ面積)感じがどうかということが大きい。

  このバランスは、メンズのシャツに限るもので、「シルエットを絞って」とか「ラペル(ジャケットの下襟)の形や位置」とかの大きなデザインの話ではない。アメリカン・トラッドでもクラシコ・イタリアでもボタンダウンは、襟の部分のディテールとデザイン的な要素はほぼ一緒である(しつこいが冒頭のアレは違うカテゴリーね)。
 だから、基本的に(ノーネクタイで)ボタンダウンを着ることで、ちょっとした着こなしみたいなことを覚える。

リゾルトのデザイナー林芳享さんはボタンダウンを着ることが多いが、いつも6つボタンのものだ。
「下にTシャツを着てることが多いのもあるけど、第1ボタンを開けたときに、7つだとちょっと窮屈。かといって第2ボタンまでを開けるとイヤらしい。ボタンの数を6つにすると、第1ボタンだけ開けたときにちょうどエエんです。襟もうまくカールします」

わたしの場合。林さんと同じインディビジュアライズドシャツだけど、こちら普通の7つボタン。ちょっとした重要な違いがわかる。ちなみにジーンズも同じリゾルト710

 

 世の服好きには「ボタンダウンばかり。それも無地ばかりで唯一例外はギンガムチェックとタッターソール」という人が実に多い。で、その場合6つボタンと7つボタンの違いは大きいのだが、そういうことを知る人は少ない。

  もっとも、今回自分のボタンダウンのシャツ、「確かアレ、6つボタンやったん違うかなあ」といろんなブランド、日本製、イタリア製、中国製……といろいろ見てみたが、全部が7つボタン。6つボタンはプルオーバーのボタンダウンシャツと同じで、一昔前のスタイルなのかもしれない。

  大学教員の向井光太郎氏(51歳)は、大阪ミナミの生まれ育ちで関西学院大のアメリカンフットボール部OB。アメリカン・トラッドを絵に描いたような人だ。
 ブルックス・ブラザーズのボタンダウンについては、10年ぐらい前は伊勢丹メンズしかなかった6つボタンのエクストラ・スリムがあって、その後「ミラノ・フィット」という名前になって、どこの店舗で手に入るようになった。けれど気がつけば廃盤になったのではないか、とのことだ。

上が6つボタン、下が7つボタン。 「ブルー、ピンク、キャンディストライプ、チェック、いろいろ着た20代でしたが、ここ10年は白ばっかりです。ジーンズはリーバイスのMade&Crafted スニーカーも紺系ばかり、いつもおんなじカッコです(笑)」


 このボタンダウンシャツのボタン数6つ/7つの違いが教えてくれるのは、まったくシャツがつくるVゾーンのバランスの基礎の基礎だが、これはワイドスプレッドでもデカ襟のアロハシャツでもポロシャツでも、第1ボタンをあけて着るシャツに通じる事柄なので、常々気にしておきたいところだ。

 「ん、そうかな。オレはいつもボタン2つ開けるけどね」という人は、まあ当然別の話(けどアジア人の胸毛は見苦しいわ)になるけど、ネクタイを締めない場合のシャツについては、上からジャケットやブルゾンを羽織ったり、Vネックのセーターを着たり……と、ほぼ同じ感覚で、自分の首の長さ太さ、胸部の形や厚み……といろんな要素を勘案に入れて「自分の感じ」(個性というやつ)をつくっていこう。

かつてのアメ横の「MIURA」、渋谷の「MIURA & SONS」的存在の神戸高架下「ミスター・ボンド」。ここのオリジナルのボタンダウンは6つボタン。名古屋や京都、広島からも買いに来る

 

(第10回・了)

次回、2020年5月15日(金)掲載