「お洒落」考 江弘毅

2020.2.19

05パンツの丈は大丈夫、ですか?

 

「丈」という字の語源は『字統』によれば「八寸を尺と為し、十尺を丈と為す。人は長(たけ)八尺、故に丈夫といふ」とあって、それで「大丈夫」なんかぁ、「しっかりとして健全で、間違いの無い男」なのかと知ったりする。

  そういうところから丈を考えてみたい。

  スーツやセットアップでも、パンツやジーンズ単体も、パンツの丈はサイズやシルエットを決定する太さと同様に難しくて面白い。
 ジャケットは一般的な場合、自分に合ったサイズ、例えばイタリアンサイズの48を選んだとして、それには着丈も袖丈も「既成品」としてあらかじめ具体的な製品としてのジャケットに内包されている。

  スーツのジャケットの場合はハンガーにぶら下げられた売場のものは袖のボタンを付けてないのが多くて、購入時に試着して袖の長さを決めて(まぁ、長くするようなことはないが)、その袖口からの良い位置(大概4㎝ぐらいか)にボタンを付ける。
 けれども「着丈」はそういうふうに「お直し」して調整することは絶対ない。

スーツではなくシャツ1枚の場合、パンツの太細と丈で全体が決まってしまうのでなかなかむずかしい。シャツもパンツもボリューム感だと思う。それが上下で違うとうまく着こなせない。わたしは身長176㎝で、ご覧のとおりのこの細いパンツの裾幅は18㎝、「短かすぎるかなあ」のぎりぎりの丈に。シャツ、パンツともバナナ・リパブリックで、シーズン違いでバラバラで買ったのだがうまくいってると思う。伊製ヌバックのスリッポンシューズは、メルカリで1500円で買ったものを内踵と靴底を1万円ぐらいかけてリペアしてこの通り。



 そこにスーツやジャケットを含めてのトップスの難しさがあるのだけれども、ボトムスつまりパンツの場合は、スーツのパンツであろうがチノパン、ジーンズであろうが、どんなパンツであれ(ジャージやスウェット以外)「丈上げ」をして穿くことになる。

  その例外で記憶にあるのは、今ジーンズで世界を席巻しているRESOLUTEの林芳亨さんのドゥニーム時代のKYOTOモデルだ。
 88年に登場し、60年代のLevi’s501がベースとなるXXで一世風靡したドゥニームは2000年頃、それより細身で(66モデルがモデルになる)モードを少し意識した「KYOTO EDITION」を発表した。
 このジーンズはウエストごとに用意されたレングスが56型あって、ユーザーはそれを試着してジャスト丈のものを求めるシステムだった。

  このモデル発表と同時にオープンした「ドゥニーム京都店」は、中京の富小路蛸薬師下ルの町家の奥まったところにあって、扱うアイテムはそこでしか買えないこの「KYOTO EDITION」のみ。「なんちう売り方や」「京都のイケズか」などと言われていた。
 そういうカスタム的な販売方法もイカしてた。

『The Real Basic DENIME』 (ワールドフォトプレス・2000年3月)より

KYOTO EDITIONの見事な裾のパッカリング。これは約20年穿いている。



 ジーンズは生地自体の「タテ落ち」や「アタリ」と同様に、穿いて洗って進む、裾のパッカリング(うねうねとした膨らみ。そこが色落ちする)が重要で、いうまでもなく新品時の「綿糸のチェーンステッチ」がベストだ。
 あとで切って適当な縫い糸のシングルステッチにするとパッカリングが出来ず、せっかくのジーンズが「あ〜あ」状態、台無しになる。

  丈を切らずに穿けるサイズが用意されているなんて、今思えば「売れてるジーンズメーカー」ゆえの、何と贅沢なこだわり、至れり尽くせりの「大丈夫」なジーンズの1モデルだった。
 そして現在、パリでもミラノでも人気のRESOLUTEの主力モデル710もそれを踏襲している(ウエストは2640インチの12サイズで、レングスは各サイズ2836インチで合計86)。

  そもそも小アイテム大量生産ゆえのLevi’sがワンモデルのジーンズでレングスを揃えたという前提があるが、そういうレングスのバリエーションがない大抵の場合、例えば「ウエスト32」を選んで、「レングス34」とかのワンパターンをフィッティング室で穿いて、店員さんに丈を合わせてもらうことになる。

  普通のスラックスやスーツのパンツもほとんどの場合丈上げが必要で、「これぐらいで良いですか?」「うーんちょっと長すぎます」「ではこれくらいですか?」とやって、まち針を打ってもらって「お直し」に出して後日取りに行く。

  いうようなことが普通だが、バナナ・リパブリックとかでは、たまにレングスが揃っているモデルがあり、そもそもRESOLUTE710と同様、「切らなくてぴったりのパンツが必殺」ということを実感させてくれるが、まあ、それは稀であるなあ。

RESOLUTE710。裾のパッカリングと側面のセルビッジによるアタリが見事。2年着用

 

 だから極端な「太胴短足」体型の人は、ジャストのサイズのウエストを選んで丈の1/3を切らなくてはならない場合があったりして、ちょっと残酷というか悲劇的なデザインバランスのパンツになってしまったりもする。

 前置きが長くなったが、唯一長さを「自分で決定する」パンツの丈は、すべてのボリューム感やシルエット全体を左右する。関西弁で言うところのイケてる感じの、「しゅっとした」のを出すのは、じぶんで指定できるパンツの丈につきるのだ。

  そこのところが大変難しい(だからこそおもしろい)。
 つまりパンツそのもののデザインだけでなく、上着や靴、スーツなのかジャケットなのかブルゾンなのか、ポロシャツをパンツに入れて着るのか。
 靴はオクスフォードなのかローファーなのかブーツなのかスニーカーなのか……。
 組合せと変数群が多すぎて、だから残念なことに一般解はありません、なのだ。

  ただそういうことを言っても話は始まらんくなるんで、自分の場合を言うときます。
 いちばんよく穿く細身のチノパンやジーンズ(裾幅20㎝以下)は、ローファーを想定して裸足の接地面から高さ10㎝。くるぶし最上部から2㎝。冬によく履くデザートブーツに合わせるのはそれより23㎝短くする。

 足の甲にかぶさる「細長」はあかん、そう思います。逆に「太短」は難しいけど、これはぶっとい軍ものカーゴ・パンツなどうまく穿くと「かっちょいい」。

海外旅行の、それもややこしい街場をうろつく時は(この写真はイスタンブール)、結構軍パン、んー、カーゴパンツて言うん、それが役に立つ。というのも、ポケットがたくさん付いてて、この軍パンはBench.のやつで、腰と後ろのポケットはファスナー締めで、太もも部分は丈夫なボタン。だから紙幣もコインもカードもパスポートも(持ち歩くことないが、両替に行く時だけ必要)全部ポケット。SupremeのロゴTは現地屋台店で調達のトルコ製のパチもん(日本円で約600円)。ピタT気味で腹がぷくんと出ているのがイスタンブール現地オシャレ人間風(んなアホな)。



 スーツは割と難しくて、ノータック裾幅20㎝ぐらいの細いパンツは、よく言われる「ワンクッション」は何回もそうやって「なんか、しっくりけえへんなあ」と失敗した。靴を履いてその靴にかかる「ジャスト」か「ちょいソックス見え」、そのいずれか。だからシングルにしたりする。
 もう少し太いのは、ワンクッションでダブルが良いかなあ。
 今思うと恥ずかしい80年代の2タックの極太のイタリアのモード系スーツのパンツを除くと、そんな感じで20年ぐらいやってきている。

 私見を言わせてもらうと「すっと」いくか「たぷっと」いくか、そういう語感に似た感じで2パターンある(ファッション撮影でよくスタイリストさんに「パンツの丈はすっとした感じでいこか」などと言ったなあ)。

  それともう一つ。これが重要なのだけれど、ブティックで初めての知らない店員さんにフィッティングしてもらう場合など、じぶんで鏡を見て自分の想定する丈の長さを決めることが多いのだけれど、これが結構失敗の元になる。

 パンツ丈は、街行く人のカッコいい丈を見て、それをじぶんなりに採り入れようとするのだが、鏡の中でそのリアルな視線をじぶんで再現するのは無理筋というもの。

  だからこそ自分自身の好みや体型、例えばデザートブーツをよく履くなど靴をも含めた傾向を知る服屋さんに見てもらうことが最良かと。
 つまりじぶんのファッション的な信頼が置ける服屋さん、ということになるのだけれど、そういう馴染みの服屋さんに現在進行形のトレンドのモードに照らし合わしつつ、実際に見てもらってどんな感じなのか。そういうことがめっちゃ重要かと。

  それで春夏秋冬あれやこれやとお直ししてもらって、家に持って帰って穿いてみて、じぶんで鏡で確認するように見て「そういうことなんやなあ」と理解する。
 いろんなパンツいろんなデザインで、それの反復。

  とまあ、そういうことなんだけど、さてジーンズ界の最重要人物・林芳亨さんの「デザイナー林のフィッティングデー」が今日、明日と神戸の[Cinq essentiel Kobe]であるんで、ちょっとお話聞いてきます。
 ということで、次号に乞うご期待。

(第5回・了)

次回、2020年3月4日(水)掲載