「お洒落」考 江弘毅

2020.4.15

09わたくしのコート遍歴、 というもんじゃないけれど

 

 わたしは昭和30年代生まれだが、「どんなコートを着てきたか」ということでふり返ると、やはり中学〜高校生時代の『メンズクラブ』〜VANジャケット的影響が強い。
 前回のトレンチコートはずっと後の30代のころの話で(ということは80年代以降)、多感な少年はどんなコートを見ていたのかというと、ダッフルコートとランチコート、襟にニットの「へちま」がついていたドンキーコート、そして今回これからお書きするステンカラーということになる。


 80年代初頭のサーファーブームの時は(20代だったが)、全面的に裏に毛布やキルティングを貼ったジージャンおよびダウンジャケットに移行した。アロハシャツの上にダウン。そんな格好もしたよなあ。
 そのあとはMA-1(これはブルゾンやな)あるいはフードにファーが付いたミリタリー系かと。

 ダッフルコートについては【玄関先からすんません】の通りだが。




 これをアップしたら、70年代の創刊時の『POPEYE』誌編集者だった粕谷誠一郎さんが

ダッフルコートが最も似合う男、それは残念ながら江さんでも私でもない。トレバー・ハワード。『第三の男』のラストでジープに乗りハリー・ライムの恋人役だったアリダ・バリに声をかけた男、かなわん❗️


 という、大変に「東京の団塊おしゃれ世代」なコメントを書き入れてくれた。それぐらいコートという重衣料は「特別上等」な1枚だったのだ。

 が、時が経って日本のファッションが豊かになり、高校生の時に買ったVANジャケットのダッフルコートとか、ランチコートとかは40年経った今はもうない。今、持ってるこのダッフルは滅多に着なくなった。
 その代わりによく着るのがステンカラーのコートだ。

 わたしは「なんとなく」だが、映画『ブリット』のスティーブ・マックイーンのより、テレビドラマ『刑事コロンボ』のステンカラーのほうがカッコいいと思う。
 マックイーンのはフライフロント、つまり前ボタンが比翼仕立てで隠れているが、コロンボのはボタンがジャケットのように普通に外に出ている。
 ステンカラーというのは、基本的に雨用のコートだろうが、この代表的は二人の映像に見るように、いつ着ても何に合わせてもいける。

 なるほどこうしてみてみると、前回のトレンチもダッフルもそうだが、われわれの世代は、ことコートにかけては映画やテレビドラマの影響が大きい。
 80年代に一気にインポートが充実してきて、フランスのエミスフェールとか、英国のバブアーとかの蝋引き防水のステンカラー系、あるいはマッキントッシュとかの「ひと捻りした」フィールドコートに目がいったことがあるが、思い起こせばファッション誌からの情報が多かった。

 その時代に友人が寒いシーズンになってキルティングのイタリア製「ハスキー」を着ていて、「おっ。それ、新しいな」とほめたら、「コートじゃなくフィールドジャケット」であって、「イタリア製であるが元々がイギリスのブランド」だとか「エルメスがつくらせてる工場」だとか、後で分かるのだが、「それほとんどファッションカタログ誌情報の受け売りやなあ」だったのをよく覚えている。
 ビームスとかユナテッドアローズとかの店員も「ご存じかと思いますが、この○×は」みたいな言い方でコートの蘊蓄とか物語をよく語ってなあ。

 本来、尻が軽いわたしは(ファッションページの担当だったし)それらの「新しいもん情報系」にも手を伸ばしたことがあったが、「本物」や「オリジナル」と称されるものはどれも10万円以上で高いので、よく似たコートを探して買って着た思い出がある。
 もひとつ加えるとバブル時代以降、コートは同じ50OFFでも額が大きいので、同じ一枚を買うのになんか得な気がして冬のセールの狙い目だった。

 そういうあれやこれや、トレンチを含めてとりわけイギリスには、昔からいろんなコートがあるんやなあ、と知ったのだが、自分の場合、気がつけばワンパターンのステンカラーしか着なくなっていた。


 ちなみにチェスター型のコートは、「今シーズンはキャメルそれもカシミアですよ」的に流行ったことがあった。一回試着したが「これはちょいワルと言うよりも、頭がアレに見えるなあ」と、まったく興味がなかった。
「カシミア」のセーターは着ることがあるが、コートはまわりに着てる人がちょっとアレだったし、カシミアは素材が良ければ良いだけ、意図せずに「ほら、エエもん着てるやろ」というふうに見えてしまって、逆に「それがダサいねん」となる。
 一般的にアイテムを問わず「素材だけが良いダサい服」、つまりだれもが一目見て「良い生地だ」とわかる服をダサく着るのは致命的にダサい。

 さて自分のコート、であるわけだが、ここ10数年同じブランドの同じデザインのものばかり買って着ている。もちろん色違いや素材違いはある。
 なんか「ええカッコ言うな」とか「うっとしい野郎だなあ」とか聞こえてきそうだが、1着目はたまたま15年ぐらい前にオフィスの近所にあった北新地の小さなセレクト店「TRECCIA」で買った。


 うどん屋にいつもの昼定食を食べに行ったら、TRECCIAでセールをやっていて、一番前にかけられていたベージュのコートを店主の土居さんから「いいデザインで、素材もおもしろいですよ」と薦められた。
 ラグラン袖ではなく普通の付け袖のステンカラー、前ボタンは比翼隠しボタンじゃなく普通のボタン、丈だけちょっと短い。
「おっ、刑事コロンボの現代版。こんなシンプルなコートだけど今世紀になって見たことない、しゅっとした」感じがして、Mサイズを試着すると、シャリッと硬め素材で襟のクシャ具合も「これやこれ」だった。


 ブランドはアスペジ。「えっ、ビームスがやってるミリタリーテイストのブランドちゃうん」と思った。値段は40%OFFで5万円ぐらいだったと記憶する。
 セールにしても結構高い。アスペジはたしか自分ところから近い神戸のトアロードにブティックあったんちゃうやろか、ちゃんと見に行ったことないなあ、とも思った。
 この初めて買ったアスペジのステンカラーのコート、裏に懐かしいハイテク防寒素材のThermoreのネームタグとパターン・デザイン(実にどういうコートかよく分かる)が説明書きと一緒に描かれていた。



 それから毎シーズン、TRECCIAには悪いけどトアロードのアスペジ・ブティックに見に行って、裏に付いているパターン・デザインを確認して、試着して色違いを買った。

 同じナイロン素材の色違い(紺)はメルカリでも買ったなあ。
 気がつけば、ベージュ系〜カーキのアースカラーばかりぺらっペらの春夏用2着を含めて5枚になっている。


 そうなると、コートはクローゼット(んな大層なものではないが)でかさばるから、エミスフェールの蝋引きのステンカラーやグレンフェルのキルティング、ダーク・ビッケンバーグのハイファッション系コート……の着なくなった、いろんなコートをその都度「捨てよう」と決心してそうした。

 要するに、一張羅の複数バージョン。これ1パターンで「何でも来い」になったのであるのだが、同じシャツの色違いを複数持ってることはあるにせよ、結果的に「これは501系のジーパンみたいやなあ」と思う。



 もう一つつけ加えると、コートはマフラーやストールとかの巻物セットで考えるべし。例外として春以降はボーダーのバスクシャツにコートだけ着ることはあっても、絶対に首に巻物をあわせる機会がほとんどだから。

 この3種の真冬〜春夏のコートに組合せた「巻物」は、同じ神戸のアスペジ・ブティックで、毎シーズンのセール(あいかわらずセコい)にて一緒に買っている。

 偏見かも知れないけど、どんなコートも黒はまったくダメだと思う。「面白くない」というか、どこにも着ていける「ただの服」になってしまうから。そうなるとつまらない。

 ただコートにブルゾンにしても、ハイファッション系は必然的にどんどん目先が変わり、「今シーズンはこういうの着ないとアカン」とか「去年のコレクションなんて流行遅れや」と煽るような志向になる。
 けど、そんなものの見方、わからんわ。

(第9回・了)

次回、2020年5月1日(金)掲載