2000万円足りない人の、とりあえずの500万円 佐藤治彦

2020.10.7

12あなたは年金の何号被保険者ですか?

 

 月に一度行われる世論調査は、首相や主要政党の支持率とともに、政治のどんなトピックに関心があるか、解決を求めるかということをよく質問します。
 そして、この30年あまり、常に高い関心を集めているのが年金や福祉、社会保障の問題です。安心した老後を過ごせるようにして欲しいという多くの人の思いがあるのです。しかし、それは裏返せば、誰もが今のままでは十分な年金や社会保障は受けられないのではないか? という心配をしているということだと思います。
 政治は遅々としていて、今後ますます進む超高齢化社会に対応できる抜本的な社会保障改革を行えていません。このままでは困る人が多く出てくる。そんなことは、何となく誰もが感じています。 前の安倍政権でこの10年で行われた改革のひとつといえば、マクロ経済スライド方式を本格的に稼働させたことです。これは、その時の経済や財政の状況などによって、支払う年金の額を自動的に減らすことができるシステムです。支払う国に取っては良くても、それで生活をしていく国民にとっては困った話なのです。
 そして、2019年には年金2000万円問題が起きました。公的な年金だけでは、老後の生活を支えることはできないので、2000万円を自ら用意する必要があるというリポートを、国が選んだ専門家らが報告書としてまとめたのですが、政治家はそんなものは受け取れないと突っぱねました。国民から批判の声が上がるのを恐れたのでしょう。臭いものに蓋をしたと言ってもいいかもしれません。
 こうして、多くの人が将来を心配しています。そして、2つのことをしています。ひとつは、節約すること。もうひとつは、将来のことを不安に思うことです。
 私のところにも、多くの人が「このままではどうしようもありません。どうしたらいいでしょうか?」と深刻な顔をして相談に来られます。
 不安に思っている人に向けて、このままでは将来が大変だから、お金を増やしましょう! とリスクの高い金融商品や怪しい、中には詐欺まがいの儲け話を持ちかける筋も少なくありません。そういうものに騙される人も、将来のお金を増やそうとして、将来のお金を大きく減らしてしまう人も少なくありません。
 特に老後のために、今から投資をと宣伝するのが、日本を代表するような大銀行や証券会社だったりするからタチが悪いです。テレビでは豊かな将来のために投資が必要と宣伝されます。早めに始めればさぞかし安心が手に入るのだろうと思いきや、実際に虎の子のお金を持って窓口に行くと(ネットの取引であったとしても)、取引にはリスクがあり元本を下回る可能性がありますと書かれた書面にサインすることを求められます。
 将来のことを不安に思う気持ちはよくわかるのですが、そういう気持ちをうまく絡め取られて、本当に必要なことが後回しになっていませんか? と私は皆さんに問いかけたいのです。
 将来が心配だ、年金のお金だけでは足りないと思うだけで、年金のことをどれだけ知っていますか? と尋ねたいのです。ということで、今回の質問はこれです。


Q あなたは公的年金制度において、第何号被保険者ですか? 過去はどうでしたか? 手続きはきちんとしていますか? 


 公的年金だけでは、老後の生活が支えられない、と思う人は少なくありません。年金2000万円問題で問題になったリポートを読んでみても、確かに不足する人は少なくないのでしょう。ですから、自らお金を用意する必要もあるでしょう。しかし、老後に必要なお金は、それぞれで全く違います。また、老後の生活の柱になる年金の支給額もそれぞれで全く違います。そして、私が声を大にして言いたいのは、年金について知らなすぎるために、将来もらう年金のお金を減らしてしまっている人が少なくないということです。特に女性が心配です。なぜなら、多くの女性が夫に先立たれてから、15年ほどのおひとり様の人生を生きることになります。もちろん、それは80歳前後のことなのでしょうが、そこから先のお金に関わってくることだからです。
 私がお願いしたいのは、将来のことが心配だったら、きちんと知って欲しいということです。知って対応して欲しいということです。
まず、ひとつ知っていただきたいことをお話ししておきます。日本は20歳以上の国民全員が社会保険制度の中に入ることになっています。そして、年金制度では1から3のタイプに分けられます。第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者の3つです。
 まずは、会社員や役人など、毎月天引きで厚生年金の保険料を払っている人が第2号被保険者になります。そして、第2号の配偶者、多くの場合は妻で、専業主婦か、年収が一定以下の人は第3号被保険者になります。収入があれば、第1号や第2号被保険者の人もいます。そして、それ以外の人が第1号被保険者です。自営業者、フリーランス、農林水産業の人、学生、無職、自営業者の妻で第2号被保険者でない人、などです。
 第2号被保険者は、厚生年金保険料を給料から天引きで支払います。保険料の半分は勤め先が払ってくれます。第3号被保険者は、自ら支払う必要はありません。第1号被保険者は、国民年金の保険料を、銀行引き落とし、カード払い、請求書払いなどいろんな方法はありますが、自ら支払わなくてはいけません。天引きでないので、中には支払わない人もいます。通常は2年過ぎると、支払うことができなくなります。しかし、国民年金の保険料を支払わないと、老後に支給される年金のお金が減ります。
 先ほど、20歳以上の国民全員が、公的年金制度に入ると申し上げましたが、20歳以下で入っている人もいます。それは、未成年で第2号被保険者の人がいるからです。つまり、中学や高校を卒業した後、企業や役所に就職した人の中には10代から厚生年金保険料を払っている人がいるからです。それ以外の人のところには、20歳になると、国民年金のお知らせと請求書が送られてきます。あなたは、第1号被保険者です、だから、保険料を支払ってくださいというお知らせです。第1号被保険者ですから、保険料を支払ってくださいと確実にお知らせが来るのはこれ1回きりです。
 ここで大切なのは、多くの人が、人生の中で、第2号だったり、第3号だったり、第1号だったり変化することです。特に女性は変動が多い。
 例えば、就職して第2号だったけれど、結婚して退職し専業主婦の第3号被保険者になる。子育てが終わって、外に積極的に働くようになり、年収で300万近くもらうようになり、第2号被保険者に復帰。5年働いて、また、第3号被保険者になった。その後、夫が退職したために、妻は第1号被保険者となるといった具合です。そして、第1号被保険者に戻った時には、自ら役所に第1号被保険者になったと加入の届け出が必要です。しかし、第2号や第3号被保険者は会社が届けてくれるので、自ら届ける必要はありません。第3号被保険者として保険料を支払わない生活に慣れすぎて、夫が退職し第2号被保険者でなくなったので、第1号被保険者として年金保険料を支払わないといけないことに気がつかないことが多いのです。そして、第1号被保険者として、国民年金の保険料を払わなかった期間ができてしまうため、将来もらう年金が減ってしまうことになってしまいます。もう長いこと、自ら支払ったことがなかったので、仕方がないことです。
 学生時代2年と妻が56歳の時に夫が退職したとしたら、届け出をせず4年間の国民年金保険料を支払わないと、合計で6年分。支給される妻自身の老齢基礎年金が15%減ってしまうでしょう。その金額はざっくり毎月1万円です。それが生涯少ないまま続くのです。決して気にならない金額ではありませんね。
 知ってもらいたいことは、山ほどあります。多くの場合で、老後の年金は夫の方が多く、妻が少ないものです。前にも申し上げましたが、多くの場合、妻は夫が亡くなった後、ひとりの時間が15年間あります。その間の年金はどうなるのでしょうか? また、多くの人が、夫に万が一のことがあったら困るからと生命保険に入ります。それでは、老後にお金がもらえると思って毎月天引きで支払ってきた厚生年金は、夫が若くして死んでしまった場合は、払い損ということなのでしょうか? 今は熟年離婚も少なくありません。老後に離婚した場合の年金はどうなるのでしょうか? 国民年金を支払いたくても、支払う余裕がないときはどうしたらいい? いろんなことを1回で全部説明することは難しいです。これらのことは、また別の機会にお話ししたいと思います。まずは、年金についてきちんと知る必要がある。心配するなら、知識と知恵をつけようということです。
 思い出してみると、受験に合格したい、中間試験、期末試験でいい成績を取りたいと思ったら、お祈りしたり、お守りをもらうだけでは、決して合格したり、成績が上がったりしませんでしたよね。願いを叶えるためには不安に思って祈ったり心配するのではなく勉強しなくちゃしょうがない。それは、老後のお金の話でも同じことなのです。


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(第12回・了)

この連載は月1回更新でお届けします。
次回2020年11月7日(土)掲載