末井昭のダイナマイト人生相談 末井昭

2016.4.26

01人生相談(その1)

 

 彷徨える現代人たちよ、ここに集え!

 このたび、インターネット上に新しい悩み相談室が開設されました。現代社会に生きる人たちは、心の奥にさまざまな生きづらさを抱えています。そんなみなさんの人生の難題に向き合うのは、人生の辛酸を舐めつくした人が一番――というわけで、人生の辛酸を舐めつくした末井昭さんが、あなたのお悩みをダイナマイトのように吹き飛ばしてくださいます。

 それでは「末井昭のダイナマイト人生相談」にようこそ!

 

【相談1】

 今年45歳になりますが、童貞です。高校2年くらいまでは、野球部の男友達らと毎日一緒にいるだけで、みんな楽しく幸せに過ごせていました。ところが、高校卒業の年から急に友人たちに彼女ができはじめたりして、ラブホ話が耳に入ってきたりして、孤立感を覚えました。その頃から、いえ、本当はもっと昔からわかっていたんです。自分は女子と口もきけない、いつも女子を怖がっている、どうせ好かれっこないと。それ以来今日まで、一度も彼女ができたことがありません。当時の仲間たちは、会えば子どもの話で盛り上がっています。セックスがしたいんです。童貞ですから。でも風俗はいやなんです。でも怖くて……。この年で童貞と開き直れる度胸もなく、親友にもこの話だけはできずにいます。どこに行けば、何をすれば、私は自由になれるでしょうか。

(ムササビさん/45歳/男性/会社員)

 

【回答】

 ぼくは高校生ぐらいのときから顔にコンプレックスがあり、自分に彼女ができるはずはないと思っていました。恋愛というものは、美男美女でないとできないものだと思っていたのです。
 高校を卒業して川崎の自動車工場で働いていたとき、幸運にも同じ下宿先に、可愛い女性がぼくより先に下宿していました。
 ある寒い夜、買ってきた小さな電気ストーブのスイッチを入れると、バチンとヒューズが飛んで家中真っ暗になりました。一軒家に住んでるお婆さんが、空いてる部屋をぼくと先に下宿していた女性に貸していたのですが、冬になるとそれぞれが暖房器を使うので、電気の容量がいっぱいになっていたようです。ぼくはいつも一番遅く帰ってくるので、すでにぼくが使う電気はなかったのです。
 電気ストーブが使えないから、布団にもぐり込むしか暖を取る方法がなかったのですが、先に下宿していた女性が、なんと「私の部屋にコタツがあるから来ませんか?」と言ってくれたのです。女の人と2人っきりになるなんて初めてのことで緊張しましたが、電気ゴタツに足を入れているとお互いの足が触れ合ったりして、すぐ仲良くなりました。そしてめでたく童貞喪失。数年後、その女性と結婚することになります。
 ぼくの場合、童貞喪失に電気ストーブが協力してくれたわけです。500Wのちっちゃなやつですけどよく頑張ってくれました。何が協力してくれるかわかりませんね。そういうチャンスは絶対逃さないようにしないといけません。
 とは言うものの、本当は寒かったので「暖まりたい」という強い欲求のおかげで彼女の部屋に入ることができたのです。内向的でコンプレックスも強かったので、ただ「遊びに来ませんか?」と言われただけだったら行かなかったかもしれません。
 自分の話ばかりで恐縮ですが、童貞を喪失して思ったことは、顔のことはそんなに恋愛とは関係ないということです。もちろんイケメン好きの女性もいますが、それより優しさや男らしさといった性格的なことのほうが判断材料になります。
 質問者は、何ゆえに女子に好かれないと思っているのかよくわかりませんが、自分の思い込みでそう思っているだけかもしれません。容姿のことはぼくの例で書いたように、さほど問題ではありません。容姿のことで問題なのは、そのことでコンプレックスを持ち、そのため心が少しねじ曲がったりしていることです。最終的には心の問題です。
 どういう男がモテるかというと、女の人の話をよく聞いてあげる人です。1時間でも2時間でも、ときには一晩中でも。相手の話を聞くときは、自分のことを考えてはいけません。そろそろ切り上げようなんて考えたら、相手にすぐ伝わります。ひたすら相手の話を聞く。相手にとっていいサジェスチョンがあれば、相手が納得するまで話す。しつこいと思われるなんて思ったらいけません。相手に対してよかれと思うことは、絶対引き下がってはいけません。そうすれば、どんな女の人とだって絶対仲良くなれます。
 童貞か童貞でないかなんてどうでもいいことだと思いますが、童貞であることで女の人を敬遠したり、コンプレックスを持っているのでしたら、さっさと童貞を捨てるべきです。風俗がイヤだとか言わないで、とりあえず風俗しか童貞を捨てるところがないのだから、イヤがらず行ってください。
 また自分の話で恐縮ですが、ぼくは30代の頃、毎日のように風俗に行っていたことがあります。友達と昼食を食べたあと「じゃあ行きますか?」みたいな感じで、昼間っから行っていました。あまり行くものだから、風俗店から「今日新しい子が入ったんだけど、いらっしゃいませんか?」という電話がかかってきたりしました。高校を卒業したばかりの新人の女の子が、どうしたらいいのかわからないと言うので、ぼくがお手本に体に泡をつけてボディ洗いをしてあげたこともありました。
 風俗は怖くないですよ。女の子はみんな可愛いし。もちろんボッタクリの怖い店も中にはありますけど、最近はネットなんかで店のチェックができますから、ちゃんと調べて行けば大丈夫です。可愛い女の子があなたのお越しをお待ちしてま~す。って、なんだか風俗店の宣伝みたいですが。

 

【相談2】

 末井さん初めまして。私は25歳女子会社員です。至って普通の生活を送ってきたと思っていますが、学生時代に風俗店でアルバイトをしていました。そのおかげで特に金銭的な苦労をしたことはありませんでしたが、現在の職場は大変給料が安いです。ただ、いま働いている職場は学生時代より願っていた職場であり、金銭的な苦を理由に辞めるつもりにはなれません。
 私には昨年からお付き合いを始めた男性がいます。彼はもともと友人関係にあり、私が風俗店で働いていたことも知っていましたが、何も気にせずお付き合いをしてくれています。そんな彼は現在飲食店勤めで金銭的に苦しい状態です。1年ほど前から、彼にお金を貸してくれと無心されるようになりました。あるとき用意できず、遂に出会い系サイトに登録し、その相手から貰ったお金を横流しするようになりました。もちろんそのことを彼は知りません。彼は口が悪く、お金を貸した翌日には私をからかうように、癇癪女などと罵ります。
 私にとって彼へお金を貸すことは、自分を保つための必要経費であると思っていましたが、いま本当に実際はどうなのか悩んでいる状態です。彼に意思表示をすべきか、すべきではないのか、教えてください。

(シセルさん/25歳/女性/会社員)

 

【回答】

 聖書的に言うと、男と女の関係は、男が女を愛し女はその愛を受け止めるということです。ですから、女が男を愛するより、男に愛されているほうがうまくいくようになっています。男女平等だとか言ってますけど、男と女は神様がそういうふうに造っているのです。
 そういう法則に反して、女が男を愛そうとしたり、金銭的に男を援助したり、男を養ったりすると、女はボロボロになり、男はフヌケになります。その典型がヒモですね。ヒモ男は男の尊厳を捨てていますから卑屈になります。あなたの彼が、あなたからお金を借りた翌日あなたを罵るのは、卑屈になっている証拠です。おそらく、そういうことにあなたは薄々気がついていて、「このままでいいのだろうか?」と悩んでいるのではないかと思います。
 お金を貸すのを断ると関係が切れてしまうと思っているのでしたら、関係をお金で買っているということで、そういう関係がいつまでも続くわけがありません。そのお金を作るために、あなたが売春なんかすれば、あなたはさらに自分をすり減らしていくことになります。
 話はちょっと変わりますが、ぼくは合計2000万円ほどのお金を、10年以上前に数人に貸しています。これまでに返ってきたお金は3割程度です。返してもらう約束の日が来たら催促の電話をするのですが、「もう少し待って欲しい」と言われてそれっきりです。ぼくが何回もしつこく催促すればいいのでしょうが、それをやると自分が高利貸しの取り立てをやっているような気分になってきます。困っていると思って善意で貸したつもりなのに、自分が悪人になったような気分になります。ですから、人にお金を貸しても、返済の催促は1回しかしないことにしています。それで返してもらえない場合は諦めます。その代わり、その人と二度と会うことはありません。
 つまり、人から平気でお金を借りる人の大半は、返す気がもともとないということです。お金をくれと言えないので、貸してくれと言っているだけのことです。あなたが彼に貸したお金も返ってこないでしょう。もちろん、必要経費だと思っているぐらいですから、返ってこないことはわかっていると思いますが、そのうち「自分はなんでこんなことをしているんだろう?」と思うようになってくると思います。
 彼は優しい人なのかもしれませんが、優柔不断でルーズな面があるような気がします。彼がいないと自分を保つことができないと思うことは、あなたの思い込みではないでしょうか。その思い込みがいま剥がれようとしているのです。
 結論としては、彼との関係を一度リセットすることです。そして出会い系サイトとも手を切ることです。
 もし彼があなたのことを(金銭的にではなく)本当に必要としているのなら、彼のほうから関係修復をしてくることでしょう。それがなければ、それまでということです。
 あなたがいま働いている職場は、あなたがかねてより願っていた仕事ができるわけですから、しばらくは彼のことを忘れて仕事に集中してみてはどうでしょうか。

 

【相談3】

 現在就職活動中の大学生です。自分自身これだという強みや資格がないのに加え、社会常識の不足からくるギャップも大きく、なかなか就職活動で結果を出すことができません。やりたいことはどうすれば見つけられるか、そもそも仕事を探す上でやりたいことは考えるべきなのか。 一言バシッと斬っていただけたら幸いです。

(てんすけさん/25歳/男性/大学生)

 

【回答】

 まず言いたいことは、若い人の悩みに、やりたいことがわからないということが結構あるのですが、やりたいことがわからないとか、やりたいことがないということが、自分の欠陥だと思ってる人が多いのではないかと思います。中にはそのことが強迫観念になっている人もいます。やりたいことなんてないのが普通なんです。
 それよりもあなたの一番の問題は、どうやったら就職試験に受かるかということですよね。その就職試験で「キミのやりたいことは?」と聞かれるから、やりたいことはどうすれば見つけられるか知りたいというわけですよね。でもやりたいことがない。だったら、はっきり「やりたいことはありません」と言ったほうが受かるかもしれません。ぼくも会社にいたとき、採用試験の面接を何度かやりましたが、確かにぼくも「やりたいことは何?」って聞いたような気がします。
 採用試験で雇用側が知りたいことは、その人の性格、やる気、協調性、個性ぐらいだと思うのですが、何がやりたいかという質問は、その人のやる気や個性や性格を判断しやすいんですね。何がやりたいかを聞いても、そのやりたいことを会社がやらしてくれるということじゃないのです。「やりたいことはありません。ただ与えられた仕事を一生懸命やって、やりたいことを見つけていこうと思っています」とか言うと、ぼくだったら「おっ?」と思ってその人のことが記憶に残ると思います。みんなやりたいことがないのに無理矢理何か考えて「何々がしたい」とか言っているわけですから、面接官は「あ、本当はやりたいことがないんだな」とお見通しのはずです。その逆をつくということです。
 まあ、これは就職試験のテクニックですから、そういうハウツー本でも読んで、なるべく給料の高い会社を選んで挑戦してみてください。
 就職活動のことはひとまず置いておいて、やりたいことについて参考になるかどうかわかりませんが、ぼくの例を挙げておきます。
 ぼくは雑誌の編集を20年ほどやっていました。実務を離れて取締役業をやっているときも、ときどき書籍の編集をやっていました。その期間も入れると35年ほど編集の仕事に携わってきたことになります。
 しかし若いとき、編集者にだけはならないようにしようと思っていたのでした。
 その頃ぼくは、フリーでエロ雑誌にイラストレーションを書いたり、表紙のデザインをしたりする仕事をしていました。
 ぼくの担当の編集者はすごい酒飲みで、ぼくはその頃まったくお酒が飲めなかったのですが、その編集者に話し相手としてよく酒場に連れて行かれました。ぼくはビールをチビチビ飲みながら、その編集者のグチを聞いていました。そのグチの内容は、俺はいまエロ本を作っているけど、昔はC公論社にいた、いま小説を書いているとか、要するにエロ本をやっているのは仮の姿だというようなことを言うのです。エロ本編集者のコンプレックス丸出しなわけです。
 ぼくは編集者ってみんなそんな感じなのかと思っていたので、絶対編集者にだけはならないようにしようと思っていました。ところがそれから3年ほどして、自分がエロ雑誌の編集者になることになってしまったのでした。そのとき、エロ本編集者になるからには、あの元C公論社の編集者と正反対の編集者になろうと思ったのでした。編集方針も「この雑誌はエロ雑誌です。紀伊國屋書店では絶対買えません」とわざわざ銘打ったりしていました。そういうことをやっていると、面白がってくれる人もいて、それにつれて編集も面白くなってきて、何年かすると編集者が自分の天職じゃないかとさえ思うようになりました。だからやってみるまでわからないんですね、何が好きなのか、何が自分に合っているのか。そういうことはやりながら発見していくことのように思います。

 

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(第1回・了)

 

 

この連載は月1更新でお届けします。
次回2016年5月30日(月)掲載