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『それでも、私は憎まない』
イゼルディン・アブエライシュさんよりメッセージ

現在、イスラエル軍によって空爆が繰り返され、地上作戦も進められているガザ地区。
一連の戦闘により死傷者は500人を超し、その数はいまも増え続けています。

かつてイスラエル軍の空爆によって3人のお子さんを失ったパレスチナ人医師イゼルディン・アブエライシュさんの著書『それでも、私は憎まない あるガザの医師が払った平和への代償』は、今年の1月に弊社から発売され、大きな反響をいただきました。



その著者のイゼルディンさんが、今回のガザを襲っている流血の悲劇の即時停止を求めて、英「ガーディアン」に特別寄稿をされました。イスラエル、パレスチナ双方に憎しみの連鎖を断ち切る融和を呼びかけています。今回、著者の許可を得て、その日本語訳を下記に公開します。

世界中の一人でも多くの方に、イゼルディンさんのメッセージが届きますように。

亜紀書房
編集部

* * *

『ガザで我が子を失った父親として、今回の流血の即時停止を呼びかけたい
パレスチナ人、イスラエル人は、共に協力して人間性と自由を信じる新しい世代を構築しなければならない 』

イゼルディン・アブエライシュ(文) 乾亜希子・清田明宏(訳)

Izzeldin Abuelaish theguardian.com、2014年7月18日金曜日13.29 BST

 アインシュタインが言ったように、狂気とは、同じ事を繰り返し行って、異なる結果を期待することである。我々パレスチナ人、イスラエル人は、多くの破壊的な戦争を経験しているが、結果は常に同じ。さらに多くの死、さらに重い傷、さらに多くの流血、さらなる敵意、さらなる憎しみである。我々は、戦争の結果に何を期待しているのか。

 現在の紛争は、少なくとも260人の死者、1,600以上の重傷者、2,300以上のイスラエルの空爆、1,300以上のガザから発射されたロケット弾があり、少なくとも600もの家や建物が破壊された。両国の子供たちは心に傷を負い、日常生活のあらゆる側面は麻痺している。数百万人ものイスラエル人が、攻撃にさらされ防空壕で、恐怖の中、身を潜めることを余儀なくされている間、パレスチナ人は絶え間ない攻撃にさらされている。しかし、戦争の影響は、我々がメディアで知り得る内容をはるかに超えている。我々に見えていないことは、見えていることの10倍もあり、両国が苦しんでいる。

 2009年1月に、イスラエルの破裂弾により、私の3人の娘が命を落とした後、私はこう結論づけた。私の娘たちがパレスチナ人とイスラエル人の間の平和への道の最後の犠牲者なのであれば、私はこの損失を受け入れよう、と。私は、私が利用可能な手段、すなわち、知恵、勇気、強固な言葉、意味のある行動、だけを用いて戦い続けると誓った。

 しかし、私の家族を修復不可能なほど傷つけたあの戦争から私が学んだことは、我々(パレスチナ人とイスラエル人)皆が、自身の行為を正当化するために防御的な立場をとっていることだ。これは恐怖と過去の経験に由来する。我々は責任を持って、新しい考え方に自分自身を委ね始めた場合にのみ、異なった結果を得ることができる。

 紛争は、恐怖、不信と疑惑の結果である。我々は我々の心の中に作成したこれらの人工的な障害を粉砕する必要がある。なぜなら、我々自身の心、精神と魂にあるものを我々が変えるまで、何も変わらないのだから。

 耐え難い苦しみ、損失、治安の欠如と恐怖の中で生きることの意味を、私は痛いほど理解している。愛する人を失い、恐怖の中で生きることを余儀なくされているイスラエル人の苦しみを理解し、感じている。しかし、希望と生活を再開するために、パレスチナ人とイスラエル人にとって、最良の方法とは何か。傷の一部が開いたままの段階や方法ではなく、人々を癒し、完全に傷を閉じる必要がある。

 この世に不可能なことは何もないが、取り返しが付かなくなる前に、我々は行動する必要がある。パレスチナ人、イスラエル人は長い間怒りを感じているが、我々の怒りは一体何を達成したのか問う必要がある。怒りは我々自身や他者に、破壊や不正をもたらしている。戦争が終了する(私は早くそうなるように望んでいるが)と、皆は、その勝利を讃えるが、実際には、皆、戦争の敗者なのだ。

 孤児や重傷を負った子供、癒えない魂の傷を生み出す勝利があるだろうか。最愛の3人の子を失い傷ついた、遺族の父親として、私はすべての人間の苦しみを感じるが、私はこの流血の終結を求める。

 歴史の中で、今、この瞬間を逃してはならない。イスラエルの希望と将来の安全と自由は、パレスチナ人の治安、安全、自由と将来に密接に関連している。我々は、結合体双生児のようなもので、一方を傷つければもう一方に影響を与える。

 両者が勇気を持って、他方の尊厳、寛大さと強さを受け入れねばならない。我々にはもはや、お互いに協力しながら傷を癒し、涙を拭き、過去の教訓を学びながら、前を向いていくしか残された選択肢はない。ジョージ・オーウェルは言った、社会が真実から離れてしまえばしまうほど、社会はその真実を語る人々を憎むだろう、と。我々は皆、同じ色の血を流し、生命は皆、等しく、尊い。いかなる理由も、人間に対する殺害、抑圧、脅迫を正当化するものではない。

 ぜひ新しい世代を、人間の文明を進めることを共同プロジェクトと信じ、宇宙で最も神聖なものは人間性と自由であると信じる、新しい世代を構築しようではないか。

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