「よし! ビートルズと同じことをマンガでやろう! 今年は『ホワイト・アルバム』50周年だし!」と思い立ち、漫画家/イラストレーターの本秀康さんがひとりインドへ旅出ったのはちょうど1年前のこと。ビートルズゆかりの地・リシケシュで思いついた漫画のアイデアを携えて帰国してから、ネーム描き、ペン入れ、トーン貼り……と怒濤の日々を経て、本さんにとって約10年ぶりとなる新作『あげものブルース』の原稿がついに全ページ完成しました。できあがったばかりの原稿を抱え、本さんが向かった先は下北沢。そこで本さんを待っていたのは、10代の頃から『レコスケくん』を愛読し、筋金入りの本秀康作品ファンを公言するドレスコーズの志磨遼平さん! プライベートでも親交のあるおふたり、実はこのあとの対談でも出てきますが、志磨さんは本さんの「担当編集」でもあるのです。それではさっそく、できたてホヤホヤの『あげものブルース』を読んでいただきましょう。さてさて、志磨さんの感想は……?
【ゲスト・志磨遼平さんプロフィール】
志磨遼平(しま・りょうへい)
1982年和歌山県出まれ。毛皮のマリーズのボーカルとして2011年まで活動、翌2012年1月1日にドレスコーズ結成。シングル『Trash』でデビュー。12月に1stアルバム『the dresscodes』を発表。アルバム2枚、E.P.1枚を発表後、志磨以外のメンバーが脱退。現在はライブやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わるという唯一無二の活動を続けている。その後3枚のアルバム、4枚のライブ映像作品を発表。俳優、文筆家としても活動の場を広げている。2年振りとなるフルアルバム『ジャズ』が2019年5月1日にリリース予定。
公式サイト https://dresscodes.jp
本秀康(以下、本) 志磨くんと出会ったときには、もう『ワイルド マウンテン』(小学館から刊行されていた月刊漫画誌「IKKI」にて2004年~2010年まで連載、単行本は全8巻)が終わっていたので、まとまった長さの新作をこうして読んでもらう機会ってなかったよね。
志磨遼平(以下、志磨) そうですね。思えば僕が本さんの漫画を初めて読んだのって、高校生の頃ですからね。たまたま読んだ「レコード・コレクターズ」に載っていた『レコスケくん』の、ベイ・シティ・ローラーズの回だった。
本 あれだよね、透明のレコード袋にベイ・シティ・ローラーズのジャケットが透けてて恥ずかしい(笑い)ってやつ……下北沢にあるレコード屋のフラッシュ・ディスク・ランチのレコード袋が透明になったときに考えた話です。志磨くんには、これまでの作品をずっと褒めてもらっていたけど、新作を読んでもらうことってなかったと気がついてかなりビクビクしちゃった。
志磨 「昔のほうが好きかも〜」とか言いがちですからね、ファンは(笑)。いま、僕が隔週で出してる自分のファンジン(志磨が編集長を務めるWebマガジン「ドレスコーズマガジン」)で、本さんに毎月短い読み切り漫画(「ゴッホくん」)を連載していただいてるんですけど……やっぱり、新作は気合いの入り方が違いますね。
本 いやいや、そんなことはないですよ。「ゴッホくん」もすごい頑張ってるから(笑)。でも考えたら、俺の新作を真っ先に読む係を最近は志磨くんにやってもらっているんだね。
志磨 そうですね。光栄なことに。
本 この対談のために『あげものブルース』のゲラを事前に読んでもらったじゃないですか。ただ最後の一話だけはまだ完成していなくて、今日出かける時間ぎりぎりまでラフを描いて、先ほど目の前で読んでもらいました。ドキドキするねぇ。
志磨 いや、僕もですよ。描き上げたばかりの最終話を作者の目の前で読むなんて。
本 しかし、『ワイルド マウンテン』の連載終了から今年で9年なんだって。
志磨 そんな経つんですね!
本 連載が終わってからしばらく漫画は描きたくないなと思ってたけど、日常で面白いことが起こると、これは漫画にしなきゃと思ってちょこちょこ描いていて。それが「からあげ」「とんかつ」「てんぷら」からなる「あげものメドレー」です。それに「かりんとう」という100ページくらいのお話があって、また「続てんぷら」「続とんかつ」「続からあげ」と「続あげものメドレー」が続くというのが今回の本です。最初の「あげものメドレー」のネタは実は全部ノンフィクション。あげもの屋では事件が起こるんですよ。俺がいかにあげもの屋に通ってるか! ですよ(笑)。
志磨 じゃあ、作中に出てくるてんぷら屋も実在のお店がモデルなんですか?
本 これは「いもや」なんですよ。神保町のいもやはわかります?
志磨 いえ、わかんないです。
本 そっか。俺は神保町行くと絶対いもや食べてたんだよね。高校のときに、九段下と神保町の間にあった中国雑貨店の娘さんに恋をしまして。めちゃくちゃ通ってた。って嘘なんだけど。
志磨 嘘なんですか(笑)。
本 いや、通ってたのは本当だけど、なんか俺がその中国雑貨店に店員目当てで通ってるってデマがクラスでウケてたので、そういうことにしていました(笑)。で、いもやは庶民的なてんぷら屋で、昔は神保町に数店舗あったんです。大好きで高校を出たあともずっと通ってたんだけど、去年一店舗を残して閉店したんです。
志磨 えー! それって本さんが描いたあとですよね? 漫画の中では閉店の危機を逃れたのに……。
本 「てんぷら」「続てんぷら」は『ワイルド マウンテン』が終わった直後の約10年前に描いてるからね。
志磨 そんなに前からあったんですね! まずオープニングの「からあげ」を読んで、「本さんがグルメ漫画を描いたらこうなるのか〜!」と思いました。向いている、と僕が言うのも失礼ですけど、本さんのうんちく体質がバッチリハマってると言うか。泉昌之さん(泉晴紀と久住昌之の漫画家コンビ。久住が原作、泉が作画を担当。単行本『かっこいいスキヤキ』他)的な感じもあって。でも、てっきり編集さんとかが企画したのかと思ってました。「グルメ漫画ブームだし、本さんもやりましょう!」的な。
本 違うんだよね。(グルメ漫画が)大人気になる前から描いていたから、グルメ漫画大流行りの中出すことになってしまって恥ずかしい(笑)。
志磨 最初に描いたのは、どのエピソードですか?
本 一番絵が下手なやつだから「てんぷら」だろうね。最近メチャクチャ描き直したけど。
志磨 えーっ! いまだに上手くなってるんですね……。すごい。
本 うまくなっていくというか、9年漫画をやっていないとね。「ゴッホくん」を描かせてもらっているから、かろうじて漫画の描き方を覚えているけど、やっぱりイラストとは全然違うんですよ。描いているうちにちょっとずつ慣れてきて、漫画らしい画面になる。
志磨 自分のTwitterにも書いたんですけど、「続とんかつ」は本さんの真骨頂だな〜! って思いました。この「鯱鉾入り人」!
本 あ、あれはノンフィクションではないです(笑)。
志磨 ですよね(笑)。
本 鯱鉾入り人のネタはいつか描きたいなと思っていたので、資料用に名古屋城の鯱の模型も買ってあったんです。
志磨 あの1ページぶち抜きの大ゴマは、つげ義春さんを連想しちゃいますね。
本 そう、あれは「李さん一家」なの。俺の絵からは誰も想像できないだろうけど、つげさんには割と影響を受けているんです。今回の本は自分ではつげさんの旅情ものに近い感じはある気がする。つげさんの作品は文学性の高さと絵の緻密さが魅力だけど、俺の絵は細密画の魅力が欠如してるので伝わりづらいと思うけど。俺の技量ではこれが限界……でもあのページに驚いてくれる人こそが俺の真の読者ですよ! あそこに至るまでに、推理小説みたいに実はここが城だっていくつかヒントを出してるのはわかりました? このコマも、なんだか変な場所で話しているじゃないですか。
志磨 ……あー! ほんとだ! 全然気がついてなかった。
本 最初の頃は背景を結構描いているんだけど、途中からそれを忘れてもらうように黒ベタにしてるの。暗くてさ、このZライトで明かりをとってて……完全に城の中っぽいじゃないですか。
志磨 ほんとだ! 知ったあとに見ると、もう城の中にしか見えなくなりますね。
本 全部俺が求めていたリアクション! 最初の読者が志磨くんで良かった〜。このリアクションがもらえないと、俺もう発売したくなくなっちゃうから。
志磨 この回、やっぱり最高だな〜! 最後のほうの、夫婦間のほっこりするやりとりもすごく好きです。
本 いいよね、俺にしては珍しいハッピーエンド。『ワイルド マウンテン』も俺の中ではハッピーエンドなんだけど、割とショックを受けた人も多いらしくて。
志磨 本さんの作品はハッピーエンドに見せかけて、最後にもうひと展開ありますからね。鬱エンドも多いかも。絵のタッチがかわいいだけに、衝撃がすごい。
本 今回の主要登場人物3人のうちの2人はハッピーエンドを迎えます。「からあげ」の人に俺の漫画っぽさを担ってもらった感じかな。ハッピーエンドが強調されているのが、この9年間の俺の作風の変化かもしれない。そうそうそれでね、数年前から漫画は描かないといけないなと思ってたんですよ。『ワイルド マウンテン』が終わった頃は「うちで描きませんか」って引き合いもあったんだけど、断り続けてたら「もうこの人は描かないんだな」って思われたのか、全然執筆依頼がなくなった(笑)!
志磨 完全にイラストレーターに転向したと思われたのかもしれませんね。
本 自分でもそのつもりだったんだけど、時間がたつと描きたくなるよね、漫画。それとはまた別に、ここでいきなりビートルズの話になるんですけど、『ホワイト・アルバム』があるでしょう。あれはインドのリシケシュの僧院で彼らが修行していたときに作った曲を集めてできたアルバムで、それを漫画で再現したいというアイデアを温めていたんです。インドに実際に行っていくつかお話を考えて、いままでいろいろなところで描いた短編を集めれば混沌とした『ホワイト・アルバム』っぽい内容の一冊ができるだろうと。
志磨 なるほど。
本 でもインドにわざわざ行って話を考えるとか、そんなこと普通やらないじゃないですか。ただ去年はそこに『ホワイト・アルバム』発売50周年というのがありまして。もう今年やるしかないということになった。
志磨 たまにふたりでお茶したり、レコ屋行ったりするときに、そのアイデアの話は聞いてたんですよね。……というか、「一緒にインド行こう」っていうところまで進んでましたよね(笑)。インドで本さんは漫画を描いて、僕は曲を作って。それを日本に戻って合体させて、『ホワイト・アルバム』のオマージュ漫画とそのサウンドトラックとして出せたらおもしろいね、って。「おもしろそう! 行きたいです〜!」と言ったものの、結局僕がバタバタしてしまい……。
本 もうちょい俺が押せばよかったかな。……なんだけど、読んでいただいておわかりのように、『ホワイト・アルバム』とは真逆の超コンセプチュアルな内容になりました。
志磨 Twitterで連載スタートのお知らせを見たときに、「あっ、インドで描いたやつだ!」と思って開いたら、タイトルが「あげものブルース」で。あれ? って。
本 『ホワイト・アルバム』と全然関係なさそうだもんね。
志磨 Webでは先に「からあげ」「とんかつ」「続とんかつ」が公開されていますけど、インドも『ホワイト・アルバム』もまったく出てこない。だからどうやってインド、ビートルズに繋がるのか想像もつかなかったんですが、ゲラを読ませていただいて、伏線が全部回収されていくのはすごかった。しかも、Webで公開されている順番通りにお話が進むわけじゃないんですね。
本 あれらは先行シングルなんです。シングルカットすると、アルバムで聴くのとは聴こえ方が変わったりするじゃないですか。
志磨 なるほど! (『ホワイト・アルバム』期の先行シングル)「Lady Madonna / The Inner Light」とか「Hey Jude / Revolution」なんですね、あれは。
本 「The Inner Light」で思い出したんだけど、実は『ホワイト・アルバム』ってインド感があんまりないでしょ。でもいざインドに行ってみると、そこでの生活がものすごい反映されていることがわかったんです。
志磨 向こうで撮った写真も見せていただきましたけど、マハリシ(導師マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー)が住んでいたところは、いまは跡地みたいになってるんですか?
本 長いこと廃墟になってたみたい。俺は5年前にも一度行ったんですよ。そのときはもう、野犬はいるわで荒れ果ててたんだけど、去年は『ホワイト・アルバム』50周年にかこつけてなのか、入り口で入場料を払うようになってて、中も整備されてビートルズ・ファン向けの観光地になっていました。漫画にも描いたけど、ひとつひとつの施設の前に「ビートルズが住んでたとこですよ」とかサインボードが出ていて、親切。「Black bird」(アナログB面収録)って、鳥の鳴き声の効果音が入ってるでしょ。マハリシ・アシュラムってどこにいてもあの鳥のさえずりが聞こえるんだ。「Mother Nature's Son」(アナログC面収録)とか、ここで曲作りをしなきゃできなかっただろうな〜って曲がいっぱい入っていることを実感しました。「Piggies」(アナログB面収録)も、泥の中で豚が動き回ってる……みたいな歌詞なんだけども、町中で豚の親子が泥の中で遊んでるのを見るしさ。そうか、ジョージもこの景色と税金問題とかを絡めて曲にしたのかなとか。
志磨 最近の「レコスケくん」でも「鳥の鳴き声が既に『Black bird』だ」ってセリフがありましたね。
本 しかしインドでお話を考えて、帰って20 〜30ページの短編を描いて、いままで描いてきたやつと合わせたら一冊になるだろうと考えていたんですが、実りが多すぎた。結局描き下ろしが160ページくらい。当初の予定では、50年前にビートルズが滞在したのと同じ季節にインドに行って、ビートルズが『ホワイト・アルバム』を出したのと同じ日に俺も本を出そうと思ったんだけど、間に合わなくなっちゃった。
志磨 制作期間が延びてる時代のビートルズよりも、さらに時間かけちゃったんですね。
本 あいつら4人だから(笑)。
志磨 やっぱりインドに行くと、創作意欲が湧くものですか?
本 久々に。溜まってたものを全部詰め込んだって感じかなぁ。インドであらすじを考えた「かりんとう」という100ページ弱のお話は、亡くなった父親とのエピソードなんです。これもほぼ実話で。漫画の通りの別れ際だったので思い出すのがつらくてさあ、なるべく思い出さないようにしていたんですよね。でも親の死は誰にでも訪れることなので、もの作りをしている以上いつか主題にしなきゃいけないのかなと思っていたところもある。ひとりになると考えちゃうから部屋に飾ってた父親と写っている写真も、しばらく裏返してたんですよ。でもそれもようやくこっち側に向けて、勇気を出して描きました。
志磨 リシケシュの空気感のおかげもあったんでしょうか。そこでやっとお父さんとの思い出とも向き合えた、というような。
本 うん。何もやることがないっていうのは一番大事なのかもね。ビートルズもそうだったはず。インドでは瞑想する以外はやることがなかったんでしょうね。50年前のリシケシュなんて娯楽もなかったと思うし。それであれだけ良い曲が書けたのかなと思いました。でもまあ結局、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』的なコンセプトアルバムのような内容になりました。『ホワイト・アルバム』を目指していたのに、そうならなかったのは自分でも不思議でした。
志磨 でも『ホワイト・アルバム』らしさも感じましたよ。音楽には、曲と曲とを繋ぐ「クロスフェード」って技があるじゃないですか。たとえば1曲目の最後で音量が小さくなっていく最中に、もう2曲目のイントロが聴こえてくる、みたいな。「Back in the U.S.S.R.」のおしりから「Dear Prudence」のイントロにまたがって飛行機のジェット音が残っているあの感じとか。
本 すごい! まさに俺が話したかったことを言ってくれる。志磨くんも「曲間」にはうるさいタイプでしょう?
志磨 うるさいですね。だから本さんのお話の繋ぎ方はさすがだな! って思いました。リプライズ(反復)もあるし。
本 音楽的でしょ? 音楽を作るのってこういうことなのかな? って原稿の断片を繋げる作業をしました。せっかくメドレー漫画にしたのでそれが伝わるように。まあメドレー漫画ということ自体が俺しかやっていないけどね。考えたら、毛皮のマリーズの『Gloomy』(2009年発売)だってもしかしたら『ホワイト』っぽいのかな? 言われたことないでしょう、サイケっぽいから。
志磨 たしかに「超観念生命体私」って曲なんかは『ホワイト』のジョンの曲っぽい……「I’m so tired」とか。
本 「God Only Heavy Metal」の「Helter Skelter」ネタだけじゃなくてね。「Back in the U.S.S.R.」がちょっと出てくるやつもあるもんね。
志磨 ♪バイバイ僕のアラバマ……ってやつ(「The Heart Of Dixie」)かな?
本 曲順と曲間に『ホワイト』マナーをすごい感じる。
志磨 でもビートルズくらいですよね、「自分も同じことをやってみよう」って追体験したくなるのは。追体験というと聞こえはいいですけど、つい真似してみたくなる。僕もそうやってアルバムまるごと1枚(『Gloomy』)を作ったことがあるから、本さんの気持ちはすごくわかる。
本 今回の単行本は、もともとは雑多な内容のものを詰め込んで、『ホワイト・アルバム』のパッケージを模して、俺のピンナップも入れてもう完全パロディ形態で出そうかと思ったんだよ(笑)。でもそうならなかった実験性、それこそが俺の『ホワイト・アルバム』なのかなって思いました。もし志磨くんがリシケシュに行くなら、2週間はいないとダメだよ。俺らみたいなのが行くと、最初の1週間は「ここにビートルズがいたんだ〜」の感動で滞在の意味がでちゃうから。飽きてやることがなくなってからが純粋に「ビートルズの気持ち」で創作活動ができる。いや〜飽きたね~、10日くらい通ったけど。
志磨 リンゴは1週間くらいで帰っちゃったんでしたっけ?
本 リンゴは食べ物が合わなくてみんなより先に帰ったんだよね。俺は多分リンゴよりは長くいた。ただリンゴの時代と違ってね、いまはリシケシュでもなんでも食べられるし、その差はあるよね。
志磨 いやあ、しかし本さんの『ホワイト・アルバム』オマージュ計画が、こんな形で結実するとは。
本 漫画を描いていなかった9年の間に、新しい才能もたくさん出てきているじゃないですか。だからね、その人たちに負けない新しいことをやりたいとは思っていたんです。でもその前に、まずはいままでの自分の作風にケリを付けないといけないとも考えていて。だから今回の本では特段新しいことはしていない。でも久々に出すから読者の方の反応が恐ろしい。これを面白いじゃんと言ってもらえたら、次はこんなこともやるんだっていうのをようやく描けるかなと思っています。
志磨 楽しみですねえ。
本 いままでと違う新しい試みの作品を発表するのって勇気いるじゃん。その点志磨くんはすごいと思ってます。ここ最近は毎回新しいことしてるもんね。ファンが戸惑うくらいのチェンジングがいっぱいで。なかなかできないですよ。いつも新譜ができるとミックスが終わったくらいでまっ先に聴かせてくれて、俺はファンなので普通にワーイって喜んでますけど、志磨くん的には実は覚悟のうえで手渡してくれてたのかなーって、いまになって思います。
志磨 お会いしてすぐの頃……まだドレスコーズを結成したばっかりで、出来たての1st(2012年発売の『the dresscodes』)を聴いてもらったときは「かっこいいけど、やっぱり60年代へのオマージュが面白かったから俺はマリーズのほうが好きかな」っておっしゃってましたよね。
本 うわー! ひどいよね、それ本人に言うなんて(笑)。
志磨 いや、でも嬉しいもんですよ。だって「レコスケくん」に聴いてもらってるようなもんじゃないですか(笑)。さすがにいまはもう思わないですけど、最初は本さんのこと「レコスケくんだ……」って思ってましたから。ちょっとでもジョージをけなしたり、データを間違えようもんならすごい勢いで論破されそう、みたいな。だから「レコスケくんが言うなら仕方ない」って思ってました。それに、僕は毎回コロコロやることが変わるじゃないですか。だから、たとえば『平凡』(2017年発売の5thアルバム)なんかは「今回あんまり好きじゃないかもですが……」って前置きしてから渡したりしましたもんね。そしたら、意外にも褒めてくださって。
本 そうだったね。いま改めて『the dresscodes』を聴くと、つまり耳馴染んでくると、あれは志磨くんの音楽でしかなくて、メチャクチャかっこいいからね。志磨くんが先行き過ぎてるだけだった。『平凡』のころになると、あとあと違和感なく志磨くんの音楽として響くことになるって学習ができてるから、しっくりくるのが早いんですよ。何がルーツになってるか教えてもらってYou Tubeで聴いたり、レコードを買いに行ったり。志磨くんに聴く音楽の幅を広げてもらっています。
志磨 いま作ってるアルバムのレコーディング現場にも遊びに来ていただきましたね。しかも、一番ディープというか、ズーン……とした曲のギターを録ってるところに本さんがいらして。
本 サックス奏者の梅津和時さんもいらしてね。
志磨 今回は全曲のサックスの演奏はもちろん、ブラスアレンジ全般を梅津さんにお願いしたんですよ。
本 俺、初めて自分でお金を払ってライブを見に行ったのが梅津さんなんですよ。正確に言うと、二十歳くらいのとき、今日告白するぞって女の子を連れてジョセフ・ジャーマンを見に行ったんです。そうしたらジョセフ・ジャーマンが宗教上の理由で今日は演奏できないって言い出したらしく、ドラマーの富樫雅彦さんが怒って今日は中止だってなったんだけど、梅津さんがせっかくお客さんが来てくださったんでやりましょうよってジョセフ・ジャーマン抜きでライブをやったんです。それをご本人にお伝えしたいと思ってたんだけど、志磨くんもやけに真面目だから俺もめちゃくちゃ緊張しちゃった。
志磨 すごいことになってますよ、楽しみにしててください。
本 また驚かせてもらえるんだろうな。俺も、志磨くんに読んでもらったゲラはまだラフミックスみたいなものなので、本になったら真っ先に届けます!
志磨 ぼくもCDになったら真っ先に届けますね!
(2019年2月14日 下北沢にて)
『あげものブルース』ただいま絶賛制作中!
「あき地」で公開中の「からあげ」「とんかつ」「続とんかつ」を含む、じわっと油の染みた大人のためのハートウォーミングストーリー、単行本『あげものブルース』はただいま刊行に向けて制作中です。発売は4月の下旬を予定しております。刊行の暁にはイベントなども考えておりますので、どうぞご期待ください!