神社で一拝、酒場で一杯。各地の神社仏閣やパワースポットにお詣りをし、その街で出会った酒場でふらりと飲む。それが「ごりやく酒」。
中野の飲み屋街にある神社
午後から中野へ行く用事があったので、いつものように事前の神社仏閣検索をしていると、ある神社の存在を知りました。「桃園稲荷」。
中野駅南口からすぐの場所に「中野レンガ坂」という小さな通りがあり、そこを中心に幅広いジャンルの酒場が密集する、通好みの飲み屋街。個人的にも好きな店があり、何度も行ったことはあるのですが、そのなかに神社があったなんて気がつかなかったな。気になる。ぜひとも行ってみたい。
というわけで、今回の舞台は中野です。
「中野サンプラザ」
こちらはレンガ坂とは逆の北口ですが、昨年閉館し、今や解体を待つばかりの中野のランドマーク。会社員時代、中野に勤務していたこともあるので、見るたびになんとも寂しい気持ちになります。
「中野レンガ坂」
そしてやって来ましたレンガ坂。現地に到着しても、やっぱりこのあたりに神社があったなんて知らなかったなぁとあらためて。
こんな渋い風景の宝庫
夜に来ると頭上にきらびやかなライトが点灯し、いっそうロマンチックなんですが、昼間の静かな味わいもまたいいですね。しかし当然ながら、飲み屋街なので営業中の店はあんまりなさそう。
スマホの地図を頼りに、しばしうろついていると、見つけましたよ。桃園稲荷。
なんだか懐かしい雰囲気
「桃園稲荷」
隣の建物「桃園会館」は、地域の集会所兼社務所といったところでしょうか。全体的にコンパクトなサイズ感がなんとも好ましいです。
鉄網で守られたお稲荷様
桃園稲荷の創建の年代や御祭神は不明。
ただ、このあたりにはかつて「生類憐れみの令」で有名な江戸幕府5代将軍、徳川綱吉が作った犬屋敷がありました。その跡地に、8代将軍、徳川吉宗の命によって桃の木が植えられて「桃園」と呼ばれる花見の名所となり、やがて地名になったのだそう。つまり桃園稲荷の創建は、それ以降の年代ということになるのでしょう。
そういえば、現在は閉業してしまったようですが、かつてこの近くに「桃園浴場」という銭湯があって、好きだったんだよな。なんだか可愛らしい名前だなと思っていたんだけど、そういう経緯の名前だったんですね。
赤いのぼりには「豊川荼枳尼真天(とよかわだきにしんてん)」、ちょうちんには「豊川稲荷大明神」の文字があります。荼枳尼天とは、インドの「ダーキニー」が起源の、神、夜叉(やしゃ)の一種。正体は雌のジャッカルで、日本に伝わった際に姿が似たキツネと合体し、稲荷信仰と習合していったのだとか。詳細はわかりませんが、そのあたりの由来にもとづいて歴史を重ねてきた神社ということでしょう。
拝殿
現在は毎年2月に、五穀豊穣と商売繁盛を願う「初午祭」が行われ、周辺に80基以上の行燈を設置してライトアップするなど、地元の神様として深い信仰を集めているようです。
ウニプリンの味は……?
さて、お詣りを終えて本日もごりやく酒タイム。せっかくなので、レンガ坂周辺の飲み屋街を散策してみましょう。
「蔡菜食堂」
真隣にあった「蔡菜食堂」という上海料理の店がいきなり良さそうなんですが、残念ながら営業前。
ものすごくパンチの効いたイラストだ
あまりにも気になってあとから調べてみたところ、珍しい「蔡」という文字は、店主さんの名前だそう。なんでも予約必須の人気店らしく、ここはぜひ後日来てみたいところ。
というか、そもそもディープな飲み屋街。さすがにこの時間にやっている店はないかな〜と思いながら歩いていると、なんと! ランチ営業というわけでもなく、普通に営業中の飲み屋さんを見つけてしまいました。
「BOQUERIA」
どうでしょうこの、大衆酒場好きの僕が、ふだんなら絶対にふらりと入ることはないであろうおしゃれな外観。ところがですね、店頭にあったアラカルトメニューのいちばん目立つ左上にあったメニューに、いくらなんでも興味を惹かれすぎてしまったんです。
なんだ!? ウニプリンって
しかも、ざっとメニューを見渡すと、けっこうリーズナブルなメニューもあって、ライトな昼飲みにぴったりそうな店じゃないですか。ごりやく酒でなければきっとスルーしてしまっていたであろう出会いにも運命を感じます。よし、入ろう!
2階席
感じのいい店員さんが案内してくれたのは、広々とした2階席。ひとり客なのでカウンター席に座らせてもらいましたが、目の前が吹き抜けになっていてものすごく開放感があります。
いい気分〜
古い建物を改装したお店なのかな
この日は気温35℃を超える真夏日。まずは当然、キンキンに冷えたビールが飲みたいわけですが、お、「一番搾り」「一番搾り黒生」に加えて「ハーフ&ハーフ」があるじゃないですか! これは飲みたい。
「ハーフ&ハーフ」(税込700円)
お通しのトリュフ風味のナッツとともに届いたのは、見るからにパーフェクトなビール。ごくり、ごくりと乾いたのどに流し込むと、案の定ですよ。うまいビールの証、エンジェルリングがくっきりと。
美しい……
さて料理。店名のBOQUERIA(ボケリア)は、スペインにある「ボケリア市場」が由来のようで、お店のジャンル的には “スペイン&メキシコバル” となるようです。が、その他南米系の料理や、お店のオリジナル創作料理など、メニューが幅広くて楽しいですね。
単品のタパスメニュー
当然ウニプリンは頼むとして、裏面にある、牛、豚、鶏、ラム、4種類のタコス(それぞれ500円とリーズナブル)も気になる。が、今日の気分は「鮮魚とアボカドのセビーチェ」(650円)かな。確かペルーが発祥の、生の魚介類と野菜を使ったマリネっぽい料理ですよね。
「殻つき濃厚ウニプリン」
やってきました、ウニプリン。頼む際に店員さんに聞いてみたところ、「新鮮な生うにを使った、デザートではなく前菜的なプリンです」とのことで、けっきょくなにがなにやらわかっていないのですが、とにかくスプーンですくってひと口。
どんな味なんだろう
するとなんだろう、まったりとした口当たりがまず心地よく、クセはまったくなくてさっぱり味で、けれども塩気はしっかりとあって、そして口のなかで溶けだすほどに、うにの香りが広がっていきます。食べたことがなさすぎて理解が追いつかないけれど、いくらでもお酒が飲めてしまう味。食べるという経験をできたことがありがたい一品というか、美味しいに加えて、楽しい!
「鮮魚とアボカドのセビーチェ」
続くセビーチェもめちゃくちゃ良かった。メインはダイス状にカットして湯引きしたまぐろでしょうか。そこにアボカドやトマトなどの野菜、さらにパクチーがたっぷり入って、柑橘系の果汁の香りが爽やかなソースでマリネしてあります。ピリリと辛いアクセントはハラペーニョかな。これは夏にぴったりのおつまみだ。
「カイピリーニャ」
セビーチェのどさっとしっかりした量も嬉しく、せっかくなのでそれらしいお酒をと「カイピリーニャ」(800円)をおかわり。カイピリーニャとは、サトウキビの蒸留酒「カシャーサ」に、生のライムや砂糖などを加えたブラジルのカクテル。「度数が高いのでゆっくり飲んでくださいね」と、チェイサーのお水と一緒に出してくれる店員さんの心遣いが、心に染みます。
ウニプリンとセビーチェ、そしてごろごろとライムが入った甘酸っぱいカイピリーニャをゆっくり堪能し、大満足でごちそうさまでした。思いがけず、めちゃくちゃ夏っぽい時間を堪能してしまったな〜。
というわけで今回も、ならではの出会いに感謝しつつ、大好きな店がひとつ増えてしまったごりやく酒でした。
(第11回・了)
本連載は、基本的に隔週更新です。
次回:2024年8月23日(金)掲載予定