ごりやく酒 パリッコ

2024.3.22

03練馬「東神社」と「チャンピオンケバブ」のケバブ

 

 神社で一拝、酒場で一杯。各地の神社仏閣やパワースポットにお詣りをし、その街で出会った酒場でふらりと飲む。それが「ごりやく酒」。

 

湧水の湧く神社

 パワースポットと言われる場所は日本全国に無数にありますが、たとえば我が家の近所にもあるんだろうか? 興味が湧き、僕が住む「練馬区」をキーワードに調べてみたところ、練馬駅からすぐの場所にある「東(とう)神社」の存在を知りました。なんでもそこには、都内では珍しく境内に湧き水が湧いていて「天明神水」と呼ばれ、実際に飲むこともできるんだそう。

 練馬には何度も行ったことがあるけれど、そんな場所があることはまったく知りませんでした。よし、行ってみよう!

 

「練馬駅」

 

 というわけで、地元、西武池袋線の石神井公園駅からわずか4駅の、練馬駅に到着。東神社があるのは、南口側に広がる繁華街のなか。と聞くと、年末に大規模な酉の市が行われる「練馬大鳥神社」が真っ先に思い浮かびます。東神社はそのすぐ近くにあるとのことで、せっかくなので、大鳥神社にもご挨拶をしておきましょう。

 

「練馬大鳥神社」

 

 練馬大鳥神社の御祭神は、天之日鷲命(あめのひわしのみこと)と、鶴霊神(つるのれいじん)。伝承によると、正保2(1645年)にこの付近に3羽の鶴が飛来し、村人が保護。その鶴が寿命を迎えた後、祠を建ててその霊を祀ったことに始まるのだそう。

 

繁華街のなかにあって、静かな雰囲気

 

 また、境内にある「石薬師如来」は、目の病に効果があり、特に8のつく日にお詣りするとそのごりやくが大きいのだとか。訪れた日は偶然にもちょうど18日。社務所でいただいた「開運札」に感謝の言葉を書いて納め、最近気になってきた老眼の悪化防止にも淡く期待をしておきましょう。

 さて、続いて東神社。本当にこの近くに? と思ったら、思いっきり隣にありました。このあたりは何度も通ったことがあるし、なんなら目の前の酒場で飲んだことすらあるのに、なんで気づかなかったんだろう……

 

「東神社」

 

 入り口の看板には「心道きよめ苑」の文字。鳥居はありませんが、一礼して門をくぐると、やっぱり神聖な気分になります。

 

本社殿

 

 東神社の創建は約1300年前。推古天皇の時代から信仰されてきたとのことで、御祭神は、天照大神と八大龍神。金運、開運、出世にごりやくがあるらしいです。ありがたや〜。
 まずは本社殿にいつもどおりお詣り。したのですが、僕のあとに参拝をされていた方々はみな、二拝二拍手一拝ではなく、「パン、パン、パン、パン」と、4回拍手をされています。そこであとからよく調べてみたところ、ここでは「二礼四拍手一礼」が推奨されているとのこと。次に行ったときは忘れないようにしよう……
 境内には他に、「馬頭観音」「豊玉宇太(歌)稲荷」「御神水之宮」があり、順にお詣り。

 

「馬頭観音」

 

「豊玉宇太(歌)稲荷」

 

「御神水之宮」

 

 そして、天明神水! 社務所の近くに紙コップが用意されていて、それを使って自由に飲んでいいそう。説明書きによると、これは「地下百参拾米」から湧く御神水で「吉方」に流れており、「しずくを紙コップに受けて八口で」飲むことにより、ごりやくが得られるのだとか。

 

「天明神水」

 

紙コップがあるのがありがたい

 

なんと、このしずくをためて飲む

 

 というわけで、なかなかのワイルドスタイルだなと思いつつもいただいてみます。水は無味無臭ですが、まろやかで、気のせいだとは思いつつ、なんだか高級なお茶を飲んだあとような余韻がある気が……。とにかく、とてもありがたい気分になれたことは間違いありません。

 ちなみに、これまたあとから調べてわかったことに、この御神水の飲みかたにも、もっと正式な方法があるそう。まずは社務所の方にお願いし、生まれ年によって決まるという自分の吉方を教えてもらって、それにならった方角を向いて……ということだそうで、こちらも次回は、もっときちんとした方法でいただいてみなければ、と思っております。

 

衝撃のおつまみケバブ

 さて、今日も心身が清められたところで、飲みにくりだしましょう。
 周辺一帯は、無数に酒場がある飲み屋街。なのですが、あまり昼飲みができる店のあるイメージはなく、とにかく行き当たりばったりにふらついてみます。間違いなく飲めるであろうチェーン店や中華料理店はちらほらとあるものの、せっかくだからもうちょっと個性的な店と出会いたい。そんな気持ちであっちへ行ったりこっちへ行ったり、ふらつくこと30分ほど。

 

夜はにぎやかなんだけど

 

やってる! けど、前に入ったことある店だな……

 

いい雰囲気の中華屋はたくさんある

 

 そろそろ繁華街エリアを抜け、この先はさすがにもうなにもないだろうと。あったらむしろこっちが引くわと。思うくらいの、ぎりぎりのところまでやってきたところで、なんだか派手な飲食店らしきを発見。どうやら「チャンピオンケバブ」というケバブ屋さんのようです。

 

「チャンピオンケバブ」

 

 近寄ってみると、街なかでよく見るテイクアウトのケバブ専門店的な感じではなくて、他にもかなり豊富なトルコ料理を扱うお店らしい。しかも、店内でも食事ができて、お酒もいろいろありそう。これはもう、トルコ料理酒場と考えていいでしょう。よし、今日はまさかの、ケバブ飲みに決まりだ!

 

メインのケバブ類

 

「たまご入りゴズレメ」……?

 

どう見てもこの人がチャンピオン

 

 2人がけと4人がけのテーブルが少しずつだけのこぢんまりとした店内。ですが、壁や天井じゅうがカラフルな装飾や電飾で飾りつけられ、ものすごくにぎやかな雰囲気。店員さんがひとりで営業されているようですが、さっき写真で見たチャンピオンとは別の方のよう。当然、カウンター内には例の、回転しながら肉を焼くでっかい棒も鎮座しています。

 

楽しい店内

 

 ビール、ハイボール、バーボン、カクテルなどなど、やっぱり種類豊富なお酒類。珍しいトルコのお酒もいろいろあって興味深いですが、まずはなじみ深い「アサヒ スーパードライ」から。

 

「アサヒ スーパードライ」(税込み500円)

 

 よ〜く冷えた缶ビールを自分でグラスに注ぎ、ぐいっとひと口。心身を清めた後に歩き回ったからか、っくぅ〜……やっぱりうまい! ちなみにグラスに書かれた「EFES」とは、トルコの代表的なビールの名前らしく、せっかくだからそっちを選んでみても良かったかな。

 

カトラリーのしまわれかたが超かわいい

 

 さておつまみ。さっき見た「ゴズレメ」、「焼きナスの上にビーフケバブとヨーグルト」、トルコの白チーズサラダ「ベイネルサラダ」他、初めて見る料理が数ページにわたって並び、どれもこれも気になります。甘いもの系もいっぱいある。けどまずはやっぱり、ケバブだよなぁ。

 で、そのケバブにバリエーションがあって、肉が、「チキン」「ビーフ」「ミックス」の3種類。食べかたはそれを使った、ピタパン風サンド「Sand」、トルティーヤ巻の「Wrap」、どんぶりにした「Rice」、生野菜×肉オンリーの「Otsumami」の4種類。ソースは甘口、中辛、辛口の3種類。トッピングの「チーズ」と「ハラペーニョ」がそれぞれ100円。大盛りは150円、メガ盛りは400円プラス。

 う〜んう〜ん……ミックス、Otsumami、中辛(700円)で! それと、サブのおつまみに良さそうな「ちょこっとフムス」(300円)もお願いします。

 

どっすーーーん!

 

 すぐに届いたケバブを目の前に、僕がしばし言葉を失ったことは言うまでもありません。いわゆる、普通に牛丼とかかつ丼とかが入ってそうな大きさのどんぶりに、大量の肉! 野菜! こ、これは、ケバブ界のラーメン二郎……

 

標高がすごい

 

 一体どういう構造になっているかがわからず、とにかく上のキャベツ&レタスを別皿に移動。それをひと口食べてみると、シャキシャキと新鮮で甘く、サラダとしてすでにうまいです。

 で、肝心の本体のほうは、まだまだ標高の高い、焼きたてのチキン&ビーフの山。いよいよこれを食らっていきましょう。

 

大迫力

 

 鶏肉は、表面はこんがりとしつつもふわっと柔らかく、それよりもう少し細かめに刻まれた牛肉はさすがの味わい深さ。まろやかでスパイシーで、ほんのりピリ辛な独特のソースとよく合います。ふいにごろりと口に飛び込んでくる、脂身っぽい牛肉がとろける美味しさで、そのたびにうっとり。

 ただ、本気で量がすごいので、しばらくはひたすら黙々、合間にビールを挟みつつ肉を食べ続けます。うまい! うまいが、食べれば食べるだけシンプルにお腹がいっぱいになっていく! こんなにもストイックに肉食欲を満たす時間、いつ以来だろうか。

 

お、下に野菜が?

 

 しばらくひたすら肉の層と向き合っていると、上にのっていたのと同じ構成のキャベツ&レタスが、肉の下にもたっぷりと敷き詰められていることが判明。これが、鶏肉と牛肉の油を吸ってしっとりとし、またまたうまい!

 

ちょこっとフムス

 

 ただ、ケバブは基本的に全体的な味は同じなので、クリーミーで豆っぽく、大好きなクミンがしっかり香るちょこっとフムスが、箸休めにありがたいです。頼んでおいて良かった。

 やがてビールがなくなり、もう1杯なにかそれらしいお酒を飲んでみたいなとメニューを見ると、トルコではポピュラーだという「ラク」というお酒が気になります。無色透明ながら水で割ると白濁するという特徴は、フランスのお酒「アブサン」に近いのかな? 主な原材料はぶどうで、そこに「アニス」というセリ科のハーブの種で香りづけがしてあるのだとか。

 

「イエニ ラク」(500円)

 

 度数が45度もあるらしく、あらかじめ水割りにされ、チェイサーの水とともにやってきたラク。ちびりとひと口飲んでみると、おぉ、これはいわゆる香草系のスピリッツですね。甘くて、独特のクセがあって、個人的にはすごく好きな味。

 このラクを相棒に、またひたすらに肉&野菜と対峙するタイムへ突入。が、正直に懺悔させてください。この大盛りケバブ、あとほんの34口のところまでは食べたのですが、どうがんばってもそれ以上は胃に入らなくなってしまい、ポリシーに反するものの、最後は涙目になりながらギブアップしました。
 お会計時、店員さんに「ごちそうさまでした。すっごく美味しかったんですが、どうしても食べきれなくて……すみません」とお伝えすると、にっこりと笑って「ダイジョウブ!」と言ってもらえたんですが、なんとも心苦しかった……。あらためて、あのケバブが700円ってどうかしてるな。大盛りやメガ盛りを頼んだらどうなっちゃうんだろう……。

 と、まさかの選択肢ながらも、練馬大鳥神社と東神社のごりやくがなければ間違いなく出会うことのなかったであろう名店、チャンピオンケバブ。ひとりで思うぞんぶん楽しむのはもちろん、数人で行ってあれこれ頼んで飲むのも絶対に楽しい。それから、テイクアウトを利用する地元の方も多く来店していて、我が家から電車代をかけたとしても、あの美味しさとボリュームはぜんぜんあり。あ! ホームパーティーなどの機会に手みやげとして持っていっても喜ばれるだろうな〜!

 と、今回もまた良い縁に恵まれた、ごりやく酒でした。

 

(第3回・了)

本連載は、隔週更新です。
次回:2024年4月5日(金)掲載予定