ごりやく酒 パリッコ

2024.9.27

14大阪・京橋 「若宮八幡大神宮」と「赤のれん」のトマトチーズ焼き

 

 

 神社で一拝、酒場で一杯。各地の神社仏閣やパワースポットにお詣りをし、その街で出会った酒場でふらりと飲む。それが「ごりやく酒」。

 

 

銭湯あがりに

 

 前回、前々回と京都編をお送りしてきましたが、それは34日の関西飲み遠征のうち、たった1日目のこと。その後も、飲みまくり食べまくりの幸せな日々を送らせてもらいました。2日目以降の滞在先は大阪。というわけで、今回は大阪編です。
 関西に到着した翌日のお昼。この日も飲み友達のライターであり、夕方には「梅田Lateral」というライブハウスで行われるトークイベントに一緒に出演する予定の、スズキナオさんと待ち合わせ。最初の目的地は、大阪屈指の飲み屋街、京橋駅から徒歩数分の場所にある「ユートピア白玉温泉」です。

 

「ユートピア白玉温泉」

 

 温泉と名前がついていますが、基本的には普通の銭湯。ただ、近年リニューアルされた施設の充実ぶりがすごい。広々とした休憩スペースや飲食スペースがあり、サウナや外気浴もできるし、お風呂の種類も多彩。しかもなんと、毎日朝6時から営業しているというまさにユートピア! 超ぬるめの露天風呂が永遠に入っていられそうな心地よさで、たまに上から氷が落ちてくる水風呂「氷風呂」に思い切って入る爽快さもたまりません。なんせ、8月の猛暑日ですからね。そして外気浴スペースで、よ〜く冷えた体をゆるませる。えぇ、完全に抜けました。魂と、昨日の酒が。
 そしてここでナオさんに、僕のわがままをひとつ聞いてもらうことにしました。今日も今日とて、まずは土地の神様にお詣りをしてから飲みはじめたいです! と。地図を調べてみると、駅とは逆方向にさらに数分歩いた場所に「若宮八幡大神宮」という神社があるよう。由緒などはわからないけれど、そこへ行ってみることにしましょう。

 

少し歩くと路地の先に見えてきた

 

 

「若宮八幡大神宮」

 

 

「神額」

 

 たどり着いた若宮八幡大神宮は、住宅街のなかに静かに佇む、なんとも空気の良い場所でした。
 創建年は明らかでないものの、『日本書紀』にも登場する仁徳天皇の御遺徳をしのび、当時の村民が神祠を創建したことが始まりと言われています。主祭神の「若宮八幡大神(わかみやはちまんおおみかみ)」が仁徳天皇のことで、大阪には仁徳天皇を祀っている神社がとても多いそう。
 ごりやくは、勝運、商売繁盛、五穀豊穣、安産、家内安全、平穏安寧など。
 また、昔からこの地はクスノキの茂る小さな丘になっていて、慶長19(1614)年に江戸幕府と豊臣家が争った「大坂冬の陣」では、徳川方の佐竹義宣が境内に陣を張り、矢を献納して戦勝祈願をしました。それゆえ、今でも多くの歴史ファンが訪れる場所でもあるのだとか。

 なんだか、銭湯あがりにふらりとすごいところに来てしまったな……

 

由緒之碑

 

 

狛犬

 

 境内に入るとすぐ左に、僕の住む東京ではあまり見ないようなカラフルな手水舎。そのなかには鯛に乗った恵比寿様の像が。ずいぶんごきげんそうなお顔で、ぜひ金運アップのごりやくにあやかりたいところですね。

 

手水舎

 

 

恵比寿様。鯛もかわいい

 

 

風鈴の涼しげな音が静かに響く

 

 ゆっくりとお詣りを済ませ、さらに境内にある五穀豊穣の神様「豊受稲荷大神」、金運の神様「乾大神」にもご挨拶。詳細はわかりませんが、乾大神の両側の対になった石がとても印象的です。

 

「豊受稲荷大神」

 

 

「乾大神」

 

 

祖先の霊を祀る「祖霊社」

 

 

さらに境内には

 

 

かわいい顔の「撫で牛」も

 

 

 

新しい店かと思いきや

 

 ではでは、本日もごりやく酒タイム。京橋駅方面に戻って今日1軒目の酒場を探しましょう!

 

京橋に到着

 

 京橋には何度か飲みに来たことがあるのですが、駅周辺のアーケード商店街を中心に大衆酒場が無数に立ち並ぶ、酒飲みにとっては天国のような街。まだ午後2時ほどですが営業中の店も多く、しかもどこを覗いても満席状態という、いかにも大阪の酒場街らしいエリアです。

 

なんて楽しい

 

 

街なんだ

 

 まずは駅周辺をナオさんとぶらぶらしつつ、どこに入ってみますかね? と相談。とはいえナオさんは、ご自宅もそう遠くない京橋飲みマスター。僕的には、1軒だけでもナオさんも入ったことがないお店を開拓してみたいんですが(素直にナオさんのおすすめに従えばいいのにそうなってしまうのは僕の天邪鬼なところ)、良さそうな店を見つけて「ここはどうですか?」と聞くと、たいてい「いい店ですよ!」と返ってきます。
 そうやって20分近くは歩き回り、いいかげん暑いし、どこでもよくなってきましたね……となったあたりでちょうど目の前にあったのが、「赤のれん」というお店。

 

「赤のれん」

 

 

元気のいい看板だ

 

 ぱっと見はどう見ても、老舗とかではなくて新しい店だよな〜。けどもう、とにかくそろそろ涼みたい。そして聞けば、ここにはナオさんもまだ入ったことがないという。いったんここで、風呂あがりからずっとお預け状態だった生ビールを飲みますか! ということになりました。
 ところがですよ、扉を開けてみてびっくり。ここがどう見ても年季の入った、ものすごく渋い酒場なんですよね。

 

真っ赤なカウンターがかっこいい

 

 そういえば思い出しました。大阪の人って古いものに執着がない傾向があり、あまり「古き良き雰囲気を残そう」と考える人が多くない。むしろ「新しくてピカピカなほうがええやん!」と、年季の入った店舗を惜しげもなく新しくしてしまったりするらしい。そして、そうやって変化を続けるいろんなタイプのお店がごちゃっとあるのが大阪の魅力のひとつでもある。そういう意味ではここも、とても大阪らしいお店と言えるのでしょう。
 店員さんにこれから人数が増えると告げ、通してもらった2階席がまた、味わい深い広々空間で快適!

 

いいな〜

 

 ここで、なんと偶然僕らがトークイベントをするLateralで昨日イベントに出演していたという東京の飲み友達、ミュージシャンの「ディスク百合おん」さんが合流。3人で、至福の乾杯タイムです!

 

「生ビール キリン一番搾り(中)」(税込528円)

 

 

なんて幸せなんだ〜

 

 で、この赤のれんの楽しいポイントが、とても選びきれないくらい膨大にある料理メニューが、脈略がないと言っていいほどに幅広いこと。当然一般的居酒屋メニューはひととおりありますが、あまり大阪感を打ち出そうともしておらず、とても自由。寿司もあればパスタもあるし、デザートのコーナーには「チョコバナナフライ」や「揚げバナナのアイスクレープ包み」なんてものまであります。

 

チーズへの思い入れ、かなり強め

 

 

アボカドもまたしかり

 

 ここはそれぞれフィーリングで、あれこれ頼んでいきますか。

 

「水なすの造り」(495円)

 

 

「げそ塩焼(二本)」(418円)

 

 

「いわし梅肉天ぷら」(528円)

 

 

「生麩の味噌田楽」(440円)

 

 なにを頼んでも安定して美味しく、ボリュームもたっぷり。そしてまた、みんなでわいわい「これってどんな感じの料理なんだろうね?」と盛り上がれるのもポイントで、冷静を装いつつ、心のなかで何度「楽しいー!!!」と絶叫したことか。特に、甘じょっぱいみそをのせて焼いた生麩の味噌田楽は初めて食べる味わいで、強く印象に残った一品でした。

 さらにこのあと、今夜のイベントでご一緒する、漫画『酒のほそ道』の作者、ラズウェル細木先生、神戸在住の信頼の飲み師、山琴さんなど、愉快なメンバーが続々到着。立ち飲み屋も多い京橋で、こうしてゆっくり飲むのには、もしかしてベストチョイスのお店だったかもしれないなぁ。

 

「完熟トマトと生ハムのピザ」(638円)

 

 頼んだおつまみのなかで特に気に入ったのが、完熟トマトと生ハムのピザ。これまたどう出てくるのか想像できておらず、少なくとも生ハムは上にのっているのかな? くらいには思っていたんですが、なんと生ハムも一緒に焼いてしまうという意表を突いたスタイルでした。ただ、これが妙にいいんですよ。きちんとハムが美味しくて、ジューシーなトマト、たっぷりにもほどがあるチーズ、そして、お腹にたまらないので酒飲みには嬉しい、薄い生地。まさに、酒のつまみに特化した逸品ピザと言えましょう。

 赤のれんをじゅうぶん堪能したところで、当然、次なるハシゴ先を探すことにしましょうか。夕方までにはまだまだ時間がありますからね。
 え? そんなんでトークイベントは大丈夫なのかって? ははは。こんなに楽しいのに、考えてられませんよ、そこまで。

 

(第14回・了)

 

本連載は、基本的に隔週更新です。
次回:2024年10月11日(金)予定