神社で一拝、酒場で一杯。各地の神社仏閣やパワースポットにお詣りをし、その街で出会った酒場でふらりと飲む。それが「ごりやく酒」。
江戸のにぎやかさを象徴するような神社
東京の中心地である、神田、日本橋、秋葉原、大手丸の内、旧神田市場、豊洲魚市場などをはじめとした108町会の氏神様であり、江戸総鎮守。また、隔年5月中旬に「 江戸三大祭」や「日本の三大祭り」のひとつに数えられる「神田祭」が行われることでも有名な「神田明神」。 正式名称「神田神社」。まさに、東京を代表する神社のひとつです。
先日、偶然前を通ることがあり、そういえば東京出身であるにもかかわらず、きちんとお詣りをしたことがなかったなと、ふらりと寄ってみたんです。そうしたら、その重みのある歴史に対して言葉が合っているかどうかはともかく、なんだかとても楽しくて、わくわくするような場所だったんですよね。
ということで、今回はあらためて、じっくりと神田明神にお詣りしてみようと思います。
正面鳥居
表参道の入り口には立派な鳥居があり、その横には甘味処兼おみやげ屋の「天野屋」さんが。この、ちょっと旅行に来たような観光地っぽさが、すでに楽しい。
「天野屋」
ザ・観光地なマグネットたち
せっかくだからと、僕にしては珍しく名物の「明神甘酒」を店頭で1杯いただいてみると、これがものすごく美味しい! とろりと甘く、お米のつぶつぶ感も残っていながら、キーンとよく冷えていて爽やか(温かいものも選べます)。飲んだら即元気になれるような、まさに日本の栄養ドリンクですね。
さらに、続く参道の両側にもおみやげ屋、そば屋、名物の「餅いなり」を提供するお店などが並び、とってもにぎやかです。
そしてその先にあるのが、超〜立派な「隨神門(ずいじんもん)」。神田明神の入り口ですね。
「隨神門」
細部まで意匠が凝らされ豪華絢爛。この門をいろんな角度から眺めているだけでも、たくさんの発見があります。
さまざまなモチーフが見つかる
で、その横の手水舎がまた立派。
「手水舎」
大きな水盤
両手を清めたら、いよいよ境内に向かいましょう。
「神田明神」
神田明神は、天平2(730)年、出雲氏族の真神田臣(まかんだおみ)により創建。
戦国時代に入ると、太田道灌や北条氏綱といった名立たる武将たちから崇敬されるようになりました。慶長5(1600)年の「関ヶ原の戦い」では、徳川家康が合戦に臨む際に戦勝祈禱を行い、天下統一を成し遂げます。その日が9月15日で、縁起の良い祭礼として「神田祭」が行われるように(現在は5月に開催)。
江戸幕府が開かれて以後も、江戸総鎮守として幕府や江戸庶民から広く崇敬を受け続け、現在に至ります。
明治時代に入り、社名を神田明神から「神田神社」に改称。
大正12(1923)年には、関東大震災により社殿が焼失してしまいますが、昭和9(1934)年、当時としては画期的な鉄骨鉄筋コンクリートで総朱漆塗の現在の社殿が再建されました。
御祭神は、一之宮が「大己貴命(おおなむちのみこと)」(大黒様)。二之宮が「少彦名命(すくなひこなのみこと)」(恵比寿様)。三之宮が「平将門命(たいらのまさかどのみこと)」(平将門)。
大黒様の像
恵比寿様の像
ごりやくは、健康祈願、商売繁盛、除災厄除、縁結び、勝運などなど数えきれないほど。
境内に見所も多く、とてもここではすべてを紹介しきれません。特に目を引くのが「神田明神文化交流館 EDOCCO」。おみやげが販売されていたり、食事ができるカフェがあったり、さまざまな文化体験ができたりする複合型の施設なのだそう。
「神田明神文化交流館 EDOCCO」
他にも、子を谷底に落とす獅子と、這い上がってこようとする子を描いた「獅子山」。国歌「君が代」にも登場する「さざれ石」(神田明神の他にもあるようですが)。
「獅子山」
「さざれ石」
また、本殿横に小さな社のようなスペースがあり、「神馬 神幸号(しんめ みゆきごう)」というのぼりが。近づいてみるとなかには、神田明神のマスコット、ポニーの明(あかり)ちゃんがいました。
このお社が明ちゃんの家らしく
か、かわいい……
さらにさらに、広い境内のなかには、本殿を取り囲むようにたくさんの境内末社や摂社があります。それらひとつひとつにぐるりとお詣りができるのもありがたいところ。
たくさんの末社や摂社が
「江戸神社」
「三宿稲荷・金刀比羅神社」
「末廣稲荷社」の、きりっとしたお稲荷様
というわけで、観光気分を味わいつつも、境内をじっくりと回ってお詣り完了。さて、今日のごりやく酒スポットを探しにいきましょう!
おみやげに買った天野屋オリジナルマグネット
想像を超えた日本酒天国
境内を出て、ひとまず天野屋とは反対の左側に歩きだしたところ、なんとすぐに「日本酒飲み比べ販売中」なるのぼりが目に入りました。気になって近づいてみると、「名酒センター」というお店らしいです。
日本酒の店らしい
「名酒センター」
外観の印象としては、角打ちもできる酒屋さん? って感じですが、とにかく気になるし、神田明神のお膝元にもほどがある場所。しかもおつまみメニューも充実しているようで、ここで一杯やれるならば言うことなしでしょう。入ってみよ〜!
店内
お店に入ると、たくさんの日本酒の瓶がずらり。乾きものなどのおつまみもいろいろありますね。さらに奥へと進んでゆくと、想像をはるかに超えた充実の飲食スペースが。その横にもまた、数えきれないほどの日本酒の瓶が並んでいます。
広々〜
圧巻の品揃え
こちらのお店システムとしては、まず、気になるお酒はどれでも、45mlのグラスで気軽に飲むことができます。しかも「飲み比べセット」として3種類を選ぶと、合計金額から100円引き。値段の幅は広いですが、かなりリーズナブルなお酒もたくさんあります。
こちらはグラスで税込250円
しかもごらんのように、ひとつひとつのお酒に、スタッフさんの日本酒愛が伝わる、個人的思い入れもたっぷりだと思われる解説が書かれているのが素晴らしいんですよね。どれもこれも飲んでみたくなる。
当然、気に入ったお酒があれば、半合や1合単位で注文することもできますし、2人以上で注文できる「飲み比べ放題」もすごい。なんと3,980円で、1杯1,000円以下のお酒120種類以上が、2時間飲み放題! 日本酒好きの方、今すぐ名酒センターに向かうべし!
あ、それからもちろん、気に入ったお酒があれば瓶で購入することもできます。
とはいえ僕は今回が初めてなので、まずは3種類の飲み比べセットを注文してみることにしましょう。悩みに悩み、選んだお酒が以下の3種類。
・三重県伊藤酒造「細女 純米吟醸 天女の舞」(300円)
・岐阜県蒲酒造「白真弓 とろーりにごり原酒」(300円)
・長野県信州銘醸「瀧澤 特別純米」(300円)
チョイスした3種類
最高だ……
さっそくひとつずつじっくり味わってみましょう。細女は、まさに天女のイメージにぴったりの、なんとも上品な旨味。白真弓は、お米そのものの美味しさをそのままお酒にしたような飲みごたえのある味わい。タグの「ほんのりぶどう」というフレーズに惹かれて選んだ瀧澤は、口に含んだ瞬間のフルーティーさと、ほんのりとした酸味が爽やかな1杯。
どれも三者三様に美味しく、加えて、神田明神にお詣りをして間髪いれずに日本酒三昧をしているという、今のシチュエーションが幸せすぎます。
料理メニュー
こういうタイプのお店にしては珍しく、手作り料理が豊富なのも嬉しく、どれも美味しそう。積極的に酒粕などのお酒要素が加えられているのも興味深いですね。「漬けまぐろ」と「よっぱらいたまご」、それから冷蔵ケースに並んでいた小皿おつまみから「たまり漬チーズ」を選んでみましょう。
「漬けまぐろ」(680円)
まずは酒粕醬油ダレに漬け込んだという漬けまぐろが、驚きの美味しさ。表面を霜降りにしてくれている手のこみようで、酒粕由来の深みにうっとり。完全に、名居酒屋レベルのおつまみです。
「よっぱらいたまご」(550円の半額)
“日本酒たっぷりのタレ” に漬け込んだという、半熟煮玉子。通常は玉子2個ぶんだそうですが、残りがひとつしかなかったとのことで、半額で出していただきました。日本酒の香りは強すぎずふんわりと感じるくらいで、しかしそれがたまらなくお酒に合うアクセントになっていて、いいなぁこれも。
「たまり漬チーズ」(600円)
こちらは栃木県にある「山久チーズファクトリー」の商品を小皿に分けて提供しているものだそう。口のなかでほろりと崩れると複雑濃厚な味わいが徐々に広がり、完全なる酒泥棒です。楽しいー!
ところで、これだけお酒の種類がある店なので、なかにはかなり珍しいものも。たとえば興味を惹かれたのが「まるで土瓶蒸し!?」と紹介されていた、長野県信州銘醸の「秋の味覚 松茸酒」(500円)。
このあたりのコーナーがまたおもしろい
松茸酒!?
本当に松茸が漬け込まれてる
どうしても味が気になって1杯飲んでみたところ、おぉ、珍しさにふり切っただけのお酒じゃなく、ちゃんと美味しい。基本は旨味しっかりの日本酒で、飲むと松茸の香りがふわりと鼻に抜け、それがしつこすぎないところが、なんともいいです。僕の好きな樽酒にもちょっと近いかな。良い香りのアクセントが、ゆっくり美味しいお酒を飲むときのぜいたく気分を増幅させてくれるというか。
と、今回もなんともありがたい出会いのあった、ごりやく酒。お会計時、ここがどんなお店なのかを何気なく店員さんに聞いてみると、なんと衝撃の事実。わざわざ奥から出てきてくださった、代表取締役の武舎裕子さんいわく、このお店の母体は、1985年創刊の老舗日本酒専門マガジン「ビミー」の編集部、つまり出版社なのだそう。今の今まで、完全に老舗の酒屋さんだと思ってた!
「月刊ビミー」
社員さんたちのあまりの日本酒愛のため、それを広めようとできたのがここ、名酒センターなのだとか。なるほど、だからこんなに酒好きの心をとらえて離さない店づくりがされていたんですね。
それにしても、神田明神の山門からすぐという立地、詳しい事情までは聞いていませんが、お店の存在自体がいろんなごりやくの賜物にちがいないし、神田明神と合わせ、名酒センターも完全なるごりやくスポットと言って間違いないでしょう。
神田明神からの名酒センター詣り、個人的に今後の定期イベントにすることにしようっと。
「月刊ビミー」 https://nihonshu.com/bimmy/
名酒センター https://nihonshu.com/
(第15回・了)
本連載は、基本的に隔週更新です。
次回:2024年11月1日(金)予定