神社で一拝、酒場で一杯。各地の神社仏閣やパワースポットにお詣りをし、その街で出会った酒場でふらりと飲む。それが「ごりやく酒」。
おたぬきさん
何年か前のこと、夕方から秋葉原で用事があって、それまで1、2時間のヒマな間、街をふらついていたことがありました。その時、偶然印象的な神社に出会ったんですよね。
僕はメインであるライター業の他に、たまにイラストや漫画の仕事をすることもあるのですが、酒場レポートなどで自画像を描くのがなんだか恥ずかしくて、いつしか酒飲みのイメージのあるたぬきのキャラクターを、自分の分身のような感じで描くようになっていました。以来、どうしてもたぬきには親近感を感じてしまうのですが、その、偶然出会ったというのが、あとから調べてみたところ、「おたぬきさん」と呼ばれて親しまれている神社だったんです。
そこは「柳森神社」と言い、にぎやかな秋葉原の街から、神田川を渡ってすぐの場所にあります。
「万世橋」から望む秋葉原の街
「柳森神社」
道路沿いの鳥居から見下ろすと、小さめの境内のなかに8社の神社があります。このように、本殿が鳥居より下にあることを「下り宮」と言うそう。その眺めが、ここが秋葉原の街からすぐの場所とは思えない、なんとも言えず神秘的な風景なんですが、僕が真っ先に目を引かれたのが、おたぬきさまの像。
見下ろした境内の様子
おたぬきさま
なんとも愛嬌があって、一度見たら忘れられないインパクト。それに、お稲荷様は全国に数あれど、たぬきをこうして祀っている神社は、なかなか珍しいんじゃないかなと。
この柳森神社、室町時代、太田道灌公が江戸城の鬼門除けとして多くの柳をこの地に植え、京都の伏見稲荷を勧請したことに由来するそうで、御祭神は、倉稲魂大神(くらいなたまのおおかみ)。
境内にある、おたぬきさんを祀る「福寿社」はもともと、江戸幕府5代将軍の徳川綱吉の母、桂昌院が、江戸城内に「福寿いなり」として創建したのだそうです。
境内にもまた鳥居
「福寿社」
「玉の輿」という言葉がありますが、これは「お玉」という八百屋の娘だった桂昌院が、春日局に見込まれて側室へとなったことに由来するそう。また、たぬきには「他を抜く」という語呂合わせもあり、勝負事や立身出世、金運向上にごりやくがあるとされ、なんともありがたいことずくめの神社です。当然、境内の8社すべてに、ていねいにお詣り。
「おたぬきさん」
向かい合わせのたぬきがかわいい
「幸神社」
「金刀比羅神社」
「水神厳島大明神・江島大明神」
「秋葉大神」
「明徳稲荷神社」
「富士宮浅間神社」は富士塚信仰の名残だとか
境内にはさらに、江戸時代から若者たちの間で流行したという、重い石を持ち上げて力自慢を競う「力石郡」の名残もあり。これらは、大正時代の力士、神田川徳蔵の一派が実際に使っていたものだそう。
1個も持ち上がる気がしない
うっかりひと駅歩いた先に
と、見所いっぱいの柳森神社のお詣りを済ませたところで、さて、今回も飲みにくりだしましょう! 周辺は、南へ下れば大飲み屋街の神田、また、歴史ある小伝馬町や馬喰町エリアも近いのですが、にぎやかさに導かれ、足が向いたのはやはり、秋葉原エリア。
神田川の欄干にカモメ
ガード下沿いの飲み屋街
時刻は午後4時という微妙な時間で、もうすぐ開きそうなお店はいくらでもあるんですが、意外と営業しているお店は多くありません。
ここは好きなお店だけど、行ったことがあるのでスルー
お、ここもやってる!
数少ない営業中だったお店のうち、写真の「竜王」は、ハッピーアワーだったこともあってかなり惹かれるものがありましたが、料理のメインが中華系らしい。だと、前々回の「大阪餃子専門店よしこ」と若干かぶるよなーと、いったん保留に。これでも一応、記事の内容に幅を持たせようと考えたりはしてるんですよ、僕(いらぬアピール)。
「浅草橋駅」
なんてことを考えながら歩いていたら、JR総武線のお隣駅、浅草橋までやって来てしまいました。やばい、さすがにそろそろ、入る店を見つけないと。と、思ったところで、こんな酒場を発見。
「食力 浅草橋店」
なんだか妙に親しみを感じる外観。浅草橋店とありますが、他に見たことがないので、大手チェーンではないでしょう(あとから調べてみたところ、住吉店と2店舗のみのよう)。よし、今日のごりやく酒の舞台はここだ〜!
「ホッピーセット(白)」(税込み 583円)
席に着き、まずはいつものホッピーセットを注文。ナカ(焼酎)の量がたっぷりで、ソトイチナカサン(ホッピー1本で焼酎3杯)不可避な、頼もしいホッピーセットですね。
お通しがミニサイズの揚げ出し豆腐というちょうど良さ
店内の雰囲気
店内は、お手頃な手書きメニューがいたるところに貼られて楽しげな雰囲気。おでんや串天ぷらが名物のようですが、他にも、鮮魚系やがっつり系肉料理など、幅広いメニューが揃っています。若めの男性店員さんが3人、てきぱきと働く感じもすごく信頼できる。
幅広いメニューをよ〜く検討し、まずは、「長いもの梅肉和え」と、黒板メニューから「アジのなめろう」、いってみようかな。
「長いもの梅肉和え」(385円)
さっそく届いた長いものお皿を見て、いきなり顔がにやけちゃいましたよね。だって、ほんのりと醬油漬けにされた長芋がかなりたっぷり。そこに刻んだ大葉があえてあって、もうその時点でものすごく美味しい。なのにさらに、本格的な酸っぱさの、これ完全にいいやつを潰して作ったんだろうなっていう梅肉が、これまたたっぷり!
逆に、鯵なめろうは少し時間がかかるな〜と。他にお客さんもそんなに多くないのになと。なんとなく厨房のほうを眺めてみると、なんと! 店主さんがみずから鯵をさばき、小骨をとる作業をされています。え〜、そんなにていねいに作ってくれるの!
「アジのなめろう」(748円)
やがて届いたなめろうの、それはも〜美味しいこと!
最高
叩かれてとろりとしつつも、ぷりぷりとした歯ごたえはしっかりと残った鯵。そこに、強めのみそ味と薬味たちが融合し、ナカをおかわりしたホッピーがぐいぐい進んでしまいます。
そして最後にもう1品、ちょっとがっつりした料理も頼んでみたいなと、「豚キムチ」を注文。
「豚キムチ」(528円)
するとこれがものすご〜く食べごたえのある量で、厚めの豚肉も嬉しく。うんうん、やっぱりここ、超いい店! ホッピーソトイチナカサン、きっちりと堪能させていただきました。
と、今回もおたぬきさまをはじめとする神様たちのごりやくを、たっぷりと感じられたごりやく酒。
今回おじゃました食力さん、唯一居合わせた外国人家族が、ものすご〜く幸せそうな顔でそれぞれのランチセットを満喫していたのも印象的だったので、こんどはお昼食べに行ってみたいな〜と、チャンスを伺っている昨今です。
(第4回・了)
本連載は、隔週更新です。
次回:2024年4月26日(金)掲載予定