神社で一拝、酒場で一杯。各地の神社仏閣やパワースポットにお詣りをし、その街で出会った酒場でふらりと飲む。それが「ごりやく酒」。
17年ぶりの訪問
仕事の関係で、久しぶりに赤羽へ行く用事がありました。
赤羽と言えば真っ先に、漫画『東京都北区赤羽』シリーズを描いた、清野とおる先生のことを思い浮かべる人も多いことでしょう。僕は、清野さんとはもう20年以上の付き合いになる飲み友達で、特に20代くらいのころは、頻繁に一緒に赤羽で飲み歩いていました。いまやすっかりきれいになってしまった赤羽の街の、あの漫画のなかに記録されているような混沌の世界。それを、ともに体験させてもらえた時間は、確実に自分の人生の糧になっています。
ところで、もう17年も前の、2007年の1月2日。正月三が日の真っ只中に、赤羽で清野さんと飲んだことがありました。そのとき、「せっかくだから初詣に行きましょうか」と連れていってもらったのが「赤羽八幡神社」で、なんだか境内からの眺めがいい、不思議な立地の神社だった記憶があります。
そこへ久しぶりにお詣りに行ってみようかな。そして、せっかくの酒場の聖地、赤羽。ごりやく酒の一杯でも飲んで帰ろうかな。そんなことを思いながら、仕事を終えた昼すぎ、赤羽駅の西口あたりから赤羽八幡神社に向かって歩きだしたのでした。
赤羽駅西口
歩きはじめるとすぐ、頭上の木から、今年初めての蟬の声が聞こえてきたのにはちょっと笑ってしまいました。だって、その日は6月19日。毎年「早いなぁ」と感じる、地元石神井公園の蟬すらもまだ鳴いていなかった時点。赤羽の蟬、さすがに気が早すぎるだろう。けれども、お詣り前の珍しい現象はいい傾向であると考え、うきうきと神社へと向かいます。
歩くこと数分で、新幹線の高架横の坂道という珍しい場所に立つ鳥居を発見。そうそう、赤羽八幡神社は、東北・上越新幹線の線路の上(正確には本殿ではなく、社務所が線路上)にあるという、世にも珍しい立地の神社なんですよね。
線路の横に鳥居
もうひとつの入口
高架下から望む鳥居の風景が珍しい
石段を登って境内へ
「赤羽八幡神社」
御祭神は、主神である第十五代天皇、応神天皇「品陀和気命(ほんだわけのみこと)」と、その父、仲哀天皇 「帯中津日子命(たらしなかつひこのみこと)」、その母、神功皇后「息長帯比売命(おきながたらしひめのみこと)」。
正式な文献は残っていないそうですが、平安時代の延暦3(784)年、坂上田村麻呂の東夷征伐の際、この地に陣を張って八幡三神を勧請して武運長久を祈ったという伝説が残っています。ゆえに古くから「勝負の神」として信仰を集めてきたのだとか。
見ごたえのある社殿彫刻
兼務社は、「八雲神社」「諏訪神社」「熊野神社」「香取神社」。また、「古峯神社」「赤羽招魂社」「北野神社」「疱瘡神社」「大国主神社」「稲荷神社」「住吉神社」「大山神社」「阿夫利神社」「御嶽神社」「天祖神社」「春日神社」と、境内に末社が多いのも特徴で、そのひとつひとつにお詣りをします。
境内にさらに鳥居があり
たくさんの末社が
学問の神である菅原道真公を御祭神とする北野神社には、頭をなでるとごりやくがあるという牛の像があったり。
なでられて頭がつるつる
「大国主大命(おおくにぬしのおおみかみ)」を御祭神とする大国主神社は、因幡の白うさぎ伝説が有名。こちらは縁結びの神様として有名なのだとか。
白うさぎの像
また、境内の一角には訳あってこの場所に移設されてきたお稲荷様が多数いるゾーンもあります。
たくさんのお稲荷様
躍動感があってかわいい
なかでも驚いたのは、先述の清野さんが漫画のなかで「ビルの屋上にあってお詣りができない神社」として取り上げ、一躍有名になった「作徳稲荷大明神」。残念ながら2021年にビルとともに解体されてしまった神社にあったそのお稲荷様が、こちらに移設されていたんです。
久しぶりにご挨拶ができた!
ところで、社務所の前にあった説明書きによると、2024年から2044年までの20年間は「9」の数字によって運気が高まる「下元九運」という期間なのだとか。その9の文字があしらわれた、お財布などに入れて持ち歩きやすそうなカード型のお守りがかっこよく、これは絶対に手に入れておきたい。
かっこいい!
ごりやく一覧
色によってさまざまなご利益があるそうで、当然金運は上がってほしいけど、最近いちばん気になっているのは健康運。ど、どれにしようかなぁ……ひとりで2枚も3枚も買ってもいいものなのかなぁ……。などとひとしきり迷ったのですが、いや、ここは潔くひとつに絞るべきだろう。そのほうがご利益が薄まらない気が、勝手にする。そしてまた、酒場ライターなどという酔狂な仕事をしている自分。いちばん呼び寄せたいのは、金運とともに書かれた「遊び運」だろう。飲んで遊んで、それをこうして記事にしてなんぼだし!
というわけで、黄色のカード守りを購入。今後はこれを、肌身離さず持ち歩くことにします。
よろしくお願いします
境内から眺める新幹線
謎の「赤羽ナポリ」とは!?
と、なんだか盛りだくさんだったお詣りを終え、いよいよ赤羽の街に飲みにくりだしましょう。有名な「まるます家」や「丸健水産」、昔ながらの飲み屋街「一番街」あたりに行けば昼飲みできそうなのは間違いないんですが、どこも行ったことがあるし、今日はぜひ意外なお店に飛び込んでみたい。さすがの赤羽とはいえ、こんな真っ昼間から酒が飲めるところがそんなにあるかな〜と、神社を出て歩きだします。
すると、ものの3分ほどで気になるお店を発見。この、お詣り後のなにかに導かれるような感じ、もはや「ごりやく酒あるある」と化してきた気がする。よし、直感を信じて入ってみよう!
ふらふらと歩いていると
赤ちょうちん捕捉!
ここはどうやら「両面焼きそば」なる焼きそばが名物の「あぺたいと」というお店らしい。お得そうなランチメニューも充実していますが、お酒や単品のおつまみ系もいろいろあるっぽい。またもうひとつ気になったのが、「赤羽ナポリ」というナポリタンのメニュー。どんな特徴のあるご当地メニューなんだろうか。確認せずにはいられないでしょう。
さっそく入店
おつまみも豊富
ちょっとコワモテ風で、いかにもうまい料理を作ってくれそうな店主さんと、若い女性の店員さんのおふたりという構成。まずは「ホッピーセット 白」(税込525円)を注文し、ありがたくも出していただいた、サービスのポテサラをつまみに、よく晴れて大変気持ちのいいテラス席で飲みはじめます。
シンプルに最高
その際、店員さんに「赤羽ナポリってどういうものですか?」と聞いてみたところ、その返答にいきなり胸を撃ち抜かれてしまいました。「この店、大好き!」って。店員さん、なんて言ったと思います? なんと、にっこりと微笑みながら……
「普通のナポリタンです」
え! 「赤羽ナポリ」なのに!? これと言って特徴のない、普通のナポリタンなの!? 最高にもほどがあるでしょう、そんなの。
とまぁ、それはそれとして赤羽ナポリが普通のナポリタンなのであれば、初訪問である僕の注文は当然、名物の「両面焼きそば」。
焼きそばメニュー
小中大とサイズが選べるのが嬉しく、酒のつまみと考えるならば当然、小。そこにトッピングをいくつか加える作戦がいいでしょう。トッピングも豊富ですが、間違いなく欲しいのは「目玉焼き」。それから、未知数ながら興味深い「納豆」の2種を選んでみましょうか。
店内も開放感あり
さらに奥には、海の家風のスペースも
ところで、ホッピーがやってきた際、「注文したものの写真を撮ってもいいですか?」と店員さんに聞いてみたところ、「もちろん大丈夫ですよ」とのことだったんですが、その続きがまた最高だったんです。
「よかったらマスターが焼きそば焼いてるところの写真も撮ってください! 目の前で、ホッピー持ってきて飲みながら!」
もうこの時点で、あぺたいとの虜ですよ。僕。
というわけで遠慮なく。
特等席から
そんでまた、この焼きそばがまたすごかった。
まず、自家製であるという太めのストレート麺。とても焼きそば用には見えないそれを、真ん中が丸く凹んだ特注のフライパンで焼いていきます。“両面焼きそば” の名の通り、豚肉とともに、じっくりと焼き色がつくまで。
うまそうな麺だ
いい焼き色!
そこに自家製のソースをかけ、全体を混ぜて仕上げるんですが、このときの香りがもうたまらない。目の前で見てますからね。
じゃーっ
完成!
これがですね、本気で未体験の絶品やきそばだったんです。
いったん両面を焼きつけてあるから、全体的にパリパリで香ばしい。けれども麺本体はもちもちともしていて、その両方の食感が楽しめる。そこに絡む軽やかなソースと、肉、野菜の食感と旨味。どう考えても、今までの人生で一度も食べたことのない焼きそば。でありながら、今後誰かに「おすすめの焼きそばは?」と聞かれたら、真っ先に候補にあげてしまうであろう印象深さ。当然のことながら、これがホッピーに合うんだな〜。
とにかく麺がうまい
卓上トッピング
卓上のトッピング類が豊富なのも嬉しく、目玉焼きが合うことは言わずもがな。
さらに正解だったのが、トッピングの納豆。自由なスタイルでアレンジできるようにとパックのまま提供されるのがまたあぺたいとらしく、たれを加えてよく混ぜて、後半の味変要素として思い切って焼きそばにのせてしまったところ……あります? 焼きそばに納豆のせて食べたこと。この組み合わせがね、なんと、めっちゃいいんですよ! パリパリだった食感になめらかさが加わって、これからは家で焼きそば食べるときも納豆プラスしちゃうなってくらい。
パックの納豆を
思い切って焼きそばへ
ふぅ、堪能した。両面焼きそば。その味もお店の方々の人柄も含め、確実に僕の大好きなお店のひとつになりました。あぺたいと。
赤羽八幡神社も素晴らしく良い神社だったし、赤羽ってやっぱり、まだまだ魅力的な街だな〜。
(第9回・了)
本連載は、基本的に隔週更新です。
次回:2024年7月19日(金)掲載予定