犬(きみ)がいるから 村井理子

2019.12.17

51今日は三歳の誕生日

 

 早いもので、ハリーは今日(12月17日)三歳の誕生日を迎えた。わが家にやってきたのは生後三ヶ月のときだったから、あっという間の二年九ヶ月である。黒くてふわふわとした、この世のものとは思えない、最高にかわいい子犬だったハリーは、今となってはどこに出しても恥ずかしくない、(いろいろな意味で)立派な成犬へと姿を変えた。器量よし、性格よし、食いつきよしの、三拍子揃ったイケワンである。
 誕生日だから、何かプレゼントをしてあげようと言いだしたのは、わが家の男性陣だった。プレゼントって言ったって、ハリーが喜ぶものは食べ物かおもちゃぐらいのものに決まっているのだが、彼らが選んだのはハーネス(胴輪)だった。
 「頼んどいて!」と軽く言われて腹が立った。そこをアウトソースかよと思った。なにせ、ハリーにぴったりのサイズの製品を見つけるのは、なかなか大変な作業だからだ。ご存じの通りハリーはダイナマイトボディーの持ち主である。前回購入したハーネスは、夏以降、身につけると脇の下のあたりが窮屈になっていた。ま、まさか太ったのか……?と不安になりつつ、より大きいサイズを買おうと確認すると、使っていたのはすでにXLサイズで、それより大きいものは入荷に一ヶ月かかると記載されていた。
 その記憶があったため、別の種類のハーネスを腕まくりしつつ探しはじめたが、ハリーのサイズのものになると売り切れや入荷待ちの表示が多かった。こりゃだめだと思いつつ、根気よく探し続けると、ハンガリー製のハーネスに辿りついた。さすがコモンドール(長毛種の牧羊犬で、体重は50キロから60キロとされる)を輩出した国だ、推奨体重40キロから80キロの製品が見つかったのだった。ワハハハ、ハリーは推定45キロだから、楽勝である(何か間違っているだろうか)。そして説明書きには、「耐久性」、「お手入れ簡単」、「防水」、「反射板つき」とあった。琵琶湖で泳ぐことがライフワークのハリーにぴったりなもののような気がする。値段は張ったが、安いものを買って、あっという間に破壊される悲劇はすでに何度も経験している。えいや~!とばかりにクリックして、購入した。
 数日後にハンガリー製高級ハーネスがわが家に届いた。予想以上に大きな段ボールに入っていた。箱から出したが、なんだか馬の鞍のようである。おしゃれさとかかわいさとか、かっこよさなんてものはあまり感じられない。ただただ、「大きな動物用のハーネスです」という雰囲気を醸し出している。なんだかなあ、もう少しオシャレなのがよかったよなあ……と思いつつ、その真っ赤なハーネスをハリーに装着してみた。素直なハリーは、その妙に大きくて赤い、しかし、とても頑丈な作りのハーネスを装着して、無表情に立っていた。そのハリーの姿を見ていたら、なんだかデジャブのような感覚に襲われた。ええと、なんだっけ……これ、どこかで見たことあるなあ……と、しばらく考えて、はっと気づいた。会津地方の玩具、「赤べこ」である。「ハリー、赤べこそっくりじゃん!」と思わず大きな声を出してしまった。
 それにしても、ハリーがもう三歳とは不思議な気持ちだ。これまでの三年間が、あっという間だとも思うし、長い道のりだったとも思う。色々あったな……と、思わず考え込んでしまう。色々あったよねと、思わずハリーに話しかけてしまう。ハリーはいつも通り、落ちついた表情でじっと私を見て、何も言わない。
 お前は何も言わないね。でも、何も言わないのに、すべてわかってくれるから、私はハリーが大好きなんだよ。これからも、ずっと楽しく暮らしていこう。


 私にとってハリーは、そこにいることが当たり前の存在となってくれた。あっさりと書いてしまったが、実はこれはとてもすごいことなのではと、私は密かに思っている。なぜならそれは、私もハリーも、何ごともなく無事に暮らすことができているという証だからだ。飼い主もペットも、双方が健康で、元気で、安全に暮らすことができているということは、幸運が幾重にもなった結果なのだと私は思う。
 よくよく考えてみると、人間も、動物も、明日どうなるかわからない日々を生きている。昨日あった命が、今日なくなる場合があることも、私たちは知っている。だからこそ、互いに強く意識せずとも、ただ隣にいて、なんの変哲も無い一日を過ごせることは、何ものにも代えがたいことなのだと私は考えるようになった。
 儚いよなあ、刹那だよなあと思わず口にしてしまう。美しい時間も、楽しいできごとも、悲しみと隣り合わせだなんてひどいよね、それなのになぜ私は犬と暮らしてしまうのだろうと、一人遠くを見つめはじめた私の真後ろで、ハリーはアップルパイの入ったビニール袋をベロベロ舐めていた。

 

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うっかり食べ過ぎて近江牛みたいに太った「イケワン」ハリー。
丸くなって眠るさまは、まさに恵方巻。
愛されバディを取り戻すその日まで、理子さんは今日も奮闘!

 

この連載は月2更新でお届けします。
次回は1月15日(水)掲載です。