犬(きみ)がいるから 村井理子

2020.7.15

60ダイエットの秘訣

 

 近江の黒豹、走る恵方巻き、漆黒のドラム缶など、様々な呼び名をほしいままにしていたわが家の愛犬ハリーだったが、先日、動物病院での定期検診で、約4キロのダイエットに成功していたことがわかった。これは驚きの数値である。犬が4キロ痩せるというのはなかなかの事件だ。つまり、ハリーから小型犬一匹を引いたようなイメージであり、犬が犬一匹分痩せたという、つまり犬史に残る快挙である。
 ハリーが最もふくよかだったとき、彼の体重は4850キロ程度あった。痩せ型の女性一人分の重さだ(犬だけど)。図鑑などを見ると、ラブラドール・レトリバーの最高体重はだいたい35キロぐらいなので、ヘビー級なんて軽く上回る、犬界のスーパーヘビー級チャンピオンだった。
 それでもわが家では、ハリーに無理なダイエットを強いてはいなかった。というのも、運動量がとんでもなく多いからだ。とにかく、走りまくり、泳ぎまくる。休むことを知らない犬だ。そのうえ、脂肪が多いというよりは、驚くほど筋肉質で、身近で暮らす私たちからすると、惚れ惚れするような健康体だった。
 ハリーの体は、触ると跳ね返ってくるような筋肉に包まれていた。「むしろ近江牛って感じでよくね?」と、その輝く立派なムキムキバディーを褒め称えていた。この犬は滋賀のロッキーだね、シルベスタ・スタローンにダイエットとか、笑っちゃうね、アハハ~……なんて気持ちだった。こんなに運動して、これだけ大きいんだから、もう仕方ないんじゃない? なーんて言っていたのだが……。
 ハリーに会うひとの多くが、「うわあ、大きいなあ~! でも、ちょっと太ってない?」とか、「かわいいけど、でかいなあ~。もしかして太ってる……?」と、散々な感想を漏らすようになった。そのうえ、「もしかして同じようなものを食べさせてる? 人間の食べものを食べさせてないよね?」と、飼い主が太ったから犬まで太ったと言いたげなんである! 失礼なッ! 人間の食べものなんて、食べさせてるわけないっしょ!
 しかしながら、確かにハリーにはオーバーウェイト気味に見える角度があった。例えば、私のベッドの上にドデーンと寝ながら、こちらを振り返ったときの首筋の三段腹(首だけど)。廊下で唐突に昼寝しているときの、イカめしのように詰まった胸から下腹。うーむ、確かに、確かにちょっと大きいかもしれない……。
 ということで、考えに考えた私は、ハリーのドッグフードのグレードをぐいっと上げることにした。それまで彼が食べていた、普通よりちょっとお高いフードから、堂々とお高いフードに切り替えたのである。たったそれだけで、ハリーは美しく痩せてくれた。運動量は普段通りだ。大好きなフルーツやヨーグルトも与え続けた。フードを与える時間をしっかり決め、どかっと大量に与えないように、こまめに与えるようにした。常に新鮮な水をたっぷり用意し、低脂肪乳も与えた。なんだか完璧である。なんでこれを自分自身にできないのか。
 見事ダイエットに成功し、よりいっそう男前になったハリーは、今日もお高いフードをペロリと食べ、ヨーグルトを嗜み、泳ぎ、走り、ぐっすりと寝ている。飼い主も同じようにすべきである。すべきだとはわかっているけれど、今日も仕事に追われ、パソコンの前に座りっぱなしの飼い主なのであった。誰か助けておくれ。

 

 

 

【『あんぱん ジャムパン  クリームパン』まもなく発売です!】


この4月から「あき地」にて連載された、村井理子さん、青山ゆみこさん、牟田都子さんの「あんぱん ジャムパン  クリームパン」が単行本としてまもなく刊行されます!
連載に加え、撮り下ろし写真と書き下ろし特別コンテンツも大盛りの楽しい一冊になっています。
刊行に先立って、7月18日(土)には3人による「ウェブおはなし会」も開催されます。詳しくは以下をご覧ください。

【予約】あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記

 

 

 

村井理子さんは「考える人」(新潮社)でも好評連載中!

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この連載は基本的に月2更新でお届けします。
次回は7月30日(木)掲載を予定しています。