犬(きみ)がいるから 村井理子

2020.12.25

68ハリーくんのバースデープレゼント

 

 12月17日、ハリーは4歳の誕生日を迎えた。体重は誕生日当日の計量で47キロだった。スーパーヘビー級と言ってもいいだろう。「言ってもいいだろう」とか、堂々としている場合でないことはわかっている。繰り返すようだが、それはわかっているのだ。
 しかし、ハリーが運動不足かというと、そうではない。ハリーは琵琶湖ライフを満喫している犬だ。とにかく、走る、泳ぐ。それはもう、めちゃくちゃに。むしろ、運動しすぎではと心配するほど、ハリーの運動量は多い。しかし当然のことながら、運動のあとは、とてもよく食べる。見ていて気持ちがいいほど、食べる。重要なことなので書くが、ここで食べ過ぎたらダメなのは、飼い主として重々理解しているのだ。ただ、あまりのハリーの食欲とその要求(の激しさ)に、負けることが多いというのが現状だ。


 そこで、責任ある飼い主としては、走る恵方巻きと呼ばれ世界中から愛されているハリーの贅沢ボディを、そろそろかっぱ巻きに近づけたいと考えている。つまり、本気のダイエットだ(これを書くのは、何度目だろう)。ゆで野菜、ローカロリーフード、その他もろもろ、やることはやったと思う。しかし、どれだけ飼い主が苦労を重ねても、ハリーはビニールのカサカサという音に、冷凍庫から息子たちがアイスクリームを出す音に、いつ何時でも反応し、そして一心不乱に吠え立てる。

 よこせ! 食わせろ!! 俺にも!! 

 その声の大きさたるや、雷鳴のようだ。47キロの黒いドラム缶から発せられる太くて低いうなり声は、「え? 和太鼓?」と驚いてしまうほどだ。家族全員が両手で耳を塞いで、「やめてくれ~」とハリーに懇願するほどだ。かわいい顔をして、ハリーの脅しは本格派なのである。
 その大きな吠え声に疲れ切り、ハリーに静かにして欲しいがためにおやつを与えてしまうダメな飼い主の私は、いろいろと考えて、ハリーの誕生日に間に合うように、とある機械を購入した。自動給餌器つきのペット監視カメラである。スマホで遠隔操作も可能で、出先から留守番している犬の姿を確認できる優れものだ。そしてもちろん、外出先からおやつを与えることもできるし、犬が喜んでおやつを食べる姿をライブで見ることもできる(写真に撮影することもできるし、動画で残すこともできる)。
 スマホでアプリを開いて、おやつボタンを押せば、機械のなかからおやつがスパーン! と飛び出してくる。おやつが飛び出すと同時に、どんな犬でもハイになる魔法の効果音である「キュー!」という音が出る(たぶん、小動物の泣き声のイメージだろう)。もちろんハリーは、このキュー! という音が大好きだ。この給餌器を使って遊び、大騒ぎして疲れさせ、運動させつつ、ゲーム感覚でおやつを与えれば満足するのでは!? と、思ったのだ! いや、与えるのか? ダイエットだったのでは? そんな疑問を抱きつつも、年末が近づき、購買欲が最高潮になっている私は、迷わず購入したのだ。だってプレゼントだもの。4歳だもの。スマホでらくらく操作なんて最高だ。私にぴったりの給餌器ではないか。食べるのはハリーだけど。
 自動給餌器が到着した瞬間からハリーのテンションはあり得ないほど上がっていた。なにか面白そうなものが来たぞ! たぶん俺のだぞ! という表情をしていた。箱から出した給餌器に鼻をべったりくっつけるハリーを押しのけながら、設定を済ませ、スマホにアプリをインストールして、おやつをセットし、私は別室に身を隠した。スマホの画面で給餌器のカメラが捉えるハリーの姿を確認すると、リビングでじっと座っている(私が座っていろと言ったからだ)。
 ひひひ、面白いことになるぞ! そう思って、早速、スマホ画面のおやつボタンを押した。「キュー!」という音とともに、機械から勢いよくおやつが飛び出した様子が見えた! ハリーは、「え?」という顔をして、おっかなびっくり、飛び出したおやつの場所まで歩いて行くと、疑い深い目でそれを見つめ、そしてゆっくりと食べた。
 あれ? 予想とちょっと違うけど……。二回目もやってみた。「キュー!」という音とともに、おやつが飛び出した。スマホの画面越しに見るハリーは、こちらをじっと見つめている。そしてツカツカと給餌器に近づいてきた。ハリーのどアップの顔が映し出される。
 3回、4回と繰り返す度にハリーは給餌器の動きに慣れていき、次のキュー! という音まで給餌器の前から動かず、挙げ句の果てには給餌器にお手をするようになった。最終的には、給餌器の前で寝るようになった。いつおやつが飛び出してもいいように、準備しているのだろう。ねえ、運動は? ねえ、なんで動かないの?
 給餌器からおやつが飛び出すたびに、ハリーは走りまわり、喜びまくる予定だった。しかし、成犬になったハリーは、多少冷静になったようだ。目論見は外れたが、それでも、外出時にハリーの様子を確認できるのはすばらしい。おやつボタンを押すと、一応はカメラの前にやってきてくれる。今までハリーを留守番させることが可哀想で心配だったが、自動給餌器のおかげで安心して用事を済ませることができる。しかし、おやつボタンを押さなければ、ハリーの姿をリビングに確認することはできない。
 なぜかというと、私が戻ってくるまで、彼は玄関ドアの前で、じっと私を待っているからだ。なんという名犬、なんというイケワン。
 次は玄関に給餌器を設置してみようと思う。たぶん、でっかいハリーがグーグー寝ているだけという、最高に面白い映像を見ることができるだろう。

 

 

【『犬ニモマケズ』好評発売中です!】


あき地連載「犬がいるから season2」が『犬ニモマケズ』と題して単行本になりました!
連載に加え、撮り下ろし写真と書き下ろし特別コンテンツ、青山ゆみこさんとの対談も収録した、楽しい一冊に仕上がっています。
全国の書店、各ネット書店でお買いもとめいただけます。

 アマゾン 『犬ニモマケズ
 楽天ブックス 犬ニモマケズ
 honto 『犬ニモマケズ

うっかり食べ過ぎて近江牛みたいに太った「イケワン」ハリー。
丸くなって眠るさまは、まさに恵方巻。
愛されバディを取り戻すその日まで、理子さんは今日も奮闘!

【『あんぱん ジャムパン  クリームパン』発売中!】


この4月から「あき地」にて連載された、村井理子さん、青山ゆみこさん、牟田都子さんの「あんぱん ジャムパン  クリームパン」が単行本として刊行されました!
連載に加え、撮り下ろし写真と書き下ろし特別コンテンツも大盛りの楽しい一冊になっています。

 

村井理子さんは「考える人」(新潮社)でも好評連載中!

考える人へのリンク画像

本連載は、毎月第1、第3週木曜日に更新します。
次回は1月20日(水)掲載を予定しています。