焼酎とラベルを味わう
居酒屋でレモン酎ハイはよく頼むけれど、特定の銘柄の焼酎を飲んでみようとは露ほども思わなかった二十代のはじめ。乙類焼酎はクセが強いらしい、芋焼酎ってくさいらしい、とうわさを聞いて敬遠していました。よく父が自宅でパックの焼酎を飲んでいたことも相まって、わたしにとって焼酎はおじさんのお酒。
ラベルの渋さも手を出しにくい理由のひとつでした。毛筆で書かれた商品名の猛々しさといい、ラベルからはみ出しそうなほど大きな文字といい……。黒地にビッカビカな金文字のラベルも強面すぎる。だから酒屋やスーパーで見かけても焼酎コーナーは素通りでした。
それがつい最近、とある焼酎に出会ったことで世界が一変しました。しかも、味うんぬんより先に、ボトルのラベルにこころを射抜かれて即買いしたのです。
友人からおいしいと聞いたその焼酎は、鹿児島で創業一五〇年を超える濱田酒造が造った本格芋焼酎「だいやめ」。深い緑色のボトルに黒地のラベル。その中央には、箔押し加工が施されて銀色に輝く「DAIYAME」の文字。よく見ると、余白かと思っていた部分にはひらがなの「だいやめ」が大きく配置されています。暗闇のなかに溶け込みながら静かに主張するその四文字は、一見すると単なる模様のようにも見えます。

これは本当に焼酎なの? と疑いながらグラスへ注いでみると、ライチのようなフルーティーな香りが漂い、疑念はさらに増すばかり。炭酸で割って飲んでみたらあら不思議。飲み口はさわやかなのにどこか甘い。鼻に抜けていく香りは華やかで、口のなかがずっとおいしいんです。これ、ぐびぐび飲めます。芋焼酎がこんなに飲みやすいものだったとは!
せっかくなので、ラベルもじっくり味わってみたいと思います。銀箔の欧文フォントはセリフ体(Serif)でしょうか。優美でモダンな印象で、昔ながらの骨太な焼酎ラベルとは真逆な繊細さがあります。文字サイズは控えめで字間がほどよく空き、圧迫感もない。そのため箔をあしらってもギラつかず、落ち着いた雰囲気のまま高級感がプラスされています。
欧文フォントにもさまざまな種類があります。文字の先端にセリフと呼ばれるうろこ状の装飾がついたセリフ体、装飾のないサンセリフ体(Sans-serif)、デザイン要素が強く主に見出しに用いられるディスプレイ書体、手書きの筆記体のようなスクリプト体などなど。とくに、セリフ体とサンセリフ体は日本語フォントの明朝体とゴシック体のように、縦線と横線に太さのちがいがあることも特徴です。
さて、ころんと丸い筆文字風の「だいやめ」。濁点や「た」の三、四画目、「や」の二画目が丸い形状になっていることで、やわらかい雰囲気があります。線の流れの穏やかさは、だいやめのまろやかな甘さを彷彿とさせます。
一方で、線の書き終わりにグッと力の込められた「止め」。この筆づかいは、次世代の本格焼酎として勝負していくという強い志の表れでしょうか。黒地のなかで四文字が際立つように白や金、銀などにはせず、あえてより深い黒を選ぶ上品さにも惚れ惚れします。
思わず手に取りたくなるようなこのラベルデザインのおかげで、焼酎ボトル買いへのハードルはぐっと下がりました。他銘柄の焼酎にも興味が湧き、飲めるお酒の幅が広がったのも大変ありがたいことです。
これまでおじさんが飲むものと遠ざけてきた焼酎ですが、そのおいしさを知ると、ラベルに対する印象も不思議と変わってきました。堂々とした筆づかいの書は言わば家の大黒柱。それをラベルに大きく打ち立てることで威厳を保ち、伝統を守っているんだなと感じます。
海外向け焼酎のボトルラベルにも、商品名に筆文字を採用しているものは多いようです。日本で愛されてきた蒸留酒だからこそ、土着の書き文字である「毛筆体」を取り入れるのも必然だったのかもしれません。「書」とともにあるといっても過言ではない焼酎。さらに大きく世界へ羽ばたいていくことを、ひとりの愛飲家として願っています。
焼酎最高!
(第7回・了)
本連載は、基本的に隔週更新です。
次回:2026年2月6日(金)掲載予定

