自宅のある麻浦(マポ)から、ソウルの中央を流れる漢江(ハンガン)に架かる麻浦大橋(マポデギョ)を渡ると、ソウルのウォール街とも言われる汝矣島(ヨイド)に出る。汝矣島はソウルの南西部、漢江の中流域に位置し、朝鮮時代には牧場として馬や牛が飼育され、農業地帯でもあった。しかし、日本統治時代に飛行場が建設され、その後1968年に一部が埋め立てられて現在の姿へと変わっていった。
ソウル市の都市開発計画の一環として、政治と経済の中心地として位置づけられた結果、現在では高層ビルが立ち並ぶビジネス街へと発展し、韓国の政治、金融、メディアの中心地となっている。この島には、国会議事堂をはじめ、主要な政府機関、大手企業の本社、そして多くの金融機関が集まっている。なお、桜祭りが有名で、毎年たくさんの人々でにぎわう。
さて、次はどの博物館へ行こうかと考えていたところ、国会議事堂の敷地内にある国会博物館の存在をすっかり忘れていたことに気づいた。今住んでいる家から最も近い場所にある博物館なのに、まさに灯台下暗しである。
さつまいもの上端にある博物館
マラソン愛好者の間では、汝矣島の形がさつまいもに似ていることから、島を一周するランニングは「コグマランニング」(「コグマ」は韓国語でさつまいもを意味する)と呼ばれ、親しまれている。このコースは約20キロメートルあり、その半分を走ることは「パンコグマランニング」(さつまいも半分)と呼ばれる。非常にユニークな表現だ。国会議事堂はこのさつまいもの上端部分に位置する。国会議事堂があるため高さ制限があり、低層ビルが集まっているのが特徴。上端部分は西汝矣島とも呼ばれる。
毎日このエリアでは、多くの団体が車を使って大音量でさまざまな主張を展開し、一人から大勢に至るまでデモ参加者が正門前に集まっている。
正門の近くには、伝説の動物として韓国の人々に親しまれているヘテの像が立っている。この像の下には、75本の韓国産ワインが埋められているそうだ。国会議事堂の完成を記念して、韓国の大手菓子メーカーであるヘテ製菓がヘテ像を寄贈した際に、一緒に埋められた。このワインは、イベントが行われた1975年から100年後の2075年に開けられる予定だが、なぜワインが選ばれたのだろうか。マッコリや焼酎といった韓国のお酒をなぜ使わなかったのか気になるところだ。

ヘテ像と国会議事堂
堂々とした姿の国会議事堂の前で右に曲がり、国会図書館や国会放送局を過ぎると、国会博物館が見えてくる。途中竹林や池が点在し、緑豊かな風景が広がっていて、散歩するにはぴったりの場所だ。まさに都会のオアシスといったところ。その緑の中には、伊藤博文を暗殺し、韓国では英雄の安重根(アン・ジュングン)の銅像も立っている。日本の国会議事堂の中央広間には、伊藤博文、板垣退助、大隈重信の銅像が立っていることを考えると、自分は韓国にいるのだと改めて実感する。

2015年11月11日に安重根銅像の除幕式が行われた
リニューアルしてピカピカの博物館
国会博物館は元々1998年に憲政記念館として建設され、リニューアル工事を経て、2022年4月にコロナ禍の中、国会博物館として再オープンした。こども博物館も併設されている。
中に入ると、広々としたエントランスがあり、さすが国会博物館といった威厳が漂う。リニューアルオープンが静かに行われたせいか、あるいはただ訪問者が少ない時間帯だったのか、館内は人が少なくとても静かだ。
韓国の近現代史には興味があり、これまでに建物やゆかりの地を巡り、『ソウル、おとなの社会見学』という本も出版したが、韓国の政治史はあまりにも激動的で、正直なところ理解するにはまだまだ勉強が足りない。ふらっと立ち寄るには少しハードルが高いと感じつつも、いざ中へ。
開館して二年しか経っていないのでとてもきれいで明るい。展示内容がなかなか手強そうということで、展示室に行く前に本来ならば観覧後に立ち寄るべきミュージアムグッズコーナーへと足を運んだ。
意外な品揃えのミュージアムショップ
日本の国会議事堂グッズといえば、歴代総理のマグカップや湯吞みが定番だ。韓国の国会議事堂にはどんなグッズがあるのかと期待していたが、実際に訪れてみると、どこかで見たことのある雰囲気。そう、国立中央博物館や国立民俗博物館のミュージアムショップにそっくりだったのである。商品のラインナップもほぼ同じで、螺鈿細工の小箱や最近人気のモダンなデザインの小物が大半を占めていた。ある意味、景福宮(キョンボックン)周辺の博物館で買いそびれた韓国らしいお土産を、汝矣島でも手に入れるチャンスと言えるだろう。
国会議事堂らしいグッズといえば、シンボルマークや建物の形をしたピンバッジやマグネット、キーホルダー、タンブラーくらいしか扱っておらず、ハンカチやミニタオルがなかったのは残念の一言。ちなみに、国会議場(本会議場)の議長席の真上に掲げられている国会のシンボルマークは、直径2.6メートル、重さ1.5トン。もともとムクゲの花の中には「国」という漢字が使われていたが、2015年からハングルの「国会」に変更された。引退したシンボルマークは、展示場に展示されている。とてもインパクトのある写真が撮れるのでぜひ、マークの隣に立ってみよう。

引退したシンボルマークはフォトゾーンに。かなりの大きさ
なかなか手強い国会博物館の展示
国会博物館の常設展示室は2つの階にまたがっており、4つの展示室で構成されている。企画展示室は1階にあり、半年に1回入れ替えがあるようだ。常設展示の第1展示室では、3・1運動(1919年に日本統治下の朝鮮で起こった民族独立運動)およびその後上海に樹立された臨時政府の独立運動、そして独立運動家の生活を紹介している。
第2展示室では、1948年5月31日から1950年5月30日まで存在した制憲国会(韓国の憲法を制定した国会)から第12代国会までの主な政治史と、関連する議政活動。
第3展示室では、1987年の民主化以降の第13代国会から第21代国会までの活動を扱っており、第4展示室では歴代国会議長の活動が紹介されている。観覧ルートは、2階の第1、2展示室から始まり、その後1階に降りて第3、4展示室を回るとよいだろう。

ディスプレイは見やすいが、文書類が多め
第1および2展示室の約7割が書類で構成されており、わかりやすいパネルやモニターがそれほど多くないため、韓国の政治史に興味や知識がないとざっと見て通り過ぎてしまうかもしれない。韓国で最初に憲法が公布されたのは1948年。日本の植民地支配からの解放、アメリカの軍政を経て、南北分断が進む中で、韓国の憲法はこれまでに9回も改正されている。
そのうち5回は事実上、新憲法の制定に近いものだ。
韓国では、各憲法が第1〜6共和国憲法と呼ばれ、その時代を背景にした「○○共和国」というタイトルのテレビドラマが人気を博したと聞いたことがある。

軍事クーデターによる国会の突然の解散なんて、一体当時の人々はどんなふうに受け止めたのだろう。大統領の暗殺、民主化運動など、韓国の激動の近現代史を追いながら、各時代の国会の様子を理解するのは自分にとって難しい作業だったが、それでも韓国がどれほど困難な道を歩んできたかを想像するよい時間となった。
む、むずかしい……自分の勉強不足にくらくらしながら第4展示室に向かうと、歴代国会議長の発言や活動を整理した展示、そして議長の執務室を再現したフォトゾーン、そしていろいろな国から贈られた記念品の展示があり、ほっこりすることができた。第3展示室はデジタルパネルがたくさんあるので、とっつきやすいだろう。


一度に150人の参加が可能
プログラムは約40分。議長席での写真撮影も可能で、テンションは自然にあがる。演壇側には大きなモニターがあり、国会の審議を体験しながら学ぶことができるようになっている。訪問時には、歩行中のスマホ使用禁止法案、夜間の住宅間での騒音防止法修正案、使い捨てプラスチック容器の使用規制法の一部修正案の三つが議論された。
席に座ると、それぞれの机からタッチスクリーンがぬぬっと現れてびっくり。議案に賛成、反対、棄権することができるようになっており、子どもたちが積極的に手を挙げて、賛成や反対の理由をしっかりと述べていたのも印象的だった。プログラムに参加すると、国会のキャラクター「ヒマンイ(希望くん)」と「サランイ(愛ちゃん)」の鉛筆がおみやげとしてもらえる。


ボリュームたっぷりのメニュー

ぜひ訪れたい博物館食堂

【インフォメーション】
開館:月曜〜金曜 10:00~18:00(最終受付17:00)、土10:00 ~ 13:00(最終受付12:00)
料金:無料
住所:ソウル特別市 永登浦区 議事堂大路 1(서울특별시 영등포구 의사당대로 1)
交通:地下鉄9号線 国会議事堂駅 1番出口 から徒歩 10分