◉展示3棟2階:「ポジャギ、日常を包む」
◉展示3棟2階:「刺繡、花が咲く」
◉展示1棟2階:「匠、世を利する」
◉展示1棟2階:「工芸、近代の扉を開く」
◉展示1棟2階:「工芸、時代を映す」
◉展示2棟2階:「匠、工芸の伝統を作る」
なお、企画展は展示1棟で開催されている。展示3棟は織物工芸、そのほかの棟は工芸の歴史を中心に構成されている。
どういう動線で見ていいのかわからない、と案内デスクで質問をしている人が何人かいたので、やはりわかりにくいのは自分だけではないようだ。
お気に入りの展示
さて、多様な工芸品を気軽に楽しめるソウル工芸博物館。その中でも特にお気に入りの展示を中心に紹介していこう。展示3棟の「ポジャギ、日常を包む」と「刺繡、花が咲く」の展示だ。
ポジャギは絹、綿、麻などの布で作られた伝統的な風呂敷のようなもので、特にパッチワークのように作られた「チョガッポ」は、一枚の絵画のように美しく、芸術的な価値も高い。モンドリアンやパウル・クレーの作品が好きな方なら、きっとこの美しさに惹かれることだろう。
ポジャギと刺繡の展示品は、「ポジャギおじいさん」として知られる許東華(ホ・ドンファ)(1926〜2018)が寄贈したものだ。コレクターであり、博物館館長、そして芸術家であった許東華の生涯を紹介するコーナーが設けられているので、まずここから見始めるといいだろう。
許東華は一生をかけて刺繡品やポジャギの収集に情熱を注ぎ、1976年に韓国刺繡博物館を設立してコレクションを公開した。この博物館は国から公認され、博物館振興法の制定にも貢献したことでも知られている。その後、「絲田(サジョン)刺繡博物館」に改称されたが、かつて南山の麓にあった頃に訪れた人もいるかもしれない。博物館はその後、別の場所に移転している。私も20年以上前にこの博物館を訪れた経験がある。予約をして開館してもらったが、当時はインターネットでの問い合わせがなかなか難しく、本当に開けてもらえるか不安だったし、自分ひとりのために開けてもらうことに申し訳なさも感じたものだ。
今では、気軽にしかも無料で多くの作品を鑑賞しながら、韓国の手仕事やその美しさに触れることができる。許東華が海外の著名な美術館に招待され、展示を通じて韓国の刺繡品とポジャギの美を世界に広めたことについて知ることもできる。1990年代に行われた東京・草月美術館でのポジャギ展開催関連の資料が目を引く。


ポジャギ展示コーナーの一角では、実際にポジャギを使ってお膳、本、結婚式用の鴨人形などを包む体験ができるようになっているので、説明を見ながらぜひ挑戦してみよう。壁にある文化評論家でジャーナリストの李御寧(イ・オリョン)の言葉が大変印象的だ。
カバンに関連する動詞は「入れる」と「背負う」くらいしかないが、ポジャギには「包む」「背負う」「覆う」「かぶせる」「敷く」「持つ」「結ぶ」「頭に載せる」「身につける」などの、変化に富んだ複雑な動詞が無数に付随してくる。
一枚の四角い布を見るだけではなく、実際に人々がどういうふうに使っていたかも知ることができる工芸館。日本のふろしき文化はどうなのか、博物館はあるのかななどと考えながら刺繡のコーナーへ。
ポジャギで実際にいろいろ包めるコーナー
ポジャギもそうだが、刺繡の作品は朝鮮後期以降の作品が多い。裁縫や刺繡が女性の重要な生活規範として強調されていた結果であるためだそうだ。そして、ほとんどに製作者の名前がない。製作者の名前が作家として記録されるようになるのは近代以降なのだとか。
刺繡で作られた刺繡屏風はため息が出るばかりだ。製作時間は一体どれくらいなのか想像もできない。館内は全体的に暗くて(展示品保護のため)、作品が見にくいと言えば見にくいのだが、それでも刺繡屏風の前に立って、糸の色や流れに集中してみよう。なお、タッチパネルで刺繡の色やモチーフの説明を詳しく見ることができる作品もあるので、ぜひチェックを。
ちょっとした袋や眼鏡入れ、ポジャギ、衣類、帽子、靴など日常の生活の中で使うあらゆるものに、願いや希望を込める手段として刺繡が利用されていたことがわかる。朝鮮時代後期は、長寿と幸福を意味する「壽福(スボク)」という文字が頻繁に刺繡されたそうだ。「多男富貴(多くの男子と富貴)」「子孫昌盛(子孫繁栄)」という刺繡が施されたアイテムも多い。
男の子をたくさん産もうというメッセージ入りの刺繡作品
韓国の工芸の歴史を知る
展示1棟2階では、「匠、世を利する」「工芸、近代の扉を開く」「工芸、時代を映す」、そして展示2棟2階の「匠、工芸の伝統を作る」という4つのコーナーを通して、韓国工芸の歴史を辿ることができる。しかし、個人的にはその内容を頭の中で整理しながら鑑賞するのは、少し難しく感じた。国立中央博物館のように、展示スペースがジャンルごとに分かれている場合、見たいものを目的に沿って観覧すればよいのだが、工芸博物館では金属、陶磁器、木工、螺鈿、繊維など様々なジャンルの工芸品が一つの空間に少しずつ展示されているため、どれを中心に見ればよいのか混乱してしまうのだ。
逆に言えば、一度に多様な工芸品を鑑賞できるという利点もあるが、ただ眺めて通り過ぎるだけでは博物館の魅力を十分に味わえない気がする。調べてみると、工芸の歴史展示についての解説は毎週火曜から土曜、12時と15時にあり(各回50分、韓国語)、英語での解説は隔週金曜日の15時半に実施されているとのこと。
朝鮮時代には、熟練の工芸職人が中央や地方の官庁に配属され、外交や軍事、王室の儀式、さらには日常生活に必要な品々を製作していた。資料によれば、中央官庁には129の職種で2841人の京工匠が、地方官庁には27の職種で3656人の外工匠が配置されることが規定され、職人たちはその職務に従事していた。しかし、日本や中国との戦争が続いた16〜17世紀から、工匠制度は徐々に緩やかになり、19世紀末には解体に至った。その後「私匠」と呼ばれる自由に製作する人々が増え、さまざまな日用品が生産されるようになった。大韓帝国時代(1897〜1910)に入ると、伝統的な手工芸は衰退し、近代的な産業技術としての工芸品が作られるようになった。

注目すべきは、日本統治時代に関するコーナーである。ここでは、工芸品が観光商品や記念品として消費されるようになっていった様子がよくわかる。三越や丁子屋、和信といった名前を聞いたことがあるかもしれない。ソウルが京城と呼ばれていた時代、様々な広告を通じて有名百貨店や工芸品の店で流通していた工芸品は、デザインがモダンで魅力的なものが多い。しかし、果たしてこの時代のデザインに素直に感動して良いのか迷ってしまう。このコーナーを韓国の人たちがどのように感じるのか、非常に気になるところである。とはいっても、日本では見ることのできない貴重な品ばかりだ。
そしてこちらの美術館には1936年発行の鳥瞰図「大京城府大観」のオリジナルが展示されている。1935年8月に撮影された航空写真を元に制作されたもので、建物等が立体的に描写されているのが特徴。それと朝鮮民芸および陶芸を研究し、朝鮮半島で植林事業を行う傍ら、朝鮮半島の陶磁器と木工を紹介した浅川巧のことがほんの少し登場する展示もある。どこにあるかぜひ探してみて欲しい。
三越等で販売されていた記念品などの展示
企画展示で美しい作品に触れよう
展示1棟で行われている特別展示は、それぞれ異なる期間で開催されており、一般的には約2ヶ月から3ヶ月、長いもので6ヶ月間実施されている。現在活躍している工芸家たちの新鮮な感覚に満ちた現代作品が中心だ。私が訪れた際には『工芸でつくる家』という展示が行われていた。現代の工芸家、伝統的な工芸職人、建築家、デザイナーなど、20名(チームも含む)の多様な分野の作家たちが、建築空間の中にある工芸的要素を見つけ出し、工芸の視点から建築を再構築した作品が展示されていた。何度も言うようだが、これらの作品を無料で鑑賞できるのは非常にありがたいことだ。
展示1棟は他の展示スペースとは異なり、明るく非常に開放的な雰囲気。天井も高く、ゆったりと作品を楽しむことができる。

カフェとおみやげコーナーをチェック
ガラス張りの案内棟は中に入ると非常に明るく、案内デスク、カフェ、ミュージアムショップがある。ミュージアムショップはシンプルで整然としており、好印象。ロゴ入りのオリジナルマグカップやハンカチ、エプロンなどはお土産にぴったりだ。
MMCA(国立美術館)やSeMA(ソウル市立美術館)はご存じかもしれないが、「SeMoCA」のロゴはかなり珍しいのではないだろうか。
ミュージアムショップには金属や木工など、さまざまな素材で作られた工芸品が並んでおり、洗練されたデザインが目を引く。自分への贈り物として購入するのも良いだろう。
併設されているカフェの木製の椅子は少し座りにくく、背もたれがないので、アラフィフの筆者には少々辛いものの、ここでいただくコーヒーはなかなかおいしい。
地下鉄3号線の安国駅1番出口を出てすぐの場所にあるので、カフェを特に決めていなければ、ここでひと息つくのもおすすめだ。ちなみにこども博物館の棟の4階には、本格的なドリップコーヒーを楽しめるカフェも入店している。
エプロンがかわいい
開館:火曜〜日曜 10:00~18:00(最終受付17:00)
料金:無料
住所:ソウル特別市鍾路区栗谷路3ギル4(서울특별시 종로구 율곡로 1)
交通:地下鉄3号線 安国駅 1番出口からすぐ