縦長の文字を平たく書いてみる
ひらがなは縦方向にのびのびと書きたい。
もともと縦に長いフォルムの「う」「く」「し」「り」などはもちろん、「あ」「す」の最後のはらいを長めにとるとかっこよくないですか。とくに縦書きの場合。縦方向の伸びやかさを大事にしていると、下へ下へと流れていく文字がそのまま文章の読みやすさにも繋がるように感じます。
横書きになるとそうはいきません。縦書きと同じ感覚で縦にのびのび書くと、文字列がガタガタしてかえって読みにくい。
たとえば、縦書きの文字をそのまま横に組み直すとこのようになります。

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下の横組みは各文字を天地の中央ラインで揃えているんですが、なんだかしっちゃかめっちゃかに見えますよね。じゃあ、横書きでは気持ちよく読み書きできないのかといえば、全然そんなことはありません。
なにか契約を結ぶときの書類や役所に提出する用紙、メモ帳やスケジュール帳など横書きの出番が多い昨今。書面レイアウトの自由度が増したり、単語や文がブロックとして見やすく読みやすい、といった横書きならではのメリットがそこにはあります。
わたしにとって、縦書きと横書きとで文字のかたちを変えて書くのは自然なこと。横書きなら、読み進める方向(左から右へ)の流れが大切です。縦書きのときにはさほど気にする必要がない文字の「高さ」と「幅」をある程度揃えてあげるだけで、読みやすさは格段にアップします。
読み手に文字そのものより文章の内容に集中してもらいたい、というささやかな配慮。これが想像以上の効果を発揮してくれるんです。
ところが先日、そんなことを気にかける余裕もないできごとがありました。
とある書類に記入していたときのこと。住所欄がとにかく小さかったんです。1行で書くにはあきらかに横幅が足りず、2行で書くにはちょっと高さが足りない。うちは番地以降が長く、やむを得ず2行に分けて書くことに。文字を縦にぎゅっと圧縮し、左右の文字同士もくっつきそうなほど近づけて。いや、なんならところどころくっついていました。
窮屈に書くしかなくてちょっと不服でしたが、見直してみると案外いい。東京都うんぬんと続く漢字と、わたしの丸っぽい字がいい化学反応を起こしていました。完全に自画自賛ですが、角を落としたタイルを敷きつめたようで、見ていてなんだか気持ちがいい感じ。
じつは、文字の丈を縮めるとき意識しているポイントがあるんです。
文字を単に上から押しつぶすようなイメージで書くだけだと、どこか不格好になってしまいます。ゆるやかだったカーブが急角度になったり、縦線と横線の長さのバランスが悪くなったり。
先ほどの書類でいえば、まず記入欄のサイズと記入したい文字数から、頭のなかでざっくりとマス目をつくる。そのマスを埋めるイメージで文字を書いていくのがコツです。たとえば横線を長くとってみたり、大きくゆるやかなカーブにしてみたり。そうすれば文字の高さと横幅を統一しやすくなります。
わかりやすいように、画数の少ないひらがなを例に書いてみましょう。

ひとつ目(上)の横書きはマスを意識して横書きしたもの。ふたつ目(下)は比較のため冒頭の「縦書き文字」を横に組み直し、ひとつ目にならって高さと幅だけ調整したものです。
どうでしょう。マスを意識したひとつ目のほうがなめらかに読めませんか? とくに「う」「あ」「す」は意識的に文字の高さを抑えぎみにしてあります。文字幅をそのままに高さを縮めることを “平体(へいたい)をかける” といいますが、まさにそんなイメージ。ぱっと見には微妙なちがいだけれど、こうやってささいな違和感を取り払う工夫が読みやすさにも繋がっていく。少なくともわたしはそう感じています。
さらに、整えた文字をあえて “遊ばせる” のもまた一興。こんなふうにデザイン的なエッセンスを加えれば、印象的な文字に早変わり。

使うべきところでうまく使えば、華を添えてくれること間違いなし。ただ、書類全体や手紙の本文すべてに使うのはおすすめしません。だいぶくどくなってしまうので。
手書きの文字はひと通りしかない思っていたそこのあなた! じつは文字ってこんなにも変幻自在なんです。ラフな格好をしたりスーツを着たり、日ごろTPOに合わせた服を選んでいるように、手書きの文字もさまざまな書き方を選択していい。縦書きか横書きか、読みやすさに重点を置くのか、はたまたインパクトを演出したいのか……。
もともと字を書くのが好きな方も、ひさびさに鉛筆を握る方も、ぜひ自由な文字を書いて楽しんでみてくださいね。きれいな字である必要はありません。のびやかに、軽やかに文字で遊んでみてはいかがでしょう。
(第11回・了)
次回:2026年4月3日(金)掲載予定

