薄暮の光でセノーテを ― ユカタン半島上映記 小田香

2023.4.10

01渡航前夜 4/8

 パッキングはまだ終わっていない。でもメキシコチームへのお土産が揃ったので安心している。

 長編映画『セノーテ』が多くの人たちのご協力と協働のもと完成したのが2019年の春。4年越しに撮影地であるユカタン半島での上映が叶うことになった。日本でのお披露目が2019年の夏に愛知であり、そこから山形やロッテルダムなど世界を巡業した。メキシコ国内では2020年の3月、FICUNAMというメキシコシティで開催される映画祭でお披露目となった。まだぎりぎり渡航できていた時期だったので、じぶんも参加することができた。その後もいくつかの機会を得て、メキシコの他地域でイベント的に上映していただいたり、テレビで放映してもらったりした。

 心残りは、ユカタン半島の撮影地での上映。コロナの影響が強かったここ数年、いつ上映するべきなのか、どのように為されるべきなのか、その資金はどうするかなど、考えないといけないことは多かった。映画祭での上映では我々はゲストだが、今度はじぶんたちが主体とならなければ物事が進まない。友人であり『セノーテ』のプロデューサーでもあるマルタと「どうしようかね」と言い合っているうちに数年が過ぎた。

 じぶんは本当に「どうしようかね」と言っているだけだったが、マルタはメキシコで巡業のための助成金に申請してくれていた。じぶんの制作会社もマルタの制作会社も小さな手づくり会社だが、国際共同製作作品枠の上映活動助成金がもらえたらしい。有り難い。13~15箇所ほどの撮影地で野外無料上映ができることになった。じぶんが参加できるのは12箇所前後。毎夕違う町で、18:30か19:00ごろからはじまる上映会。映写はメキシコの業者さんが担ってくれるらしい。

『セノーテ』でお世話になった人たちが生活する場所で、セノーテが存在する地域で、この映画を上映できることになって心から嬉しい。旅するように撮影をしていたので、出会った全員に再会することはできないだろうが、改めて感謝の言葉を伝えたい。

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 渡航前に書き残しておきたいこと。

 2020年3月、FICUNAMでのメキシコ初上映から帰国した数日後、第1回大島渚賞の授賞式があった。坂本龍一さんが『セノーテ』をこの賞に推してくれた。
 2023年3月末、坂本さんの訃報を受けて、言葉が出ない。
 悲しみに胸がつっかえる。
 坂本さんの音楽を聞こうかなと思うが、聞いたら涙しそうで聞けない。
 じぶんが坂本さんと交差したのは三度だけ。
 大島渚賞のとき。
 krugというシャンパンのための音楽を収録されていて、その撮影を少しお手伝いしたとき。
「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022」のCカメとして参加したとき。

「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022」で坂本さんがくれた音に、あのような音が世界に存在することに、感謝します。あの音がじぶんに残した跡と共に、生きたいと思う。

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 明日、久しぶりのユカタン半島へ旅立つ。
 上映旅の記録をここに記します。