薄暮の光でセノーテを ― ユカタン半島上映記 小田香

2023.4.21

10カンペチェとホムンでの上映 4/18 

セノーテの洞窟へ

 午前7時起床。8時にロビーに待ち合わせの予定だったが、迎えに来てくれる車が遅れており9時に変更で再集合。iPhoneはまだ生き返らない。
 今日はカンペチェとホムンで上映がある。じぶんが参加できる上映会最後の日。カンペチェは車でホムンから3時間ほど。大学にあるシネマで上映が行われ、映画制作に興味をもっている人がきてくれる予定だという。

 9時過ぎにマルタに連絡が入る。カンペチェから迎えに来てくれていた車がメリダを過ぎたあたりで事故にあったらしい。不幸中の幸いでだれも怪我はなかったが、ぶつけられた相手とすこし揉めているようで、じぶんたちをピックアップすることが難しくなった。9時半、どうするべきかすぐに決断しないと上映会に間に合わなくなる。

 アウグストが行き帰り3時間ずつ運転して現地へ向かうか、zoomでオンライントークとするか。6時間の運転をアウグストに強いるのはダメだろうと話し合い、オンラインセッションで進めることをカンペチェ上映の調整者と確認し合う。

 上映前挨拶でマルタ、アウグスト、Y、じぶんの自己紹介。
 カンペチェ側に日本で言うコミュニティー・シネマ・センターのような役割を担う団体であるセレシネの代表のひとりヨバナさんがおり、日本のアート・ハウス・シネマに長く従事しているYも参加することとなった。カンペチェのシネマでの上映はヨバナさんが設定してくれた。

 オンライントークは1時間を超え、映画に関する様々な質問が出た。「骨の掃除をしている場面を8mmで撮影したのはなぜですか?」「ナレーションのような声をつけたのはなぜ?」「音のコンセプトはどこからきて、どうやって音の構成した?」「ドキュメンタリーではなく『セノーテ』のような映画をつくったのはなぜですか?」
 ヨバナさんからYに「メキシコのインデペンデントシネマは集客に関して厳しい状況にあるのだけど、日本ではどうですか?」「映画館に対して政府からの助成金はありますか?」

 日本のインデペンデントシネマも常に厳しい状況にあること。コロナ禍では、ミニシアター・エイド基金、Save Our Local Cinemas、Art for the Futureなどの支援を受けることで生き延びたことを話した。「日本にはコミュニティー・シネマ・センターというものがあって、その集会では映画館で働く人や配給会社の人たち、作り手が集まって、他国の映画館や助成金システムについても勉強しています。今回こうやって交流できて嬉しいです」。15:00。

 ホテルでユカテカチキンを食べて、少し昼寝した。マルタは領収書の整理、Yはプール。

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 ホテルのすぐ横に洞窟型のセノーテがあったので、マルタの雑務が終わった頃にYも一緒に入ってみた。このセノーテのお世話をしているご家族の娘さんが案内をしてくれた。危なくはないそうだが、ヘッドランプを必ずしなければならず、お借りした。セノーテにたどり着くには洞窟を数分歩き、胸辺りまである水の中を通らないといけない。マルタだけが水着だったので、ひとり暗闇の中、水の中に入っていく。こちらからは見えなくなるまで。声をかけると返事があるので大丈夫と思いつつ、暗闇の先を見つめる。水の中をひとり渡っていくのは勇気と強い好奇心がいる。

 上映時間が近づいてきたので、着替えないといけないマルタを置いて、アウグストとYとホムンの上映会場に向かった。観に来てくれた人の数はそんなに多くないが、ホムンでお世話になったアリさんのご家族が来てくれた。アリさんは劇中で養蜂場の場面に登場する男のひとだが、鳥を捌き売っている女のひとや、衣服に刺繍をしている女のひとなど、ホムンに暮らす人達を紹介してくれた。

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 上映中、少し時間があったので、上映旅ではまだ未体験だったバイクタクシーに乗ってみた。
夜風が気持ち良い。タクシーの運転手さんは若い男性で、アウグストがセノーテの上映のことを話すと、この町のセノーテについて教えてくれながら町を巡ってくれた。

 その際に、汚染の話もでた。ホムンは町とその周辺に多くのセノーテと昔ながらの養豚場を有する。政府が開発を進めている大型養豚場からの影響を恐れ、ホムンは政府に異議申し立てをしているコミュニティのひとつである。
 昼間、ホムンについて検索しているとき、一番最初にでてきたのが大型養豚場とそこからでる汚染物による被害についての記事だった。
 日本はそこで育てられた豚の大手輸出先だとあった。

 アリご一家にお礼をした後、トークで少しだけこの問題に触れた。町の人からはあまり反応がなかった気がした。でも、じぶんが上映後のこの短い間でなにか聞けたらと思うほうがおこがましいだろう。日本(じぶんが食べているかもしれないもの)が無関係でないことですら今日知ったのだから。

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 他県から来ているメキシコ人の若い女性が、『セノーテ』について熱い言葉をくれた。大事なことが語られていると。普段はストリートで暗黒舞踏やドラムを叩いているという。TOTOさんの協力のもと、この上映旅では「人に集まってもらう、見てもらう」ことが実現できているが、彼女の意見では、メキシコではインデペンデントな表現活動に「人を集めて見てもらうこと」自体が難しく、ストリートに出て表現を始めたという。さっぱりとした明るい気質の方だった。

 22:00ホテルに帰った。ホムン上映を調整してくれた現地の方が夕食を用意してくれ、ホテルのレストランで食す。
 22:30アウグストの部屋にシーツでスクリーンをつくり、彼の初長編ラフカットをみなで観る。字幕が半分以上なかったので、わからない部分もあったが、鑑賞後にロビーで彼の映画について、あれやこれや話した。まだ完成していないフラジャイルなものを人に見せるというのは勇気がいる。アウグストは、自身の意見や気持ちを丁寧に伝えながら、みんなの意見に冷静に耳を傾け、咀嚼していた。

 26:00すぎ、雑務を終え、シャワーを浴びて就寝。