薄暮の光でセノーテを ― ユカタン半島上映記 小田香

2023.4.15

06シカンでの上映 4/13

 バヤドリッドは小さな美しい町で、撮影時にはメリダの次に拠点になることが多かった。バヤドリッドから1時間ほど走ると、シカンという村がある。シカンでは周辺のセノーテ巡りに加えて、住民の方々へのインタビューを行っていた。その中の4、5人は劇中のポートレイトショットに参加してくれている。

 アウグスト経由でまずシカンの現地ガイドを担ってくれたドン・ルイスに連絡し、ご出演いただいた皆さんに上映会のことをお知らせしてもらった。来ていただけるだろうか。

 バヤドリッドに住んでいるTOTOのお二人から朝食と書き物によい場所を教えてもらったので、マルタと合流して日記を記す。彼女は上映関係の終わらない事務電話仕事にバテながら、財布の中でごちゃごちゃしている領収書の整理をしていた。

 グスタボはバヤドリッド近くのセノーテへ、アウグストと彼のパートナーは休息、Yは昨晩から体調を崩しており、今日一日ホテルで休むことになった。マルタ曰く、Yの体調不良は「モクテスマの復讐」ではないかとのこと。メキシコにやってくる外国人がかかる腹痛。モクテスマというのはアステカ王の名前で、スペインからの征服者コルテスがアステカを滅ぼした際の怨念が、メキシコにやってくる外国人に降りかかる、という言い伝えがあるらしい。

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 Y以外のみなと合流し昼食後、シカンへ出発した。
 車内で寝落ちする。
 到着後TOTOと合流。TOTOのお二人と一緒に移動型シネマのバンに乗って村にアナウンスしてまわることに。
 バンの窓からチラシを配るのだが、スペイン語が全くできないので、カンニングペーパーにどう言えばいいかを書いてもらった。家の外で遊んでいる子どもたちや休憩している大人たちに声をかける。

 じぶんは普通にしていると愛想があんまり良くないので、できる限りニコッとしながら。見知った顔を探しながら。家の前でこちらを見ているご年配がいる。名前。出演者のひとりだ。撮影時から約6年も経っているので、忘れられているかもしれない。「こんにちわ。映画完成しました。上映があります」。お伝えした。彼は覚えていてくれた。映画も観に来てくれるらしい。

 子どもたちが先程まで伝統的なダンスの練習をしていた場所で上映の準備がはじまった。ガイドのドン・ルイス、彼の叔父で出演者のひとりであるドン・ホアン、ドン・ホアンの同僚のドン・フロレンティーノ、手づくりのお土産をつくっている方、その方の姉妹、助産師でマッサージ師でもあるマルシアナ。改めてお礼を言いたかった人たちがみな集まってくれた。ご健在で嬉しい。

 上映前挨拶、感謝の言葉をマルタと共に伝えた。インタビューや出演でご協力いただいたこと、今日の上映会にきていただけたこと。緊張して笑顔が固くなる。たどたどしいお礼。ナーバスになっているせいか疲れのせいか、じぶんもお腹が痛くなってきた。

 小さな村々で公共のトイレを探すのは難しい。上映場所近くの服屋さんがトイレをかしてくれた。トイレのレバーがなかったので、周囲を見渡すと蛇口、ホース、バケツがあった。バケツに水をためて、便器に一気に水を落とし、流すスタイルのトイレ。ためらわなかったじぶんを少し誇りに思う。

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 上映が終わった。マルタ、アウグストと共に前に出て、感想や質問に応える。最初の質問は、手づくりのお土産をつくっている方の娘さんから。

「母のインタビューや仕事風景を撮影していたと思うのだけど、その場面がなかったのはなぜ?」今回の上映旅ではこういう質問は今までなかった。素朴で真っ当な質問。

 撮影時には、その映像が実際に劇中に入るかどうかはわからないとご説明するが、じぶんでもどのくらい丁寧にそれをお伝えしたか思い出せない(出演承諾書は一応いただいているが、思うところがあって可能な限り出演許可のYES/NO以外の詳細は書いていなかった。理由は長くなるので省く。もしくはまたの機会に書きたい)。

 このような質問は、中途半端に返すと全く伝わらないので、全力で答えた。撮影とリサーチ撮影をはっきりとわけた撮影をしていなかったこと。撮影させていただいた人たち全ての出会いと経験がもとになって『セノーテ』という映画をつくったけど、それらの全てを含んだ映画をつくる能力は今のじぶんにはなく、エッセンスのようなものを抽出するなかで、イメージとして残るものと残らないものがあること。

 質問してくれた方は納得してくれたようだったが、スクリーンにもっとうつることを期待してくれてたんだと思うとじぶんも悲しく、申し訳ない(映画自体は、美しい映画だったと、後ほどおっしゃってくれた)。

 ドン・ルイス、ドン・ホアン、ドン・フロレンティーノは、撮影時のことを観客の皆さんにお話してくれた。「シカン近くのセノーテにいったが、そのセノーテは閉まっていて中には入れなかったので、インタビューで自分たちの人生について話した。撮影から長い時間が経ったので、もう戻ってこないと思っていた。映画とともに戻ってきて嬉しい」

 マッサージ師のマルシアナ「映画が見れてよかった。私や私の生きている場所をうつした映画。私たちをうつした映画をまた見せてほしい」
 若いシカン住民「私はいま15歳です。じぶんとじぶんのいる場所のことを誇りに思いました」
 またいつでもうちに来たらいいよ。次はいつくる?
 セノーテの近くに住んでいても、泳げない人や、アクセスできない人も多くいるから、セノーテの中をはじめてみたよ。

 22:45シカンを出発しバヤドリッドに戻る23:45。
唯一開いていた店で、巨大なハンバーガーをみなでむさぼり、25:30就寝。
Yの体調は上向きになってきた。