亜紀書房の本 試し読み あき地編集部

2021.10.8

22及川健二編『本当に野党ではダメなのか?』——大門実紀史「日本共産党」参院国対副委員長に聞く



アベノミクスであなたは豊かになりましたか?
なぜ賃金がずっとあがらないままなのでしょうか?
日本はなぜ景気が浮上しないのでしょうか?



野党の経済政策のポイントを網羅した『本当に野党ではダメなのか?』
一部内容を抜粋し、試し読み公開します!

私たちの生活そして未来を託すべき政党はどこか——
来る総選挙(10月19日公示・31日投開票)に備えて

知るべき情報がこの一冊に!

 



大門実紀史「日本共産党」参院国対副委員長に聞く
賃金引き上げと大胆な支出で、日本経済を立て直す!

 

――二〇一九年にニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が来日し提唱してきたMMT(現代貨幣理論)が今もブームです。MMTをどうお考えですか。

大門:最近、「緊縮」か「反緊縮」かという議論がよく聞かれますので、この点を先に述べたいと思います。先ほど述べたように、日本の財務省は、国の借金が大変だ、大変だとキャンペーンを張り、国民に負担増と公的サービスの削減を押しつけてきました。いわゆる「緊縮」路線です。長期にわたる財務省と自公政権による「緊縮」路線は、人々の将来不安を助長するとともに、我慢を強いて、暗い気持ちにさせてきました。そういう「緊縮」路線に対し、「反緊縮」を掲げてたたかうことは理解できます。財務省のバカヤローという意味では、大いに共感もします。
 ただ、かれらの「緊縮」は裏表のある二枚舌政策であり、そこは正確に見ておく必要があります。なぜなら、国民には「緊縮」政策を押しつける一方で、大企業や富裕層には減税や数々の支援措置を大盤振る舞いし、かれらには明るい未来を与えてきたからです。つまり大企業や富裕層には「反緊縮」を行ってきたわけで、「緊縮」か「反緊縮」という問題の立て方だけでは、財務省の狡猾さも新自由主義の本質も見抜けません。問題の核心は「緊縮」か「反緊縮」かではなく、誰のための政治なのかということです。このことを曖昧にしてこれまでの政治をただすことはできません。
 そのうえで国の巨額の借金をどう考えるかです。目の前で困っている人を助けるのは政治の仕事です。財源がないから助けられないなどと言うべきではない。借金してでも人々を救う責任が政治にはあります。この点で、最近クローズアップされてきたのが、ケルトン教授の提唱してきたMMTです。簡単に言うと、国の借金とは返済に汲々とするような性格のものではないということを解き明かした理論だと理解しています。財務省のように国の借金が大変だと人々を脅しつけるやり方への反論としては、有効だと思っています。また国会の質疑でも申し上げましたが、ケルトン教授には心情的にとても共感しています。学者の方々は、どの立場からのどんな考えでも、自由に主張されるべきです。
 そのうえで申し上げれば、日本のMMTを主張する方の中には、極端な方もおられます。 国の借金はいくらしてもかまわないとか、お札をどんどん刷って消費税はすぐ廃止、国民全員に生活費を一律給付せよとか、あるいは、インフレになれば増税して沈静化すればいいんだ(生の経済はそんなに単純に動かない)とか。そこまで言ってしまうと、MMTは荒唐無稽な理論だと聞く耳を持たれなくなり、せっかく活用できる部分まで切り捨てられてしまいます。実際、国会でMMTを極端な形で主張する議員もいますが、政府側に「異端」扱いされ、聞き流されてしまっています。
 またそういう極端な主張に少しでも疑義を挟むと、「おまえは緊縮派だ」とレッテルを貼られたり、「〇〇先生の本を読め」と感情的な反応が返ってくるのも残念に思います。MMTは新興宗教ではありません。ケルトンさんも残念がっているのではないでしょうか。


――MMTは、あくまでもインフレ率が制約になるということであり、そこを過ぎてまでお札を刷るべきとは言っていません。賃金がこれほどまで下がった要因の一つは、デフレスパイラルだと思います。消費税を減税するなどして、経済をインフレ基調に持っていくことが必要ではないでしょうか。「共産党」としては、適切な物価上昇率、インフレ率については考えていますか。

大門:わが党はそういう論立てはしていません。物価上昇という目標を立てること自体が的外れだと思います。なぜならこの二〇年間のデフレは、金融政策の結果ではないからです。二〇〇一年頃はデフレスパイラルがよく議論になりました。竹中平蔵大臣(当時)とよく議論したものです。わが党はそのときから、デフレの原因は、不況下で政府と財界が一体となって賃金引下げを進めたことにある。このデフレは賃金デフレだと明確に指摘してきました。
 九〇年代初めのバブル崩壊で経済が長期不況に入ったときに、先ほど述べた日経連の「新時代の日本的経営」が出され、賃金引下げ路線が押し進められました。不況下でわざわざ賃金引下げ政策をやるとどうなるのか。不況ですからモノが売れなくなります。モノが売れないから企業はモノの値段を下げて売ろうとします。当時は「価格破壊」だの「ユニクロ現象」だの、企業がみんなでダンピング競争を始めた。ダンピング競争に打ち勝つにはコストを下げなければならない。賃金の押し下げ圧力が強まります。そんな折、日経連の要求に沿って、低賃金の派遣労働を増やす規制緩和が断行された。ただでさえ賃金を下げようとする圧力が強まっているのに、賃金を引き下げるような政策を出した。このダブルが効いて、実際に賃金は下降していった。賃金が下がればモノが売れなくなり、またいっそうモノの値段を下げようとする。そういう悪循環が長期のデフレを招いたのです。
 二〇年前、デフレの原因が賃金引下げにあると主張したのは、政党としてはわが党だけでした。他の政党も多くの学者も、デフレは日銀が金融緩和に消極的だったことにある、すなわち金融政策の結果だと主張していた。しかしその日銀が黒田総裁に代わり、「異次元の金融緩和」という大規模な金融政策を行ったにもかかわらず、何年経っても自ら掲げた二パーセントの物価上昇目標を達成できていません。政府の審議会の委員をしていた著名な学者で、デフレは金融政策の結果だと主張していた人が、日銀が大規模な金融緩和をやっても物価が上昇しないのを見て、「賃金引下げがデフレの原因だ」と主張を変えたときはさすがに笑ってしまいました。デフレが金融政策の結果ではなく、賃金引下げ政策によってもたらされたことは、もはや明白になったのではないでしょうか。
 物価の上昇自体が目標ではありません。人々のくらしがよくなって、経済が活発化し、その結果、物価が上がることが大事なのです。ですから、大事なのは物価上昇ではなく、賃金引き上げです。賃金は、労働市場の需給関係、労使の力関係、労働者の生計費、雇用関係などさまざまな要因で決まります。政府が主導的に関与できるのは最低賃金の引き上げです。安倍、菅政権のようなチマチマした引き上げではなく、アメリカやフランスで実施したような、大規模な中小企業支援と最低賃金の大幅引き上げをセットにした大胆な政策を実行することが必要です。

 

———————————————————————————————————————

大門 実紀史(だいもん・みきし)
比例代表選出、参議院議員。日本共産党
一九五六年京都府生まれ。神戸大学中退。東京土建一般労働組合同本部書記長、全国建設労働組合総連合(全建総連)中央執行委員、建設労働組合首都圏共闘会議初代議長を歴任◎予算委員、財政金融委員、党参院国対副委員長、党議員団建設国保対策委員会事務局長、党中央委員◎著書として『ルールある経済って、なに?』『新自由主義の犯罪』『カジノミクス』がある。当選四回

———————————————————————————————————————

《『本当に野党ではダメなのか?』試し読み》
江田憲司「立憲民主党」代表代行に聞く
大塚耕平「国民民主党」代表代行に聞く
大椿ゆうこ「社会民主党」副党首に聞く

 

 


本当に野党ではダメなのか?——
野党が掲げる成長のための経済政策
及川健二 編 税込1650円


【目次】
■まえがき
経済政策担当の江田憲司「立憲民主党」代表代行に聞く
■大門実紀史「日本共産党」参院国対副委員長に聞く
■藤田文武「日本維新の会」国会議員団広報局長に聞く
参議院国家基本政策委員会委員長の大塚耕平「国民民主党」代表代行に聞く
非正規労働者出身、大椿ゆうこ「社会民主党」副党首に聞く
■元金融マン、北村イタル「れいわ新選組」衆議院東京都第二区総支部長に聞く
■浜田聡、旧「NHKから国民を守る党」政調会長に聞く
■落合貴之「立憲民主党」政調副会長に聞く
■浅田均「日本維新の会」政調会長に聞く
■政界を引退した亀井静香、元金融相に聞く
■今や国是となった積極財政。次なる論点はその金額だ。――池戸万作
■あとがき