亜紀書房の本 試し読み あき地編集部

2023.12.11

54クァク・ミンジ『私の「結婚」について勝手に語らないでください。』[清水知佐子訳]──(1)

クァク・ミンジ著/清水知佐子訳
私の「結婚」について勝手に語らないでください。』
——12月25日(水)発売!——


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――いや、ちょっと待ってよ。私は結婚しないんだってば。

 忙しく働きながら、ジムに通って汗を流して、ポールダンスを嗜み、気心知れた友達との食事を楽しみ、夜はYouTubeやNetflixでリラックス。休みの日には推し活も!——こんなに充実した日常のなかには「結婚しなければならない」理由は見当たらない。
 それなのに、世間は「『結婚しない』とは言っても、いつかするはずだ」「ひとりは寂しいんじゃないの?」「そのうち、子どもも欲しくなるだろう」なんて言ってくる。
 でも、「非婚」は「未婚」とは違うし、「結婚しない」選択は多様な生き方のひとつなんだ。

──結婚しても/結婚しなくても、
あなたの生き方は〈あなたが選んで決めればいい〉。

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 著者のクァク・ミンジさんはフリーの放送作家、エッセイストとして活躍すると同時に、累積聴取回数2000万回超の「非婚ライフ可視化ポッドキャスト」『ビホンセ(ビヨンセと「非婚の世の中」をかけた造語)の制作兼進行役として脚光を集めています。

『ビホンセ』という名称には、世間の圧力に押されてその存在がほとんど隠されてしまっている「非婚主義者(ビホンセ)」たちの声や日常を発信することで、非婚主義が一つの選択肢として尊重される社会「非婚の世の中(ビホンセ)」を作っていこうという思いが込められている。──「訳者解説」より

 本書は、非婚ライフの日常、非婚を宣言したことによる悩みなどが、家族や友人、ポッドキャストのリスナーらとのかかわりを通して描かれています。また、
まだ知られていない「非婚を生きる少なくない女性」の存在を示すことで、世間の偏見や社会の意識を変えたいという切実な思いと、多様性を認め、「ひとりを共に生きよう!」という温かいエールが込められています。

 日本のみなさんにも「わかる、わかる!」と共感を持って楽しんでいただける一冊です。ぜひご覧ください。

 

【クァク・ミンジさんは日本のメディアでも紹介されています】



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プロローグ
──こんなテーマで本を書くなんて

 

 いや、ちょっと待ってよ。私は結婚しないんだってば。

 はじまりは私の人生の大半を占めていたあれ、承認欲求だった。結婚する気はないのに、いつ結婚するのかとしつこく聞くもんだからそんな気はないと答えたのに、額面どおり受け取ってもらえなかったことは一度や二度ではない。「そう言いながらいつかは結婚するんだろう」とか「お前みたいな子が真っ先に結婚するんだ」みたいな言葉が返ってきたとき、ありのままの自分を受け入れてもらえないことが悲しくて私は語りはじめた。どう考えてもおかしいではないか。いつ結婚するのかと聞かれて、しないと答えたのだから、「ああ、そうか」と言えばいいものを、人の意向を聞いておいて結論は自分たちが出すなんて。中華料理屋に行って「ジャージャー麺にしますか、チャンポンにしますか」と聞かれて「チャンポン」と答えたら、店主は普通「はい!」と注文に応じる。ところが、「ああ言いながらジャージャー麺を頼むに違いない」と、店主が私の注文をメモしなかったと仮定しよう。


 人の話を聞いてないんですか?
 それなら最初から聞かなきゃいいでしょう。


 そう思うから意地を張りたくなるのだ。私の気持ちは無視するわけ? だったら、私は「チャンポン連盟」を組織して暴れまくってやる。テレビでもジャージャー麺を食べる人〔既婚者〕たちの話ばかり出てくるから、私たち「チャンポン人〔非婚者〕」の話をするのだと私が自ら作ったチャンポン番組。非婚ライフ可視化ポッドキャスト『ビホンセ(非婚世)』はそうやってはじまった。
 番組がはじまって一年が経った今も、タイトルだけは本当にうまくつけたと思う。「ビホンセ」ではなく、「非婚ライフ可視化ポッドキャスト」のことだ。ただただ、いろんな非婚者が既婚者と同じくらいあちこちにいるということを知らせたいという思いから、私と非婚の友人たちの日常を語りはじめた。ところが、意図せずそれが契機となってメディアのインタビューを受けることになり、ドキュメンタリー番組に出演し、コラムも書くことになった。チャンポンを食べたいというのは本心だと言いたかっただけで、チャンポンに人生を注いでいるわけではないのに、まるで、三食チャンポンばかりを食べ、チャンポンTシャツを着て仕事をし、チャンポンパジャマを着て寝る人として私は認識されていった。「わざわざそこまですることないだろう。笑わせるんじゃないぞ、チャンポン」みたいなことも言われたし、ついにチャンポンの本を書かないかと提案されたときは、このままだと私の墓碑に「クァク・ミンジ、ひたすらチャンポンを食べてここに眠る」と刻まれるんじゃないかと不安になった。


(ああ、そういうことじゃないんだけどな)


 そのうちにふと、これは本当に面白い現象なんじゃないかと思いはじめた。二〇二一年に結婚する気はないと宣言し、それに関する話をしただけでこんなにも注目されるなんて! いったい、この社会はどうしてこうも結婚という制度に忠実なのか。ポッドキャストをはじめたころ、世の中には既婚者やいつか既婚者に編入される人たちの話ばかりだったから面白半分でやってみただけなのに、こんなにも注目され、続いているということに回を重ねるたびに驚かされる。しかも、「結婚しないと思う」とちょっと言っただけで本の出版オファーまでもらえるなんて。それなら、将来、姉の子供のジュンとソルに、あるいは、カフェで本を読んでいて目が合った隣の席の子供たちに聞かせてあげられるように「できるところまでとことんやってみよう」と私は決意した。


「昔はね、結婚しないと言っただけで本が出せたんだよ。今みたいに他人が結婚しようがしまいが関係ない世の中じゃ想像もできないだろうけど、私たちのときはそうだった。おかげで、このおばあさんはちょっとお金を稼いだってわけなんだけどね」


 未来から来てこの本を開いたあなた、「こんな本を書くなんて、結婚しないことの何が問題だっていうのよ」と思ったなら、二〇二一年のビホンセたちに拍手を送ってあげてほしい。私のときはこんなことも本になった。非婚だと宣言すればインタビューの依頼も来るし、本もものすごく(おまじない的な効果を期待して)売れて、そんな時代が本当にあった! 私がまさに証人だ! 結婚しないと言えば、何度も何度も同じことを聞かれた。本当にしないんだといくら言っても誰も信じてくれなくて。


(いや、今どき誰がそんな。いったい今何年だと思ってるんだ。「だけど結婚はしないと」みたいな言葉が本当に存在するなんて)


 そんなの噓でしょうと思うかもしれない。そこで、これから二〇二一年に非婚で生きていた人の素朴で平凡な話をしようと思う。この本が出れば、私の墓碑には「非婚、非婚って誰が言った。ビホンセが言った」と刻まれ、私はオンライン、オフラインで非婚を叫んだおかしな人になるんだろうけど、「あの当時は、そんなことも本になったんだってよ」と言われるほど、非婚なんて何でもない世の中になっていることを夢見て私は今、これを書いている。非婚が飯のタネになる。地面を掘ったところで小銭の一枚も出てこない二〇二一年に、非婚をすればお金になるということを通帳に記載された印税で確認し、楽しむためにも私は本を書く! だから、ここまで読んでやめないで本を買い、私の老後資金のファンディングに参加してほしい。そうやって私たち、「共に」一人で生きようではないか!


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【試し読み公開予定】
こんにちは、非婚です
私の祖母