亜紀書房の本 試し読み あき地編集部

2022.8.29

42【対談2】小田嶋隆さん×渡辺由佳里さん 「政治的発言をしちゃいけないの?」

 


 2022年6月24日、『日本語を、取り戻す。』の著者である小田嶋隆さんがお亡くなりになりました。2020年9月に刊行した『日本語を、取り戻す。』は、朝日新聞、日経新聞、産経新聞、地方新聞、サンデー毎日などたくさんの新聞雑誌で取り上げられて、多くの方に手にとっていただきました。

 2020年10月29日、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』の著者である渡辺由佳里さんと小田嶋さんによるオンライントークイベント「政治的発言をしちゃいけないの?」を開催しました。2020年11月のアメリカ大統領選直前の対談です。イベントは多くの方に視聴していただき、好評を博しました。

 今回は、小田嶋さんのご家族と渡辺由佳里さんのお許しを得て、部分ではありますが、イベントの映像とテキストとを合わせて公開いたします。

 小田嶋隆さんのご冥福を心よりお祈りいたします。──亜紀書房

 

 

小田嶋隆さん×渡辺由佳里さんの対談
「政治的発言をしちゃいけないの?」


▶︎【対談1】はこちら
▶︎【対談3】はこちら


女性を叩くインテリ男性の出現

小田嶋 日本はアメリカに比べると女性の進出率がものすごく低い国ですが、それでも20年前に比べれば各界に出てくる女性が現れるようになりました。たとえばモデルでも女優でも、さほど政治的でなくとも「わたしはこう思います」とはっきり言う女性がぽつぽつ現れてきたなと思っているんです。その女性たちが信じられない叩かれ方をする。きゃりーぱみゅぱみゅさんや水原希子さんとか。それほど過激なことを言っているわけじゃなくてごく当たり前のことを言っただけなのに、女のくせに生意気だって。これは一体、どれほどの揺り戻しが来ているんだろうって、びっくりします。

渡辺 自分の権利が脅かされるように感じるんだと思います。

小田嶋 たとえば、頑固おやじで大酒飲みでというような、あまり知的には見えないタイプの人たちが「女のくせに生意気を言うんじゃない」っていうのは何となく分かるんですよ。でもそうではなくて、それこそ知的な教育を受けてきた比較的若くて世間からインテリと呼ばれるような人たちがそういうことを言う。ちょっと知的な人たちだから露骨に「女のくせに」という言い方はしないんですが、一段階持って回ったやり方で女性の足を引っ張るインテリがいるということに気づいたのが、ここ3年くらいのわたしの驚きのひとつなんですよ。

渡辺 それはアメリカにもあります。つまり気にくわないんですよね。自分とは対等ではないと彼らは教わって育ったんだと思うんです。そういう環境で育ってきて、それに慣れ切っている。恵まれた環境で生きてきたことを指摘されるのがすごく嫌なんだと思います。すべて自分の能力と努力でここまで来たんだって信じたい。それを揺るがす可能性のあるものがすごく気に入らない。しかも自分のその感情について分析することもしない。分析する必要のない人たちなんです。
 わたしの義弟は身長が2メートルもあってアイスホッケーもトライアスロンもすべてのスポーツに万能で、しかも幼稚園の頃から一番背が高い男の子だからいじめられたこともない。まぁまぁのお金持ちの家で育っているので、いい学校にも行けてウォール街の投資銀行家になって年に数億円貯めて、今は独立して自分の会社を持ってもっと儲けている。就職でも白人男性で背が高く、そのうえカントリークラブの会員らしい自信たっぷりの雰囲気をそなえている。それだけでコネクションが、がががっとできるわけです。

小田嶋 分類でいうといわゆる「ジョック(社会や学校でヒエラルキーの頂点にいる人気者のうち主に男性をさす名詞)」と呼ばれちゃう人でしょう。

渡辺 そう。そういう人たちは、女性が性的に暴力を振るわれたという話を聞くと、女性に落ち度があるに違いないと叩くわけです。

小田嶋 女性が性暴力を受けたという話があると、急に加害者の身になって女性が噓をついているんじゃないかと騒ぐ人たちがいる。まるで自分が告発されたかのような被害者意識を持つんですよね。

渡辺 わたしの夫は、義弟とは全然違うんです。同じ親に育てられたはずなのにどうしてこんなに違ってしまったのかというと、自分以外のものに興味があるかどうかがすごく大きいと思うんです。夫は世界にすごく興味がある人で、さまざまな国に出かけ、たくさんの人と付き合う。どんどん外に出て、話も聞くし、共和党を支持している知り合いもいます。自分以外の状況や人に興味があるかどうかで、人は変わってくると思うんです。

小田嶋 それはあるかもしれません。日本で、ネットで人生相談を受けている男性に女性が夫のDVを相談したところ、彼女が夫から受けたDVの内容がおおげさ過ぎるからあなたの話は信用できない、噓を含む話をすればあなたが損をするだけだと答えたんです。そしたら猛烈な反発があって。彼にとっておおげさに聞こえる内容は、DVをよく知る人たちにはまるきりあり得る話で、それをそんなことはあるはずがないと言うなら、あなたが世間を知らないだけだと。それで結局、男性が謝罪しました。


テキストの続き


※本映像には一部乱れがあります。あらかじめご了承ください。
※視聴期間は2022年10月30日までを予定しています。

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 日本語を、取り戻す。
■小田嶋 隆/著
■四六判・並製、312ページ
■ISBN:978-4-7505-1660-8 C0095
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■電子書籍も好評発売中

 

 

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ベストセラーで読み解く現代アメリカ渡辺 由佳里 /著
■四六判・並製、368ページ
■ISBN:978-4-7505-1626-4 C0095
■書籍の詳細、購入はこちら
■電子書籍も好評発売中