《推薦》
もがいて見つけたものを私は信じる。
それが世の感覚からズレていたとしても
――こだまさん
一読、自分へのこだわりが半減し愛が倍になった。
幸せとはこれか!と膝を打ちました。
――吉村萬壱さん
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佐々木ののか
『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』
はじめに
自分を愛する、という言葉に長らくピンと来ていなかった。
世の中に蔓延する幸せになるための方法を説くものは「自分を大切にしよう」と「大切な人を持とう」「人に大切にしてもらえるような人になろう」の大きく分けて三つだが、いずれもできない私は幸せになれないと言われているようで腹立たしく、そうした言説を耳にするたびに腐り、世を呪っていた。
自分も他人も愛せるに越したことはない。そんなことはわかっている。私が知りたいのは、そんな至極当然の事実ではなく、どうすればそのようにできるかのプロセスだった。それが知りたくてたくさんの本を読んできたが、自分を大切にする処方箋として「ゆっくり湯船につかる」とか「ボディークリームを念入りに塗る」とか「他人とかかわる機会を持つ」「人に好かれるような立ち居振る舞いを心がける」などといった方法が紹介されていて戦慄した。もしかして、世の中の多くの人はそうした実践を通して自他ともに愛し愛されてしまえるほどに、〈私〉が善人なのではないか。そう思うと、自分だけが打ち捨てられたようでかえって絶望した。私のような未熟で醜悪で野蛮な人間をどうして愛することができようか。糸が絡んでいることはわかっていて、しかし、混
線しすぎてどこから手をつけていいかわからないような状態だった。
そんな想いを三十年ちかくも抱き続けてきたある日、ひょんなことから、七年住んだ東京を離れて、大学進学時から数えて約十三年ぶりに北海道の実家に戻ることになった。人とのかかわりや煌びやかな誘惑が少ない田舎町での暮らしは、自分や過去と向き合うことを余儀なくさせる。私は私と殴り合いをする中で、互いのことを知り、少しずつ受け入れていくことになる。
本書は、私が日常のできごとや読んだ本などを足掛かりにして、自分を愛するに至るまでの、七転八倒の軌跡である。しかし同時に、自分の愛し方や他者とのかかわりに悩む、名前も顔も知らぬ同胞たちにも通じうると信じている。もしもこの本が、絶望に満ちた世界の小さな風穴になることができたら、この上ない幸福だ。
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佐々木ののか さん × 牟田都子 さん
4月9日(土)15時~16時20分 《アーカイブ配信あり》
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佐々木ののか さん × 安達茉莉子 さん
4月16日(土)15時~16時20分《アーカイブ配信あり》
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