亜紀書房の本 試し読み あき地編集部

2021.10.11

23及川健二編『本当に野党ではダメなのか?』——大塚耕平「国民民主党」代表代行に聞く



アベノミクスであなたは豊かになりましたか?
なぜ賃金がずっとあがらないままなのでしょうか?
日本はなぜ景気が浮上しないのでしょうか?


野党の経済政策のポイントを網羅した『本当に野党ではダメなのか?』
一部内容を抜粋し、試し読み公開します!

私たちの生活そして未来を託すべき政党はどこか——
来る総選挙(10月19日公示・31日投開票)に備えて

知るべき情報がこの一冊に!

 



参議院国家基本政策委員会委員長の
大塚耕平「国民民主党」代表代行に聞く

「教育と科学技術に賢く使い、賃金の上がる経済を実現する!」

 

――欧米はコロナ不況からGDPがⅤ字回復しています。なぜに日本経済はコロナ不況から脱出できないのか、脱出するには何が必要でしょうか。

大塚:先ほどの所得や消費の話と関係しています。現在「K字回復」と言われていますが、企業、産業とも、業績が改善している先と、低迷している先に二極化しています。繰り返しになりますが、法人税収も増え、税収全体では二〇二〇年度は過去最高です。問題は、それが日本経済全体にフィードバックされているか、家計や勤労者に還元されているかという点です。冒頭「賃金が上がる経済」を目指すと言いましたが、欧米に比べると比較にならないほどフィードバックや還元の「パイプ」が細過ぎます。「K字回復」「K」の右上の線が上向きになっている部分の効果が家計と賃金に及べば、それらは消費に回るはずです。経済のトランスミッション(波及経路)メカニズムが機能していない、あるいは壊れてしまっていることが、日本経済がコロナ禍からの立ち直りが力強くない最大の原因です。つまり、経済の循環システムが十分に機能していないのです。


――この三〇年間で拡大し続けてきた格差は、どう是正していけばいいのでしょうか。小泉純一郎政権が最大の引き金になったとも言われますが。

大塚:それも「賃金が上がる経済」に関わってきます。二点、申し上げます。一つは「賃金が上がる経済」を実現するために、企業収益が社員の給料や家計に波及していくためのトランスミッションメカニズムを組み立て直すことです。人件費比率によって法人税率の差を設ける等々、具体的な政策手段については工夫が必要です。もう一つは、所得税率の累進度を上げること等によって、所得再分配機能を高めることです。あるいは、法人税率を上げて財源を確保し、所得再分配に振り向けることです。これらの点は、米国バイデン大統領の一般教書演説の内容と重なる部分です。バイデンスピーチは非常によかったと思います。問題は、言ったとおりに実現できるかどうかです。それは日米共通のハードルであり、重要なポイントですね。


――米国のバイデン政権の経済政策で参考になった点は他にありますか。

大塚:バイデン大統領は一般教書演説で「格差を放置するべきではない」と明言し、「公平性を調整する局面である」という認識を述べ、企業や富裕層に堂々と税負担を求めました。非常によかったと思います。また、先ほど申し上げた「ハイパー償却税制」に関係しますが、バイデン大統領は産業政策についても大胆な言及をしました。対中国戦略ということも影響していますが、半導体等の重要分野の産業政策に「国策的」あるいは「国家戦略的要素」を色濃く出したことは参考になりました。私自身も常々そう思っています。企業や産業のプライオリティ付けを戦略的、政策的に行い、技術革新等の具体策については「ハイパー償却税制」等で自由で自発的な対応を促すという構図です。
 私の世代、あるいは私たちより上の世代は「ケインズ」と「マルクス」に傾倒し、「資本主義」対「社会主義」という対立軸の中で経済政策を理解し、考えてきた傾向がありますが、今や共産主義国家の中国が「国家資本主義」を謳って自由主義経済体制の中で影響力を高めている状況です。「共産主義」の名の下に「資本主義」を行っているという二〇世紀の常識では説明できない状況です。一方、日本では自民党が表向きは「自由民主主義」を謳いながら「社会主義的」な政策を行い、日本の限界を露呈しています。もはや「資本主義」対「社会主義」というガラパゴス的対立概念では説明できない経済状況になっています。今や国家戦略として、あるいは国策として産業政策を行うことが必要な環境と局面に入っています。「それは自由主義に反する」と反論されるかもしれませんし、「規制緩和に反する」という視点から、竹中平蔵さん的立ち位置の人々からは批判されそうですが、もはやそういうレスポンスそのものが現実と乖離していると思います。


――今、お話に出た二点を詳しくうかがいたいのです。一つは、自民党が「社会主義的政策」というのは、どういうことか。二つ目は、竹中平蔵さんについてです。「小泉改革」以降は、「民主党」政権を除けば、竹中平蔵さんが常に経済ブレーンでした。自ら規制緩和を推進しておきながらパソナに利益誘導するなど、竹中さんの言動には問題点が多く、批判も受けやすい。

大塚:一点目ですが、自民党が本気で適切な社会主義政策を行っていれば、今とは違う社会や経済が構築されていたかもしれません。例えば社会保障制度について考えると、自民党は社会保障制度を「利益誘導的」に使った面があると思います。医療政策が典型例の一つであり、コロナ禍で問題点が浮き彫りになっています。膨大な医療予算を使ってきたものの、欧米よりコロナ感染者が桁違いに少ないにもかかわらず医療リソースが逼迫している状況は、そうした視点抜きには説明がつきません。
 年金にも同様の傾向が指摘できます。公的年金制度を作ったのはよいけれども、それを「利益誘導的」な目的に悪用したとも言えます。厚生年金の保険料財源を不要不急のインフラ建設や厚労省官僚の天下り先の公的組織に回してきた歴史があります。二〇〇四年の年金国会で、一九七〇年代に年金担当の官僚幹部がある雑誌の中で「年金財源はドンドン入ってくるので、ドンドン使えばいい」という趣旨の発言をしていたことが明らかになり、物議を醸しました。ほかにも象徴的な逸話があります。昭和四〇年代後半(一九六〇年代前半)の大蔵省事務次官が退官した後に、ある雑誌の中で次のような趣旨のことを語っています。曰く「田中角栄首相は『社会保障が票田になる』と認識し、社会保障政策にそのような視点から取り組んだ」とのことです。時代的にも社会保障制度構築の必要性があったことから、田中首相のそうした対応がうまくはまったと言えます。田中首相は公共事業に注力した、公共事業の権化という印象が流布されていますが、調べてみると、公共事業予算を増やしたのは首相就任直後の補正予算だけです。翌年度の当初予算では社会保障予算が激増し、その年度から社会保障予算が予算の中の最大項目になりました。その過程で田中首相は「社会保障は票になる」ということを大蔵事務次官に対して語っていたようです。そのことを退官した大蔵事務次官が雑誌の中で述懐しているのです。そうした経緯を踏まえて考えると、医療政策や年金制度の中身、社会保障制度への予算投入も「利益誘導的」「選挙対策的」なバイアスがかかっていたと想像できます。その結果が今日の医療や年金の現実です。その歪みは日本の社会システムや経済システムの構造問題や予算の肥大化や硬直化の原因の一つにもなっています。 これが、一点目の質問への回答です。
 二点目の質問についてですが、竹中さんは「規制改革・自由化」を推奨し「硬直化した規制や制度に揺さぶりをかける」という論陣を張ってきたものの、結果論的に言えば、その一方で自分に関わる分野で「新たな規制」を創ったり「利益誘導的」と指摘されても仕方がない「規制緩和」を行ってきたと言えます。結局、本当の意味での「規制改革・自由化」にならなかったことは、経済や産業の現実が何よりの証左です。結果が全てを語っています。

 

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大塚 耕平(おおつか・こうへい)
小選挙区(愛知県)選出、参議院議員。国民民主党
一九五九年愛知県生まれ。早稲田大学政経学部を経て、日本銀行に入行、金融政策の運営や経済分析等を担当◎日銀在職中に早稲田大学大学院博士課程修了(学術博士、専門はマクロ経済学)◎内閣府副大臣、厚生労働副大臣を歴任◎早稲田大学総合研究機構客員教授、藤田医科大学医学部客員教授◎著書に『3・11大震災と厚労省』『「賢い愚か者」の未来』など。当選四回

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《『本当に野党ではダメなのか?』試し読み》
江田憲司「立憲民主党」代表代行に聞く
大門実紀史「日本共産党」参院国対副委員長に聞く
大椿ゆうこ「社会民主党」副党首に聞く

 


本当に野党ではダメなのか?——
野党が掲げる成長のための経済政策
及川健二 編 税込1650円


【目次】
■まえがき
経済政策担当の江田憲司「立憲民主党」代表代行に聞く
大門実紀史「日本共産党」参院国対副委員長に聞く
■藤田文武「日本維新の会」国会議員団広報局長に聞く
■参議院国家基本政策委員会委員長の大塚耕平「国民民主党」代表代行に聞く
非正規労働者出身、大椿ゆうこ「社会民主党」副党首に聞く
■元金融マン、北村イタル「れいわ新選組」衆議院東京都第二区総支部長に聞く
■浜田聡、旧「NHKから国民を守る党」政調会長に聞く
■落合貴之「立憲民主党」政調副会長に聞く
■浅田均「日本維新の会」政調会長に聞く
■政界を引退した亀井静香、元金融相に聞く
■今や国是となった積極財政。次なる論点はその金額だ。――池戸万作
■あとがき