亜紀書房の本 試し読み あき地編集部

2022.9.6

43【対談3】小田嶋隆さん×渡辺由佳里さん 「政治的発言をしちゃいけないの?」

 


 2022年6月24日、『日本語を、取り戻す。』の著者である小田嶋隆さんがお亡くなりになりました。2020年9月に刊行した『日本語を、取り戻す。』は、朝日新聞、日経新聞、産経新聞、地方新聞、サンデー毎日などたくさんの新聞雑誌で取り上げられて、多くの方に手にとっていただきました。


 2020年10月29日、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』の著者である渡辺由佳里さんと小田嶋さんによるオンライントークイベント「政治的発言をしちゃいけないの」を開催しました。2020年11月のアメリカ大統領選直前の対談です。イベントは多くの方に視聴していただき、好評を博しました。

 今回は、小田嶋さんのご家族と渡辺由佳里さんのお許しを得て、部分ではありますが、イベントの映像とテキストとを合わせて公開いたします。

 小田嶋隆さんのご冥福を心よりお祈りいたします。──亜紀書房

 

 

小田嶋隆さん×渡辺由佳里さんの対談
「政治的発言をしちゃいけないの?」

▶︎【対談1】はこちら
▶︎【対談2】はこちら


「政治に関心のあるやつはヤバイやつ」の弊害

 

※本映像には一部乱れがあります。あらかじめご了承ください。
※視聴期間は2022年10月30日までを予定しています。


映像の続き

 

男性の理想の女性像から自由になる

小田嶋 ずっと広告業界の中にいた仲の良い友人に聞いた話なんですが、外国の人が日本のコマーシャルを見ると「どうしてこの人たちはこんなに小鳥みたいな声でしゃべるんだ」って言うらしいんです。彼らは大人の女たちが高い声を出して話しているのをすごく不思議がる。

渡辺 それ、分かります。アメリカに住み始めてしばらくは日本のものが恋しくて、日本の雑誌を定期購入したりしていました。そのとき誰かが日本のテレビをビデオテープに録画して送ってくれたんですが、声がキンキンうるさくて、心がとげとげしてきちゃって見られませんでした。

小田嶋 それでも今のテレビの女優や女性のアナウンサーの声は、ほんの少しですが低くなっています。ケーブルテレビで80年代のバラエティ番組を見ると、どこから声を出しているんだろうってくらい高い。そこから考えると、さすがに日本人も少しは落ち着いた声でしゃべる人がちらほら現れてきたのかなとは思います。

渡辺 でも、ああいう高い声を自然に出すようになる、なんてことはあり得ません。つまり小さい時から、若くてかわいらしい女性がチヤホヤされ、女性はある年齢を過ぎたら価値が低くなるよ、ということをずっと刷り込まれてきたということです。刷り込みの力ってすごく大きいと思うんです。先ほどの回答者の男性もたぶんそういう刷り込みのある世界で生まれ育ち、大人になってからも周りを囲む人たちが同じような刷り込みを持った人たちだったということがあると思うんです。

小田嶋 女性のアナウンサーのことをわざわざ女子アナって言うでしょ。80年代は女子アナは28歳くらいで辞めなければいけない、という空気がありました。今は30歳を過ぎても自分がやりたいならいつまでも、というふうに変わってきていますよね。

渡辺 女の子が大人になっていく過程で、お手本になるような人が周りにいない場合はテレビなどのメディアに出ている人を見て学ぶということがあります。でも、本当に成熟した女性って、そもそもあまりテレビに出ていないですよね。とんでもない女性の方が出ていたりするでしょう。男性社会に認められるためにミソジニストになってしまった女性とか。ミソジニストのお化けのような高齢の女性が出てきてお説教を始めると、それを見た女の子たちが、あぁこういうふうにならなきゃいけないんだなと思ってしまう。もちろん全員ではないかもしれないけれど、そういうふうに思ってしまったり、こうならないと叩かれるんだなと学んでしまう女の子はすごく多いと思うんです。


テキストの続き

 

※本映像には一部乱れがあります。あらかじめご了承ください。
※視聴期間は2022年10月30日までを予定しています。

 

映像の続き


渡辺 アメリカにもいます。驚くような人がトランプ信者だったり。わたしの知り合いに、ご主人がトランプに投票したことが分かって、奥さんが激怒して子どもが仲裁にはいっておさめた家族がいるんです。彼は本当にいい人で努力家で、高等教育を受けてきて、大きな企業の重役も務めていました。子育てもしているし、子どもたちもBLMの抗議に行くようないい子たちなのに、なぜそのお父さんがトランプを支持するんだろうって、みんなでびっくりしました。実は彼は中西部の農家で育ち、努力して高等教育を受けて大学院に行った人でした。きっと努力もせずに文句を言うやつらだと思っていたんだろうなと推測しているんです。この彼のように、ルーツに理由がある、というのはありますよね。

小田嶋 あると思います。ホイットニー・ヒューストンの伝記映画を見たんですが、彼女は芸能界で成功するためにお母さんに育ちのいい振りをさせられていたらしいんです。育ちのいいっぽい英語を使い、育ちのいいっぽい振る舞いをさせられていた。見た目もきれいだし、いいところのお嬢さんというイメージでまんまと売れたんですが、本当は比較的貧困層の中で育ったはすっぱな女の子だったらしいんですよ。成功したあとに母親に反発して、小さい頃から馴染みの深い貧困層の黒人の価値観を体現しているようなボビー・ブラウン(アメリカのRBシンガー)というやんちゃな男性と結婚して、そこからずるずるドラッグにはまっていくという話でしたが、やっぱりルーツの話ってなかなか根深いものがあるのかもしれませんね。

渡辺 だからこそ、個人を叩くのではなく、社会全体で、変わっていく必要があるんだと思いますね。

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▶︎【対談2】はこちら

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 日本語を、取り戻す。
■小田嶋 隆/著
■四六判・並製、312ページ
■ISBN:978-4-7505-1660-8 C0095
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■電子書籍も好評発売中

 

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ベストセラーで読み解く現代アメリカ

渡辺 由佳里 /著
■四六判・並製、368ページ
■ISBN:978-4-7505-1626-4 C0095
■書籍の詳細、購入はこちら
■電子書籍も好評発売中

 

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