亜紀書房の本 試し読み あき地編集部

2022.8.24

41【対談1】小田嶋隆さん×渡辺由佳里さん 「政治的発言をしちゃいけないの?」

 


 2022年6月24日、『日本語を、取り戻す。』の著者である小田嶋隆さんがお亡くなりになりました。2020年9月に刊行した『日本語を、取り戻す。』は、朝日新聞、日経新聞、産経新聞、地方新聞、サンデー毎日などたくさんの新聞雑誌で取り上げられて、多くの方に手にとっていただきました。


 2020年10月29日、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』の著者である渡辺由佳里さんと小田嶋さんによるオンライントークイベント「政治的発言をしちゃいけないの?」を開催しました。2020年11月のアメリカ大統領選直前の対談です。イベントは多くの方に視聴していただき、好評を博しました。

 今回は、小田嶋さんのご家族と渡辺由佳里さんのお許しを得て、一部分ではありますが、イベントの映像とテキストとを合わせて公開いたします。

 小田嶋隆さんのご冥福を心よりお祈りいたします。──亜紀書房

 

 

小田嶋隆さん×渡辺由佳里さんの対談
「政治的発言をしちゃいけないの?」

▶︎【対談2】はこちら
▶︎【対談3】はこちら


親しみを感じさせてしまう、トランプの英語力

 

※本映像には一部乱れがあります。あらかじめご了承ください。
※視聴期間は2022年10月30日までを予定しています。


映像の続き


小田嶋 トランプの英語は、たとえばヒスパニックの方や、アメリカに来て間もない方にも全部分かるものですか。

渡辺 分かりますね。オバマ前大統領の演説は、ある程度の教育を受けていないと何を言っているのか分からなかった。でも、あれが彼にとっては自然だったんです。私たちは彼の演説を聞きながら、「やっぱりオバマは賢いな」と憧れの目で見るのですが、トランプのファンにとっては「自分たちに分からない言葉を使って気取ってる」「上から目線」と感じるようです。それに比べて、トランプは自分たちと同じ目線に立って、直接語り掛けてくれていると感じるのかもしれませんね。トランプはそれを直感的に摑むのがすごくうまい。

小田嶋 プロレスの演出から学んだのかもしれませんね(トランプは過去に米国の世界的プロレス団体WWEのリングに上がったことがある)。日本でも宮澤喜一さん(政治家。第78代内閣総理大臣)のしゃべり方にはちょっと厭味ったらしい教養的賢さがあって、あれを嫌っている人が結構いました。オバマもそれに近い目で見られていたのかもしれませんね。

渡辺 民主党の大統領はこれまでいつも非常に高い教育を受けてきた人たちが中心で、そうすると言葉の語彙がどうしても大学レベルの単語になってしまうんですよね。

小田嶋 ヒラリー・クリントンもそうですか。

渡辺 いえ、ヒラリーはすごくかみ砕いて話していました。彼女はそれを意識してやっていたし、ビル・クリントンも上手でしたね。彼も南部の男性のやわらかい言葉で話しかけるので、彼に魅了されて投票したアメリカの人って結構いるんですよ。

小田嶋 彼は声も渋かったですね。


* * *

 

分断が選挙を盛り上げる?

渡辺 ニューハンプシャーで出会ったトランプのファンの中には、これまで一度も投票したことがないという人がかなりいました。その人たちがやる気満々に「こんなに私たちを鼓舞してくれた人はいない」と自分の庭にヤードサイン(自分の支持する候補の名前を掲示するための看板)をいっぱい立てたり、近所の人たちを呼んで政治集会のようなものまで開いていました。

小田嶋 2015年に日本で「反知性主義」という言葉が流行りました。小中高とわたしの同級生だった森本あんり氏がホーフスタッター(アメリカの政治史家。1916~1970)の本の解説本のようなものを書いて話題になりました(『反知性主義』新潮選書)。反知性主義そのものではないかもしれないけれど、日本にも似た動きがあります。たとえば、維新の会の議員たちは、たぶんトランプの真似をしている部分がある。わざと簡単な言葉でメディアと学者とインテリと役人を意識的に攻撃することで、彼らに反発心を抱いてきた人たちの間に初めて自分たちの代表ができた、という気持ちが広まっています。どうやら自民党もそれを取り込もうとしているみたいに見えます。

渡辺 危ないですね。

小田嶋 たとえばアメリカだと人種や性別、南と北のように分断の在り方がたくさんあるでしょう。日本はわりと均一な社会だから、そんなに分かりやすい分断ってないんですよ。しいていえば、大卒と高卒の間に一本だけ曖昧な線が引ける。その線を票集めに利用しているのが維新の会じゃなかろうか、とわたしは見ています。だからトランプがとった方法って、すでに世界的に応用されているんじゃないかという気がしてしょうがないんです。

渡辺 安倍さんの「日本を、取り戻す」も「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」そのものですよね。まるでそのまま翻訳したような。

小田嶋 政治家が利口ぶったことを言うのがリスクになり、そんなに利口じゃないんだよっていう振りをしたがることがありますよね。

渡辺 歴史って振り子のようにあっちいったり、こっちいったりするものだと思うんです。

小田嶋 オバマさんが知性主義の一番の極にいたから、その反動もあるかもしれませんね。

渡辺 バーニー・サンダーズ(2016年の大統領選の民主党予備選挙でヒラリー・クリントンに敗れる)の支持者にもすごく極端な人が多かった。その中でもわたしが一番憤りを感じたのは、バーニーのファンの若い女性たちがミソジニストになっていたことでした。ミソジニーの男たちに囲まれて洗脳されていたんです。

小田嶋 自民党の女性議員みたいな感じですか。

渡辺 そこまでではないんですが、スーザン・サランドン(アメリカの女優)がインタビューで言った「ヒラリーの方がトランプよりも危険な人物だ」と同じようなことを左派支持の女の子たちが繰り返していましたね。

小田嶋 日本から見ていると、ヒラリーさんの嫌われ方がいまいちよく分からなかったんですよ。

渡辺 ヒラリーには1993年にビル・クリントンの妻としてファーストレディになってから今までの30年間の歴史があります。その間にいろんなことがあったわけです。誰もパーフェクトな人間ではないし、失敗もします。彼女の場合はさらに、言いたいことを言ってきたという経緯がある。でも総合的に見て、彼女ほど抑圧されている人々のために声を上げた政治家はいません。でも、彼女を支持するのは「かっこ悪い」ような雰囲気になってしまったところがありますね。女性にもミソジニーの人はたくさんいます。

小田嶋 女性の中に、エリートで強い女性に対しての反発があるということですね。

渡辺 うちの義母がまさにそうです。どこが嫌なんですかって聞いても、とにかく嫌なんだと。自分が批判されているような気がするんじゃないかと思います。


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 日本語を、取り戻す。
■小田嶋 隆/著
■四六判・並製、312ページ
■ISBN:978-4-7505-1660-8 C0095
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■電子書籍も好評発売中

 

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ベストセラーで読み解く現代アメリカ
■渡辺 由佳里 /著
■四六判・並製、368ページ
■ISBN:978-4-7505-1626-4 C0095
■書籍の詳細、購入はこちら
■電子書籍も好評発売中